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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
3/28

3話 逆転

静岡 山鳴小学校元教師 比津島吾郎(ヒツシマゴロウ)

「轟…凛太ですか…これはまた、懐かしい名前が出てきましたね」

十年前に教師を引退した、元山鳴小学校教師。

「覚えてますとも。小学生に、握力が劣ると思ってませんでしたから」

「十七年前だったかな。小学三年の頃、轟君の担任になってね。あの頃は教室でやってましたね。握力測定」

「私はその時、六十キロはありましたね。小学生に負けるわけないと、思ってました」

「前の三年生の平均は、十キロ前後でした。ですが、轟君は、平均を上げるに至りませんでした」

「轟君が握っても、数値は出ませんでした。その測定器は、三キロ以下は出ないので、友達には弄られているようでしたが、私は測定器が壊れたと思い、新しいのと取り換えようと、教室を出たんです」

「そのときだったかなぁ、気づいたのは。測定器を見てみると、明らかにへこんでたんです。ぐにゃぐにゃに」

「気づきました。強すぎたんだなと。もちろん、壊れてるので取り替えましたよ」


「お?来たか」

凛太が声を上げ、リング下を見る。

「おぉ!龍一だ!新星龍一だ!」

観客が龍一に群がり、ワイワイ騒ぎだす。

龍一は、なんとか振り切ったあと、リング場に上がってくる。

「人気者だな。新星さん」

馬鹿にしたような言い方だった。

しかし、龍一は至って落ち着いていた。

それを見て、元々笑っていた凛太の口角が、さらに上に上がっていった。

「いいな。ただの力自慢ではないな」

凛太と龍一の間に、審判が挟まってくる。

あの真面目な審判だ。

「離れて」

審判の合図で、二人が離れ、睨みあいながら構える。

「始めぇ!」

開始の合図が、会場に響く。

それと同時に、凛太が走り出す。

そして、凛太が右腕を、龍一の腹に向かって振り上げる。

龍一は咄嗟に、腹に両腕を固める。

数瞬後、凛太のアッパーは、龍一の腕に激突した。

すごい力である。

腕でしっかりとガードをしたのに、腹に衝撃が伝わって、龍一がひるんでいた。

「らぁ!」

それを見逃さず、凛太はひるんだ龍一を、滅多打ちにしていた。

左ジャブ、右カーフ、中段回し蹴り、右ショートアッパー、後ろ回し蹴り。

龍一はその猛攻を、一撃一撃、ガードはできたものの、やはり衝撃は伝わってくる。

右腕の、真っすぐなテレフォンパンチが、龍一に襲い掛かってくる。

凛太の体重、おそらく九十キロ程度を乗せた、ぶん殴り。

凛太は、これで勝負を終わらせる気だろう。

しかし、終わらせようとしたのが、失敗であった。

龍一の動体視力は、ひるんだ状態でも、ガードができるほど。

テレフォンパンチを、食らうはずがなかった。

龍一はまず、テレフォンパンチを右に躱し、その後左手で凛太の顔面を打ち、右足を振り上げ、凛太の首に回転を合わせてぶつけた。

凛太の体は、大きく揺らぎ、地面に倒れた。

「おお!」

予想外の反撃に、観客たちは歓声を上げる。

「くそっ…」

凛太はぐらつきながらも、根性だけで立ち上がった。

「うおお!」

凛太が突っかかっていくが、龍一は冷静に、左ジャブを顔面にお見舞いする。

凛太の体が再びぐらつき、倒れるかと思われた瞬間。

ガシッと、龍一の左手首を掴んだのだ。

凛太の狙いは、これだったのだろう。

わざと冷静を欠いていると思わせ、相手が攻撃してくれるのを待ち、攻撃してきたら掴む。

凛太の握力は、凛太自身も知らない。

握力測定器で、測れなかったからだ。

しかし、解ることが一つだけある。

潰すには十分だということ。

凛太の拳に、万力の力が加えられる。

一気に、龍一の顔が青ざめる。

恐怖からくるものと、一気に血流の動きが変わったことによる現象であった。

骨の奥底の芯から、ミシミシと、古びた板材のような音が響く。

龍一は、咄嗟に身を退こうとする。

抜けない。

それどころか、足さえ動かない。

動かなかった理由は、二つあった。

一、龍一の退く力よりも、凛太の握力が上回ったから。

二、手首の動脈をせき止められ、足に血流が十分にいかず、力が込められなかったから。

轟凛太、時牧戦録九勝無敗。

その中の三試合、決め手は、首絞め。

頸動脈をせきとめることで、相手を失神させてきたのである。

通常の首締めは、呼吸を止めることで、酸素を少なくし、血を脳に行かせず、失神させる。

しかし、凛太の首締めは、頸動脈を直接締め、脳への血流を止める技であった。

「龍一ィ…。終わらせてやるぜ…」

凛太は笑いながら、左手の指を、おもむろに鳴らす。

察したかのように、龍一の左足が、凛太の右ふくらはぎを叩く。

「悪あがきだよ」

凛太の左腕が、龍一の首、頸動脈を捉える。

意識が遠のく。

しかし、距離は十分。

龍一の空いた右腕が、凛太の首に向かって飛んでゆく。

龍一の手の形は、正拳ではなかった。

中指から小指までは、正拳と変わらないが、人差し指が、第二関節のところでたたまれていた。

拳の名は、中国拳法の型の一つ、鳳眼拳(ホウガンケン)

