告白?
彩さんの事が、不思議で不思議で仕方なかった。
でも、考えても分かるわけないから、とりあえずその事は頭から追い出した。
今は慣れていないお粥を作るんに、全力を尽くそう。
「お粥とか一回作ったぐらいやからなぁ」
全然自信なく作ったけど、だんだんいい匂いがしてきた。
味見してみるけど、普通に美味しい。いける。
案外作れるもんやん。と、自分に感動してたら、うちの携帯がなった。
「もしもし。うん、そう……うん…大丈夫。はーい、おやすみ」
電話を切ってちょっとため息。お父さん、今日は仕事で帰って来れへんらしい。
あっ、でも、今日は帰って来られても困るな。
翔太くんが家で寝てるん見たら、ビックリして気絶しそうやし。
「彼氏君?」
いつの間にか起きてた翔太くんが、楽しそうに笑いながら聞いてくる。
顔色がさっきより良くなってるから、安心した。
「んなわけないやん。彼氏おったらアンタなんか家に入れへんわ」
キツイ言い方になったけど、彼は全然凹んでるようには見えへんから大丈夫やろ。
体温計を渡して測ってもらったら、だいぶ熱は下がってた。
凄まじい回復力やなぁ。
「食欲ある? お粥作ってんけど、食べる?」
「うん」
これで食べへんって言われたらどうしよかと思ったけど、食べてくれるらしい。
お父さんのお茶碗に入れて渡す。
「熱いから気ぃつけてな」
「ありがとう」
「……あっ、おいしいよ」
一口食べて、うちが感想を待ってる事に気づいて、おいしいって言ってくれた。
心の中でガッツポーズ。うちはやれば出来る子や。
「あのさ、彩さんって誰?」
無言で食べ続けてた翔太くんの手が、ピタッと止まった。
「誰に聞いた?」
そう言う彼の顔は、すごく怖くて思わず身を引いた。
すごい突っ込んだらアカン事を聞いてしまったらしい。
でも、ここまで来たら引き下がれへん。
「翔太くんが、さっき寝ぼけて言ってた」
うちが彩さんになりきってたんは、黙っておこう。怒られそうやから。
そしたら翔太くんは、ため息をついてお粥を食べ直す。
「聞いたらアカンって思ってんけど、だって、しゃあないやん! そっちが勝手に言ってんから!」
焦って思ったより大きな声が出てしもた。
翔太くんはもう一回ため息をついて、うちの顔を見る。
「俺が好きだった人。それだけ。報われなかったけどね」
なんや、付き合ってなかったんか。でも、だいたいは想像と合ってた。
でも、それでもまだモヤモヤしてんのは、きっとこいつの涙のせいや。
何で泣いてたんかが気になってしゃあない。
「泣いてた、何で?」
恐る恐る片言で聞くと、また翔太くんの手が止まった。
あぁ、地雷踏んだな。って反省してると、怖い顔でこっちを見てくる。
「何でアンタに言わなきゃなんないの? アンタ俺の何さ。興味本位で何でも聞いてくんな」
一言一言がグサッと突き刺さる。泣きそうになるんを耐えるので精一杯。
そんな冷たいこと言わんで良いやんか。そりゃ、興味本位っていうのはあるかもしれへんけど。
「ごめん。でも、気になるから。自分でも何でか分からんけど、アンタの事気になんねんもん」
言ってから気づいたけど、これって告白?
いやいやいや、好きじゃない。ただ、気になるだけ。何を考えてんのか、知りたいだけ。
「それって告白? 悪いけど、俺彼女いるから」
なんか断られた。別に告白したわけじゃないけど、悲しくなってくる。
止められるわけない涙が次々出てくる。
「ごちそっさん」
翔太くんはお粥を全部食べ終わって、服を着替えて荷物をまとめている。
女の子が泣いてる前で、こいつはよく冷静でいれるな。
「お粥ありがと。んじゃ、また明日学校で」
そう言って靴を履いて帰ろうとするから、うちは慌てて腕を掴んだ。
別に何か言いたいわけじゃない。口開いたら大声で泣きそうやから、何も言えへん。
でも、帰ってほしくなかったのはホンマ。
「……俺はやめとけ」
最後に意味深な言葉を残して、翔太くんは腕を振り払って家を出て行った。