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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
24/29

24話 ダメージ

「かはっ!」

凛太が血を吐いた。

オードンのドロップキックが、胸を貫いたのだ。

肺が押し込まれ、心臓を叩かれることによって、血の動きがおかしくなっていたのである。

結果、血が口から逃げることとなる。

凛太の身体が、ロープに押し込まれる。

ロープの端が、ミチミチと音を立てた。

オードンが左肩で着地し、立ち上がる。

凛太は一番下のロープに左腕をかけ、座り込んだ。

正確には、立てないから座っているだけ。

それほどのダメージが、凛太の体にはあった。

凛太はオードンを見上げる。

オードンの見下ろす目は、冷静かつ静寂であった。

対して凛太の瞳には、燃えるような炎がある。

その炎は今、さらに燃え上がる。

凛太が両手でロープを掴み、そのまま立ち上がってきた。

手を離し、支えなく立って見せる。

それを見てオードンは、驚いたような顔を一瞬取るが、すぐに落ち着きを取り戻す。

落ち着き、冷静な状態で、オードンは笑って見せた。

オードンが踏み込み、ぶん殴る。

右拳だ。

凛太の顔面を、ぶち抜く。

だが、凛太は倒れなかった。

逆に勢いづいて、オードンの方が倒れそうだ。

もちろん、そんなことは起きない。

オードンはしっかりと踏みとどまり、凛太の顎に向かって、低い体制のまま、左アッパーを放った。

その拳は、天をも貫く勢いで、凛太の顎に迫る。

しかし、貫くことはできなかった。

凛太が歯を噛み締め、少し踵を浮かせたことにより、威力を半減させ、受けて見せたのだ。

オードンの左拳は、凛太の顎に触れたまま、動かなくなっていた。

凛太が、右腕を高く持ち上げる。

困惑の表情のオードンに向かって、凛太の右肘が落ちてきた。

鼻っ柱を潰し、凛太が両足を浮かせ、床まで落ちる。

オードンの頭は、凛太の肘と床に挟まれ、潰れるような感覚を味わった。

が、オードンの動きは止まらない。

肘を打ち込んだことにより、一瞬の隙ができた凛太。

その凛太に向かって、右腕を伸ばす。

右腕は凛太の首の後ろを通り、手首が凛太の喉仏に触れた。

オードンは左手で自分の体を持ち上げ、片腕で凛太の首を絞めあげた。

「っ…!」

凛太の体に、オードンの百五十四キロが乗っかる。

凛太はつぶれるような思いをしながら、締め上げられるのを耐えている。

凛太は、両手でオードンの前腕を掴み、力の限り握りしめた。

オードンは、その痛みに、顔を曇らせた。

オードンの太い前腕が、少し音を立て始める。

その音が肉なのか、骨なのか。

それとも、腕全体なのか。

分かるのは、腕を握りつぶされそうになっているということ。

オードンは考えた。

こちらが絞め落とすのが先か、腕を握りつぶされるのが先か。

オードンが、床から左腕を離し、凛太の横に仰向けになって倒れた。

そして、左足で凛太の横っ腹を蹴りとばす。

凛太の体は転がっていき、オードンは右腕を確認した。

右腕には深く跡が残っているが、問題はなさそうである。

何回か拳を握り、凛太の方を向いた。

凛太は蹴られた個所を抑えながら、息を荒くして立ち上がる。

オードンが眉間にしわを寄せ、じりじりと近づいていく。

凛太は先のドロップキックの影響で、蹴りが深く響いている様子だ。

しかし、手を腹から離し、がっちりと構えた。

オードンの右拳が飛んでくる。

凛太は両前腕で、拳を防いだ。

響く。

防いだというのに、この威力。

どんな鍛え方なのか。

気になる。

そんなことを、凛太は考えていた。

意識が他の所に傾いたのは、痛みをそらすために、脳が勝手に行ったことである。

それを凛太は分かっていない。

蹴りの威力を一番わかっているのは、凛太ではなくオードンだろう。

凛太は、エンドルフィンやアドレナリンの、脳内麻薬で痛みが薄れていた。

