翔太くんの家
「着いたよ」
翔太くんが自転車を止めて振り返る。
見た目はうちのアパートと似たりよったり。とてもじゃないけど、高級とは言えない。
イメージではもっとお金持ちで、大きい一軒家に住んでそうやのになぁ。
「ちょっと散らかってるけど」
そう言って部屋に入れてくれた割には、片付いて見えた。
というか、物が少ない。必要最低限の物しか置いてませんって感じ。
「……ああいうんは、隠しといてくれへん?」
パッと目についたエロ本を指さして、すごく嫌そうな顔で言ってやった。
男の子ってやっぱりこういうの読むねんなぁ。
せかせかとエロ本を隠して、お茶を入れてくれる。
なかなか気の利く男だ。
「俺の母親がさ、あの小説家好きで、集めてんだ」
そう前置きして、大きな本棚から数冊本を抜き出した。
見たことがある本もあるけど、初めて見る本も数冊。
「全部読みたい!」
うちは嬉しくなって、キャッキャと喜びながらそれぞれ手にとって眺める。
一日一冊読んだとしても、一週間で読みきれる。
「ねぇ、千幸ちゃん」
「何?」
盛り上がってるのに途中で声をかけられて、不満げに返事をする。
すると突然、翔太くんに押し倒された。
「なっ! な、何してるん!」
うちは必死になって抵抗するけど、腕掴まれたら動けへんようになった。
なんでこんな力強いねん。何、これ? 状況が分からへん。
「家に誰もいないって聞いて、危機感なかったの?無用心だなぁ」
そう言う翔太くんは、全然今までの優しい笑顔じゃなかった。……怖い。
どうしたら良いんか分からへん。
「や、やめて、よ」
声が震えて涙まで出てきた。この人怖い。誰?翔太くんじゃない。
しゃくりをあげて泣いてたら、手を掴んでた力が緩まった。
うちは慌てて翔太くんを突き放した。
「冗談だよ。そんな怯えた目で見られたら、何も出来ないじゃん」
冗談?意味が分からへん。
やっていい冗談と、アカン冗談の区別もつかへんの?
「……ごめん。イライラしてた」
うちが泣いてんの見て、翔太くんまで泣きそうな顔で謝ってきた。
頭が混乱して、何も考えれへん。
「帰る」
それだけ言い残して、うちは早足で家から出た。
一秒でも早く、この空間から逃げ出したかったから。
さっきのあれは、ホンマに翔太くんやったんかな?って思うぐらい別人みたいやった。
あんな怖い顔してんの、見たことなかった。
何であんな事したんやろ?
家に帰るまでに冷静になった頭で考えてみても、答えが出るはずもなかった。