龍一の、たたまれた人差し指は、人体の最大の弱点、喉を突いていた。

「おげっ」

凛太がえづき、龍一の手と喉から、両手を離してしまう。

凛太は、下がって距離を取ろうとする。

これが間違いであった。

龍一の足が浮き、凛太の首を蹴りつけたのだ。

凛太は距離を取ろうとし、龍一の蹴りの間合いまで、下がっていたのである。

喉への直接的な打撃二連発、耐える人間はそういないだろう。

凛太はブラックアウトしたかのように、地面にストンと落ちていた。

「勝負あり!」

審判の声で、試合が終わった。

勝者、霞原龍一。

リングの外、歓声を上げる観客にはなれ、数人の闘技者が、龍一を見ていた。

「面白い相手だな。全力をぶつけてみたい」

白い髪の、若い男が呟く。

身長は百八十、体重は九十だろうか。

街中に歩いていそうな、そんな男であった。

鋼山響十(ハガネヤマヒビト)

時牧戦録、十三勝無敗。

「ほほう。彼が、次の俺の対戦相手予定者か。」

百八十センチ、百二十キロといったところか。

黒い丸刈り、無精ひげを生やし、Yシャツからは、一目で強いと思わせるような、太い腕がはみ出ていた。

古八木智(フルヤギサトシ)

時牧戦録、十一勝無敗。


胸ポケットから、写真を取り出し、龍一に見せる。

写真には、男の顔が映っていた。

男は髪が黒いが、顔立ちや、鼻の形から見て外人だろう。

さらに、眉は吊り上がり、鋭い眼光をしていた。

そして、実年齢は二十代だが、三十といっても信じそうな程、雄々しく凛々しい顔だった。

「これって…」

龍一が聞く。

一緒に取り出した煙草を咥えながら、総一郎が答える。

「次の対戦相手、|Misael Jalmarミサエル・ジャルマーだ」

ミサエル・ジャルマー、元ヘビー級チャンピオン。

ボクシングでチャンピオンになった後、すぐに引退。

二年間消息不明の、伝説的なボクサーであり、格闘技関係者なら、だれでも知っているほど、驚異的なスピードでチャンプになった男。

時牧戦録、二勝無敗。

「いわゆるルーキーだが、実力は本物だ」


龍一は、リングの上に立っていた。

しかし、対する相手は、まだ居なかった。

「遅いな…」

腕時計を確認し、煙草を咥えながら、総一郎はつぶやく。

龍一が到着してから、三十分は待っている。

アップを終えた後だったが、落ち着いてしまっている。

観客も冷め始めている。

そんな時、階段から靴の音がした。

龍一は 階段に背を向けていたため、振り返って確認をした。

「えっ」

龍一の目には、汗を垂らしながら、全身をジャージで着込んだ男が立っていた。

おそらくジャージの下には、ハーフパンツだけを履いているのであろう。

しかし、龍一が驚いたのは、汗だくなことでも、遅刻をしたことでも、ジャージを着ていることでもなかった。

龍一の目に真っ先に飛び込んできたのは、男の顔であった。

ミサエルの顔は、外人と思える顔立ち、吊り上がった眉、鋭い目、雄々しく凛々しい顔立ち。

だが、男の顔は、それとはまったく違った。

剃ったかのような細い眉、静かな目、頬の辺りは細く、とてもヘビー級には見えず、落ち着いた青年のような顔であった。

そんな青年が、リングロープに手をかけ、リング場に飛び乗り、龍一の顔に視線を送る。

すると、青年は微笑み、ジャージを脱ぎ、観客たちの方へ投げ込む。

「あんた…誰だ?」

龍一が恐る恐る質問する。

青年は再び微笑み、深く息を吸う。

「ミサエル・ジャルマー」

聞いた名だ。

この男がミサエル?

