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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
26/28

26話 勢い

同時に踏み出したものの、体重の関係で響十の方が速く動いていた。

距離が縮まり、二人の距離は二メートルまで迫っていた。

響十がその時、動く。

右足を高く振り、ハイキックを放つ。

足は霧斗の顔に向かって、弧を描いていた。

しかし、響十の足は、霧斗の顔には当たらなかった。

霧斗が寸前で、左腕を挟んでいる。

故に当たらなかった。

響十の状況は悪い。

右足が高く持ち上がってるため、バランスが取りにくい。

そこへ、霧斗がさらに迫る。

霧斗の右拳が、響十の顔面へと飛んでいく。

響十は無理やり後ろに体重を移し、拳を避けた。

響十の体が、後ろに向かって倒れていく。

霧斗は右拳を突き出した勢いのまま、歩を進めた。

次は、左拳を振り下ろし、響十の腹を狙う。

左拳は、響十の腹に打ち込まれた。

響十は歯を噛み締め、倒れ行く自分の体を受け身で止めた。

衝撃は軽くなったが、問題は打ち込まれた腹。

痛みでうずいている。

だが、止まるわけにはいかない。

追撃をしようとする霧斗の首へ、倒れこんだまま右足を振るった。

霧斗はぎりぎり後ろに跳んでよけ、距離を取る。

響十が痛みに耐えながら素早く立ち上がり、距離を取っていく霧斗に向かって、走り出した。

逃がせないのだ。

今の勢いを失うわけにはいかない。

そう思って、響十は駆け出していたのだ。

霧斗は響十から逃げていくが、やがてロープに背をかける。

そこで、霧斗は動くのをやめる。

響十は駆け寄っていき、右ジャブを放った。

霧斗は左に頭を動かし、ジャブを避ける。

それと同時に、左カーフを放つ。

響十の顔面に向かって。

拳が響十の頬に触れた。

響十の体が、霧斗から見て右に動く。

霧斗が踏み込む。

拳を全力で握りしめ、床へ着きそうな程すれすれで、振りかぶった。

右アッパーが、響十の胴体へ迫る。

その瞬間、響十の右足が浮かび上がる。

殴られた勢いのまま、攻撃へ転じる。

その戦い方は、霧斗の真似をしたようであった。

霧斗はそのことに気づくが、それと同時にもう一つの事に気づく。

確実に決めるため、勢いを無視して踏み込み、大きく振りかぶった。

自分の動きが相手に取られ、自分の戦い方が変わっていた。

誘われたのだ。

響十の体力がどれだけ削られた状態であろうと、左カーフ一発で、アッパーを仕掛けれるほどの勢いで倒れこむはずがないのだ。

霧斗はそのことに気づく。

そして、右足が今度こそ、霧斗の頭を蹴りぬく。

霧斗の体が、勢いよく倒れこむ。

ブラフでもない、全力で蹴られたから、勢いよく倒れこんでいる。

霧斗が倒れた。

響十は息を大きく吸って、霧斗の事を見下ろす。

起きてこないか警戒してるように見えるが、実際は違う。

先の戦い方を見るに、起きる危険性があるのなら、勢いのまま顔面を踏み砕いていたであろう。

なら、なぜ見下ろすか。

敬意であった。

自分をここまで追い詰めた男を、敗北のその時まで見送ろうという、敬意の象徴。

響十の外見的に、ダメージは薄いように見える。

しかし、度重なる打撃で、中の骨や血管、内臓に響いていた。

どれほどのダメージかは、本人のみがわかる。

そして、ダメージが大きいことが、響十にはわかる。

だから、敬意を表していた。

一瞬、振り返り、東蓮の事を見る。

東蓮はその瞬間、手を振り上げ、声を上げた。

「勝負あり!」

三十勝を築き上げ、四十勝が間近に迫った、時牧最強の男が敗れた。

観客たちは、驚きの声を上げている。

しかし、闘士にのみ分かる事がある。

やはり、勝ちあがってきたか。

響十の実力は、先の二試合で分かっていた。

予感がしていたのだ。

負けるのでは、勝つのでは、という事は分からないが、何かの予感。

龍一が口をつぐんだ。

(ついに、大番狂わせが起きた…)

響十は数秒、霧斗の事を見た後、振り返って、リングを下りて行った。

廊下に入り、選手控室に、響十が一人入る。

その瞬間、響十が片膝をついて、胸に手を当てた。

(想像以上のダメージ…!これで準決勝決勝を…)

響十が顔を上げる。

(まぁでも、禪院が去ったんだ。これからは、楽だな…)

