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高校生活  作者: 黒猫
16/23

彩さん


 家に入れて、とりあえずさっさとシャワーを浴びてもらう。

 何をしたらいいのか分からんかったけど、体は温めたほうが良いと思ったから。


「翔太くん。ここに置いとくから、着替えてな」


 タンスの奥底に入ってたお兄ちゃんのジャージを見つけて、風呂のドアの前に置く。

 中から、ありがとう、という声が聞こえたような気がするけど、シャワーの音でよく聞こえない。


 その間に、暖房をつけたり、布団を敷いたりと、テキパキ動く。

 着替え終わった翔太くんは、家に帰るんを諦めたらしく、大人しく座ってる。


「吐くときはここに吐いてな。んで、熱測って」


 バケツを枕元に置いて、体温計を手渡す。

 我ながら、よく動いてると思う。良いお母さんになるわぁ。

 感心してたら、体温計がピピッと鳴った。

 なんと彼の現在の体温、39.7℃。もうちょっとで四十いくやん。


「アホやなぁ」


 病人にたいしての第一声がこれ。思わず口から出てもうた。

 でも、しんどいんかして全く反応してくれへんから、つまんない。


「薬飲んで、寝といて。お粥作ったるから」


 救急箱からかの有名な風邪薬を出して、コップに水を入れて枕元に置いた。

 家に入れる前に躊躇ってたのが嘘みたいに、うちは自ら動いてる。


「……気持ち悪い」


 ポツリとした彼の呟きを聞いて、うちは慌ててバケツを向けた。

 彼はしんどそうに吐いて、うちはその背中をさすった。

 一通り吐き終わって、薬を飲んで静かに眠ったのを見届けて、うちは家を出た。

 お粥の材料を買いにスーパーまで自転車をこぐ。

 そうや、ついでに熱さまシートでも買って行こうと思って、近くの薬局にも立ち寄る。


 家に帰ったら、翔太くんがいなくなってらどうしようって思ってたけど、ちゃんと布団で寝てた。

 勝手に熱さまシートを額に貼ると、ちょっと体を動かしたけど、起きる気配はない。

 お兄ちゃんのジャージを着て、うちの布団で寝てる同級生を見て、不思議な気持ちになったけど、考えやんようにした。

 考えれば考えるほど、自分の行動が馬鹿らしくなってくるから。


 それにしても、こうやってマジマジ見ると、やっぱりかっこいい。

 神様って不平等屋と思う。こんなに明るくて人気ある奴が、こんなにかっこいいし。

 あっ、かっこいいから人気があんのかな?

 それに比べてうちは、可愛くないし、友達も少ないし……。


「ずるいねんボケ」


 そう言って頬を突っついてみると、翔太くんが目を薄く開いた。

 あっ、ヤバ。起したかな?


「ごめん。もうちょっと寝てて良いで」

「……彩さん?」


 慌ててフォローすると、翔太くんは寝ぼけた声で呟いた。

 何て言ったん? 彩さんって名前?

 なんかよく分からんけど、面白いから彩さんになりきってやろう。


「そうだよ。彩さんだよ」

「俺、死んじゃったの?」

「そんなわけないじゃん。生きてるよ」


 使い慣れない標準語やけど、優衣の影響でちょっと上達してる気がする。


「そっか。じゃあ、これは夢か」

「……そうだね」

「じゃあ言いたいこと、全部言っとこうか」


 翔太くんの言葉を聞いて、つい身構えてしまう。

 言いたいことって何なんやろ?うちが聞いて良いんかな?

 でも、うちの戸惑いも無視して、翔太くんは話し始める。


「ボケ、アホ。大バカヤロー」


 え?言いたいことってそれ?そんなに彩さんが嫌いやったんかぁ。

 笑いを堪えてると、翔太くんの表情の変化に気づいた。目に涙が溜まってる?


「ごめん、好きだよ。大好きだった。だから……帰ってこいよぉ」


 最後の声は今にも消えそうな、弱々しい声やった。

 溜まった涙が、綺麗に一筋流れていくのを見て、うちは複雑な気持ちになった。

 こんなん聞いて良かったんか? いや、アカンやろ。

 でも、彩さんって誰?


「翔太くん?」


 呼びかけても、翔太くんはまた眠りについたらしくて、返事してくれへん。

 あんなん聞いたら。気になってしゃあないやん。

 元カノっぽいから、余計気になる。

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