それのせいで、わかっていなかった。

どれほどに、響いていたのかを。

凛太の体が、右に崩れた。

オードンはそれを見逃さず、左拳で、倒れこむ凛太の顔面を打ちあげた。

血が舞い上がる。

凛太の口から、吹きあがっていた。

オードンがさらに踏み込み、再び左拳で、凛太の腹を殴った。

先ほど蹴りを入れた箇所。

凛太がさらに血を吐く。

内臓に損傷がある様子だ。

しかし、オードンは止まらなかった。

凛太の頭を右手で掴み、左拳で顔面を殴り飛ばす。

凛太の頭は、オードンの右手から離れた。

オードンは歩みを進め、左足で凛太の胸を蹴り飛ばす。

凛太の体が、ロープに触れた。

いつの間にか、凛太はロープ端まで追いやられていたのだ。

凛太が息を大きく吸う。

オードンは踏み込んで、右拳を放つ。

その瞬間、凛太の体が飛ぶ。

オードンの右腕を掴み、両足をオードンの首に回し、絞める。

オードンは首が絞まり、苦しそうな表情を浮かべた。

だが、オードンは瞬時に、凛太を床に落とそうとした。

この状態なら、一撃で倒せる。

そう踏んだ。

しかし、凛太の体が、落とす前に離れた。

オードンは、ガクッと、体勢を崩した。

その時、凛太の両手が、オードンの首を掴む。

オードンの意識は、その瞬間に失せた。

凛太の握力で、完全に血をせきとめられたのだ。

オードンが前に倒れる。

それを見て、王宣が声を上げた。

「勝負あり!」

歓声が沸く。

凛太の表情は暗く、右手で脇腹を抑えながら、リングを下りて行った。


龍一は、自分の控室にいた。

試合を見るべきか、凛太の所に行くべきか。

そう考えている。

次の試合、空が出場する。

それと同時に、智の試合でもある。

観戦したほうが、自分には得がある。

だが、辛勝をした凛太に、付き添うべきと考える節もある。

下唇を噛み、深く考えていた。

その時、控室の扉が、音を立てて開いた。

龍一が踊りて振り返ると、ドアノブに手をかけ、扉を開けていたのは凛太だった。

「凛太……!」

龍一は驚きの声を漏らす。

凛太は笑って、試合場の方角を、親指で指さした。

「見ようぜ。試合」

龍一が、頷く。


試合場には、既に三人立っている。

審判、桜 髙美。

闘士、古八木智。

闘士、空。

龍一は、空に目線を向けていた。

空の言った言葉、トーナメントでどちらかが終わった時、復讐に来る。

トーナメントでどちらかが負けた時、戦いに来る、という意味だろう。

この試合で空が負ければ、三回戦第四試合目までに、戦いを挑んでくるだろう。

ならば、見届けなければならない。

試合の勝敗はもちろん、空の戦い方を、隅々まで。

空は、仮面に顔が隠れている。

表情は読めない。

しかし、智は気配で感じ取った。

睨んでやがる。

まるで、泥に落ちた薄汚い小石を見るがごとく。

見下ろしている。

横幅の広さから、錯覚しかけるが、空の方が幾分か大きい。

髙美が、咳払いをした。

「古八木智、身長百八十七センチ、体重百三十二キロ。時牧戦録十五勝一敗」

智が、リング外に、目をやった。

龍一たち二人の方を、横目で見ている。

自分も勝ち上がってやる。

そんなことを考えているのだろうか。

目線を、前に向き直す。

黒い服に身を包んだ、不気味な男が立っている。

「空、身長百九十三センチ、体重九十八キロ。時牧戦録、十二勝無敗」

空の体に、動きは見えない。

静止したままの、直立状態だ。

何を考えているのかが、全く読めない。

そんな存在。

しかし、わかることがある。

龍一への復讐心である。

それだけを、空は見せてきた。

まるで、それ以外に目標がないように。

「審判は私、桜 髙美が務めます」

髙美の言葉と同時に、智は少し後ろに下がった。

「では、始め!」

開始。

智は、試合直前、後ろに数歩下がった。

その動きの意味は、助走。

智が踏み出し、跳んだ。

空は反応出来なかったのか、少し後ずさりしたまま、智の体を目で追った。

智が、両足を勢いよく、空に向かって突き出す。