三回戦が終了し、金殺出場メンバーが決まった。

金殺に出場できるのは、五名。

霞原龍一、轟凛太、古八木智、鋼山響十、そして前大会ですでに権利を持っている禪院霧斗。

この五名が、金殺へ上がれる。


龍一は、控室のベンチに座っていた。

まるで魂が抜けたように、少しも動かなかった。

水分は取った。

戦闘で失った栄養も補給した。

あとはただ、回復を待つだけ。

三回戦終了から、準決勝までの時間は、六時間。

朝の七時に三回戦が始まり、八時に終了。

十四時に準決勝が始まり、十五時に終わる予定。

そこから八時間の休息を取り、夜の十一時に決勝戦を行う。

そういう手筈である。

龍一が準決勝のリングに上がるまでは、残り三時間。

ただ回復を待つつもりだ。

総一郎と聖一は、その龍一を邪魔しないよう見てるだけ。

龍一は動かないながらも、考えてはいた。

次の相手は、凛太。

一度、勝利経験はある。

しかし、あの頃の凛太が、今の凛太と同じとは限らない。

凛太と戦ってから、半年が立とうとしていた。

半年間、凛太が何もしていなかったとは思えない。

もしかしたら、新しい必殺技でも開発し、隠し持っているかもしれない。

その可能性は十分にあるし、そもそも凛太の戦い方が、握力に賭けた一発屋の部分もある。

負ける可能性はもちろんある。

正直な話、もう負けても、藤木辰正とは戦える。

つまり、もう戦う必要なかった。

まず、このトーナメント自体、優勝にはあまり意味がない。

とにかく、上位四人に入れればそれでいいのだ。

そう、もう戦わなくてもいい。

だが、龍一が頭を振った。

戦わなくていいを選ぶなら、自分は藤木辰正に勝てないだろう。

それどころか、金殺で一勝を取ることも難しい。

そうだ。

龍一は藤木に復讐して強くなったのではない。

強くなったから、それを復讐に使うことにしたのだ。

藤木を倒すのはあくまで、今の目標。

藤木を倒せば?もし藤木が誰かに殺されば?自分の目標はどうなる。

そのあとすぐに死ぬのか。

違う。

龍一の人生の目標は、ただ強く、誰よりも強くある事。

それを達するために、藤木も超える。

だから、戦う。

金殺の権利をかけたこのトーナメントを、乗り越える。

龍一は笑って、立ち上がり、総一郎たちに向けていった。

「アップするから、協力して!」

総一郎は静かに笑い、聖一が嬉しそうに立ち上がった。


残り、二時間半。

凛太は控室で、マットを床にひき、そこに寝転がっていた。

時計を横目で見、息を吐く。

凛太が反動をつけて、上体を起こした。

「アップでもするか」

凛太は立ち上がり、スクワットをマットの上で始める。

(龍一の奴、半年で強くなってんのかな)

凛太が腰を落としながら考える。

凛太の知る限り、龍一に勝算がないわけじゃない。

ただ、確実に勝てるという保証もない。

(俺は、万全に準備するだけ)