どう見ても違う。

そもそも、外人には見えないし、ヘビー級にも見えなかった。

「嘘だろ…?」

龍一の漏らした言葉に、ミサエルは答える。

「引退してから、痩せたからね」

痩せた程度ではなかった。

明らかに人が違う。

しかし、すぐに分かる事となる。

この男がミサエルだということが。

体格や顔が変わっても、解る判断基準。

「龍一選手?準備はいいですか?」

考えを巡らせていた龍一の脳に、外から声が入ってくる。

「はい…」

応えたものの、正直もう少し考えたかった。

が、戦いとなると、龍一の顔が変わる。

審判は、四試合目の倉木戦で担当した、赤いオールバックの男、橋本猛(ハシモトタケル)であった。

「始め!」

猛が腕を振り上げた瞬間、その時だったのだ、龍一が理解したのは。

ヒットマンスタイル。

右腕は顔の横。

しかし、左腕は体の前方に、脱力した状態で垂らしている。

完全スピード特化の構えである。

そして、左腕が下に伸び切っている。

ミサエル特有の、ヒットマンスタイルであった。

ミサエルということはわかった。

しかし、なぜこのような体格なのか。

多く見積もっても、ウェルター級ぐらいだろう。

そこまで体重が落ちている理由は、何なのか。

ボクシング引退後、二年間でここまで絞ったということなのか。

その理由は、ボクシング引退から、時牧加入までの二年間にあった。


ミサエルはボクシング引退後、ヘビー級のまま、日本で暴力団に入り、力を発揮しようとしていた。

ミサエルは、一人で一つの組を潰すという功績を成し遂げた。

しかし、次の戦い。

猛獣狩りと呼ばれる男、岸島照夫(キシシマテリオ)との戦いに敗れ、生き残ったものの、負けたことによる喪失感と悔しみにより、さらに強くなることを決め、パワーを落としスピードを上げた。

その後、調整の末、ウェルター級まで落ちたのである。

だが、実力が落ちたわけではなかった。

時牧に入り、一か月程度で、二勝まで上がったのである。


「あんた…本当にミサエルなんだな」

龍一が笑いながら言う。

「あぁ」

ミサエルはそれだけ答え、龍一に向かって、ヒットマンスタイルのまま走ってくる。

風を切る音。

フリッカージャブが放たれ、龍一の顔面に当たる。

「っ…」

ミサエルのフリッカージャブは止まることを知らず、龍一に向かって、連発され続ける。

フリッカージャブは速く、龍一の動体視力でも、避けるのがやっとだった。

龍一は考えていた。

どう抵抗すればいいのか、わからなかったのだ。

下手に動けば、ジャブの雨の餌食になる。

しかし、動かなければ、いずれ当たる。

考えた結果、でた結論は…。

「うおぉ!」

観客が、驚愕の声を上げる。

龍一はわざと前進し、ジャブ途中の拳に、頭突きをしたのである。

加速途中のジャブが止められた。

これがどういう意味か。

ジャブは基本、当たった瞬間に戻すことで、ようやく連発ができる。

それが途中で止められると、もう一度ジャブを打つのに、幾瞬かの隙ができる。

龍一は、それを狙ったのだ。

今宵初、快挙。

龍一の右アッパーが、ミサエルの顎を貫いた。

「かっ…」

ミサエルの動きが、再び停止する。

そこに、顔面右ストレート。

そして、顎に向かっての左ジャブ。

ミサエルの意識は、遠く彼方へ。

しかし、ここで立ち上がるのが、ミサエル・ジャルマー。

ミサエルは、鍛えた足腰のみで立ち、数秒の間で意識を取り戻した。

「龍一。面白いな」

ミサエルが語り掛けてくる。

「あぁ」

それに龍一が応える。

数秒の時が流れた。

観客は固唾を飲み、龍一とミサエルは、深く深呼吸していた。

そして、龍一の足が、地面を蹴る。

龍一の初撃、右ジャブ。

ミサエルの左手で、受け止められる。

左手を離し、龍一の体が一瞬止まった隙に。

ミサエルの初撃、右ストレート。

龍一の顎に直撃。

かに思われたが、龍一は右に回転し、ストレートの威力は半減。

そして、回転力をつけたまま。

再び、左アッパー炸裂。

ミサエルの足が、ほんの少しだけ震える。

しかし、ミサエルの意地か、左腕を龍一に向かって振り下ろす。

龍一はそれを見たうえで、逆に足を延ばし、ミサエルの顔面に頭突きを放つ。

ミサエルの鼻から、血が噴き出る。

だが、ミサエルはまだ倒れない。

更に、ミサエルの右腕が、龍一の腹に放たれる。

それと同時に、龍一が踏み込む。

決着の時。

ゴチャ。

血が空を舞う。

放たれたのは。

三度、アッパー炸裂。

仰向けで、リング場に倒れる。

「勝負あり!」


3話 逆転 終

3話後書きです。

今回は凛太戦と、ミサエル戦ですよね。

ちょっとこっちの話になりますが、書いていて楽しいのは、ミサエル戦です。

かっこいいですよね。

再びや、決着の時、三度等、あれを書くのは楽しいです。

小説を書く人なら、わかると思います。

そういえば、1話の後書きで、デビュー作といいました。

確かに龍道はデビュー作ですが、初めて描いた作品は違います。

小学生のころから、ずっと書いている作品があります。

正直、小学生の頃、ノリで書いたので、結構な駄作気質です。

更には、絵が下手だからという理由で小説を書いたので、なぜか効果音があります。

グチャ。嫌な音が鳴る。みたいな感じではなく、ボカッ グチャ みたいな感じなので、小説とは思えません。

気が向いたら、その作品を改良して、違うサイトで別の名で、投稿したりするかもしれません。

これってもしかして、と思われるような、特徴のある書き方で書いていきます。

今回は田村聖一のスペックです。

身長176センチ 体重52キロ

では。

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