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高校生活  作者: 黒猫
15/23

土砂降り


 優衣は黙って最後まで話しを聞いてくれた。

 聴き終わってから、すごい難しい顔をして俯いていた。

 うちがドキドキしながら話しだすんを待ってると、優衣がやっと顔を上げた。


「これからは、翔太に近づかない方が良い。アイツ、たまに歯止めが利かなくなるから」


 そうやって注意する優衣の顔は、どこか寂しそう。

 そう言えば、優衣と翔太ってどういう関係なんやろう?

 普段はそんなに仲良さそうに見えへんけど……。


「あっ、翔太と私、中学が一緒でさ」


 うちの疑問に気づいてくれて、ちゃんと説明してくれた。

 中学が一緒ってことは、中学生の翔太くんを知ってるってことかぁ。

 中学の頃の彼ってどんな感じやったんやろ?


「なぁ、何で特にうちなん?」


 ずっと疑問に思ってたことを、何気なく口に出してみた。

 そしたら優衣は、言っていいのか分からない、というような顔をした。

 この調子やと、本人に聞いたほうが良いんかもしれへんな。


「まー良いや。そんな事より、校外学習一緒に回ろな」

「うん」


 まだ優衣は何か言いたそうやったけど、無理やり会話を終わらせた。

 南 翔太。謎が深まるばっかやなぁ。







 数日経った日の放課後、うちは教室で一人残っていた。

 校外学習の場所の候補が決まったから、それぞれ業者とかに電話をするために。

 優衣が一緒に残ろうかと言ってくれたけど、遅くなるからって先に帰ってもらった。

 学級委員としての仕事は、やっぱり大変や。


「はい、お願いします。はい、はい、失礼します」


 最後の電話をかけ終えて、うちは携帯の通話終了ボタンを押す。

 なかなか疲れた。意外と団体の学生はアカンってところが多かったなぁ。

 それに予約がもういっぱいのところとかもあって、結局行けるんは優衣が言ってたところだけになった。


「ヤバ。もうこんな時間か」


 時計に目をやると、もう午後六時になる数分前やった。

 そういえば最終下校の放送がなったような気もする。


「さて、帰ろ」


 鞄を持って、電気を消して鍵を閉めて、うちは教室を出た。

 外はまだ肌寒くて、校舎から出て身震いする。

 気づかんかったけど大雨が降ってた。

 鞄の中に入ってた折りたたみ傘を差して、うちは歩き出す。


「さようなら」


 門の前に立っていた先生に挨拶して、うちは自転車をこいで学校を出た。

 寒いなぁと思いながら、自転車を飛ばして走る。

 別に急いでるわけじゃないけど、薄暗いのが気味悪くなってきたから、家に入りたかった。

 家に近づいていくと、アパートの前に何かがいるのが見えた。

 なんなんやろ。怖いなぁ、もう。

 文句をブツブツと言いながら、ゆっくり自転車をこいでいくと、だんだん人の顔がハッキリと見えてきた。


「あっ、翔太くん」


 思わず声に出して名前を呼ぶと、翔太くんは気まずそうな顔をしてこっちを見た。

 傘もささんと立ってたから、頭からずぶ濡れになってる。

 目の前で自転車を止めて、黙ってうちも顔を見た。

 この前の事件以来、喋るんは初めてや。

 あの事を思い出すと怖いけど、優衣の話も気になって仕方がない。


「笹岡」

「うん」

「この前はごめん」


 いきなり謝られたけど、うちは驚きはしやんかった。

 なんとなく、それを言いに待ってたんやろうって事は分かったから。


「何であんなコトしたん?」


 真剣な顔で尋ねたら、翔太くんは言いにくそうな顔をした。

 事情があるんやけど、言おうか言わないか迷ってる、って顔。


「本当にごめん」


 立ち上がって謝った翔太くんの体が、ふらついているのが分かった。


「なんか、ふらついてない?」


 気になって聞くと、翔太くんは何も答えへんけど、明らかにふらついてる。

 息遣いさえもしんどそうに見える。


「それ、言いたかった、だけだから。じゃあまた明日」


 そう言って自転車にまたがろうとするけど、そのまま自転車を倒してしまう。

 うちは、ゆっくりと自転車を立てなおして帰ろうとする翔太くんの手を掴んだ。


「冷たっ」


 思ったより冷たい手に驚いて、うちは咄嗟に手を離した。

 一体何時間待ってたらこんなに体が冷えるんやろ?

 何でか分からんけど、カッターシャツの上に何も羽織ってないから、余計に寒かったやろうなぁ。


「家に誰かおる?」


 うちが心配になって聞くと、翔太くんは力なく首を横にふった。

 このまま家に帰して、一人にするのは心配や。親がおったらまだしも。

 だからってうちの家に入れるんは、この前みたいな事があったら怖いし……。


「帰るから、大丈夫」


 そう言ってこっちを見ている目は、熱のせいで潤んでいる。

 アカン。このまま放ってなんかおけへん。ごめん、優衣。忠告無視する。

 うちは、もう一回翔太くんの手を掴んで、こっちに引き寄せる。


「家入っていいよ」


 ダメやと思ってても、うちの口はそう言っていた。

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