目を瞑り、考えながらスクワットを続ける。

そして、時間が過ぎていき、二時間が立った。


「龍一、もうすぐだからな」

総一郎が、右の手首についている腕時計を見る。

「あとどのくらいで、試合になる?」

龍一が聖一へ、ジャブを放つ。

聖一の両手にはめたスパークリングのグローブに、拳が触れる。

「あと三十分だ」

龍一はそれを聞くと、動きを緩めた。

「…あと二十分」

龍一は呟きながら、再びジャブを放つ。

「…分かった。全力でやれ」

総一郎が龍一に言った。


リングの周りに、人が集まってきていた。

少しざわついている。

準決勝の試合開始時間は、もうすぐだ。

観客たちは、闘士たちが入場するのを待つだけ。

廊下に目を向けているが大半である。

二人が入場するはずの、入場廊下。

そこに、人影が見えた。

大きな人影。

筋骨隆々であり、特に前腕部分が太い。

黒い髪が、短く揺れる。

先に入場したのは、凛太であった。

凛太が歩いていくと、観客たちは凛太に道を開けていく。

リングロープに手をかけ、自分の体を引き上げる。

リングロープの内側に入り、試合場中央に移動して、仁王立ちで龍一のことを待つ。

二分後、凛太の入ってきた方向と真逆から、人影が見えた。

高くない身長でありながら、筋肉が目につき、見劣った様子はない。

薄い茶色の瞳が、暗い廊下の中で輝いていた。

龍一が、入場した。

龍一が歩いていき、試合場の下に立つと、しゃがみ込み、一気に飛んでリングロープを超える。

「ひゅ~」

凛太が口笛を鳴らし、龍一に驚いた様子を見せる。

龍一はそれへ特に反応を見せず、凛太の方へ歩み寄っていった。

「霞原龍一、身長百七十九センチ、体重八十二キロ。時牧戦録、十三勝無敗」

龍一が、深く息を吐いた。

「轟凛太、身長百八十二センチ、体重九十四キロ。時牧戦録、十三勝一敗」

凛太は対照的に、息を大きく吸って見せた。

「審判は私、登 明凡が務める」

明凡が二人に視線を移し、息を吸う。

そして、明凡が手を前に出した。

「始め!」

腕が降りあがり、試合が始まる。

それとほぼ同時、凛太の体が宙へ浮いた。

龍一は咄嗟に、両腕を固めて、防御の体制を取る。

凛太から龍一に向けて、ドロップキックが放たれる。

龍一の腕を打ち、胸の奥まで貫くように、衝撃が走った。

龍一が目を見開き、歯を噛み締めて、できる限り後ろに下がる勢いを止めた。

龍一は一歩も足を動かしていないが、半メートルほど後ろに下がっていた。

それほどの威力である。

凛太が、仰向けで床に落ちる。

しかし、ダメージなどほぼないだろう。

その証明に、凛太はすぐに立ち上がって、龍一に向かって走り出して見せた。

凛太が左拳を握り締め、振りかぶる。

龍一はもちろん、それを許そうとはしない。

左足で地面を蹴り、蹴った勢いで凛太へミドルキックを放つ。

ミドルキックが入った箇所は、凛太の脇腹である。

鳩尾、肝臓部分へ、蹴りが入った。

凛太の横っ腹は、普通の闘士よりも硬かった。

龍一はそう感じて、距離を取る。

距離を取った理由は、ダメージの大きさ。

おそらく、筋肉で防がれ、あまり内臓にダメージが行っていない。

龍一は、追撃しようとしたら反撃されると思い、距離を取ったのだ。

結果的に、龍一の勘は当たっていた。

凛太は食らった瞬間こそ表情を歪めたものの、今ではもう平常である。

あの鎧の前には、内臓へのダメージは期待できないのか。

いや、一つだけ、ダメージに期待できるものがあった。

龍一は固い構えを解き、ゆるやかに凛太へ近づいていく。

凛太は一瞬混乱したのか、動けなかったが、すぐに意識を取り戻した。

近づいていく龍一のふくらはぎに向かって、左ローキックを放つ。

しかし、龍一はあまり早くはないスピードで右足を浮かせ、ロー気腔をベストタイミングで避けてみせた。

その隙に、龍一が近づく。

凛太には、もう触れるところまで近寄った。

そして、右手を凛太の左脇腹に向かって、押し当てる。

凛太の頭には、龍一が何を狙っているのかに対しての答えが出ていなかった。

それもそのはず、凛太が注目した点は押して当てたところ。

実際は違った。

龍一の狙いは、ただ触れること。

そこから打てる技。

好敵手(ライバル)が使う技。

龍一は瞬間的に踏み込み、右手にその衝撃を流し込んだ。

その瞬間、凛太の左脇腹から、胃のあたりまでの内臓に、波紋のように衝撃が伝わっていく。

凛太が瞳孔を縮め、すぐに龍一と距離を取った。

凛太の左半身、そこに位置する内臓たちに、衝撃が走る。

ダメージはドロップキックよりも大きいだろう。

龍一は再び、固く構えなおした。

凛太は痛みに耐えながら、同じく固く構える。

低い体制のまま、睨みあいながら二人は近づいたり、距離を取ったりしていた。

凛太の内臓の痛みが引いていき、龍一は息を整えていた。

じりじりと、時間を掛けながら、二人は見合っている。

凛太が両拳に、全力で力を込める。

龍一は少しづつ、拳の力を緩めていき、最後にはレスラーのように、手を開いていた。

だが、レスリングなど、凛太には仕掛けない。

仕掛けて、掴まれれば、負けである。

ただ、スピードに特化するためにした、拳の形。

まるで拳に見えないが、立派な拳である。

人間を殴れる形をしている。

その拳と、全力で握りしめられた拳。

ほぼ同時に、放たれた。

しかし、数コンマ先、凛太の方が速かった。

パワー特化の拳が、龍一の顔面へ迫る。

触れる寸前、パァンと音が鳴る。

スピード特化の拳が、凛太の顔面を叩いた音だった。


26話 勢い 終

26話後書き。

遂に3回戦終了。

そして、準決勝の開始です。

既に金殺の出場権利は、4名にわたりましたね。

いったい誰が優勝するのか。

そもそも、龍一は決勝まで行けるのか。

久しぶりの凛太との再戦で、負けてしまうのでしょうか。

さて今回は、野呂組直属槍所属、行儀の悪いサングラスこと、矢車飛鳥です。

身長176センチ 体重80キロ。

時牧編での出番は、特に予定にありません。

続編に期待ですね。

では。

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