空の胸に、智の両足が直撃した。

空の体が、三メートルほど吹っ飛ぶ。

すさまじい威力の蹴りだ。

百キロ近い空を、三メートルも吹っ飛ばしたのだ。

だが、空は足を床に滑らせて、体を止めて見せる。

「シュッ」

智が追撃に、左拳を放った。

空は、智の左手首に手を添え、少し力を込めた。

それだけで、拳の軌道が大きく変わる。

智の体制が、崩れる。

崩れ行く智に、空は平手打ちを放った。

右方向へ倒れていく智の左頬に、右手で平手打ち。

崩れるのを助長するような、攻撃方法である。

本来、平手打ちは牽制程度の威力しか持たない。

しかし、空の力みの仕方なら、その威力を何倍も押し上げる。

智はリングロープまで、転がっていった。

ダメージが大きいわけではない。

それでも、多少はダメージがある。

智は数秒かけて、立ち上がった。

その隙に、空は近づいていた。

空の力みから放たれる、最大威力と言ってもいい技。

右アッパーが、智の顎を打ち抜いた。

智の体が、宙へ浮かぶ。

その浮いた智の身体、腹のど真ん中に向けた、全力で左拳を打ち込む。

智はリングロープに向かって、吹き飛んだ。

空が、距離を取ろうとする。

その行動は、智が倒れこむと思っての行動である。

だが、そうはいかなかった。

智の体は、リングロープの反動で、大きく前に突き出てきた。

そのスピードのまま、空の仮面に向かって、右拳を放つ。

バキッと音を立て、空の体が再び吹っ飛んだ。

リング端まで空は飛んでいき、背中から床に落ちる。

ドンッと音を立て、空が仰向けに倒れた。

空は起き上がると、すぐに顔を触った。

いや、顔ではなく仮面。

顔が無事かどうかではなく、仮面が無事かどうか。

幸い、内側にヒビが入っただけで、割れる心配はないようである。

コンコンと、指で小突くと、安心したように脱力した。

智はそれを見て、逆に気を引き締める。

空が、体を屈め、クラウチングスタートと同じような高さまで、しゃがんでいく。

智はそれを見下ろしながら、腰を下げ、脇を締め、息を大きく吸った。

何か来る。

そう直感したのだ。

空の体が、前に突き出る。

突進。

智の胴体に、空の全身が飛びついてきた。

ただの突進のはず。

しかし、そのただの突進も、力みの仕方一つで、大きく威力が変わる。

空の威力は、まるで岩石でも飛んできたかのような威力であった。

智は、空に押されていき、ロープに背をぶつけた。

追い詰められている。

そうわかった瞬間、智は空の服を掴み、勢いよく放り投げた。

空の体が宙に跳び、くるりと一回転し、足から着地した。

空の力みなら、投げられないように耐えることも可能だろう。

それをせず、一回転して着地をするほど余裕があったという事は、投げられるのも計算の一つのなのだろうか。

空が、もう一度走り出す。

智の身体に向かって、一直線。

再び突進なのかと思い、智は低く構えた。

しかし、空のとった行動は違う。

走っていき、そのまま振りかぶり、右拳を放った。

智は咄嗟に防いだものの、体中に響き渡るほどの攻撃を受けてしまった。

智は感じる。

骨の中で、何かが響き渡っているのを。

先ほどのパンチで、骨に響かせられた。

智はじんじんとする両腕を、だらんとたらす。

余計な力は入れず、脱力。

回復を最優先事項にしたのである。

それを見て、空が飛び出した。

絶好のチャンスと思ったのだろう。

しかし、智は甘くない。

腕を使うのをやめれば、狙われることは分かっている。

その上で、脱力したのだ。

なら、作戦がある。

そういう事だ。

智は、飛び出してきた空に向かって、右足を突き出した。

空はそれを、右に避けた。

空から見て、右。

智から見て、左。

空が、右拳を振りかぶる。

その瞬間、智の左腕が飛んできた。

空の側頭部を、叩いた。

空は困惑し、後ろに跳んで距離を取った。

腕が麻痺して、痛みが薄れているから放てる技である。

脱力した腕を、肩で振り、相手を打つ。

それだけの技。

だが、シンプルでありながら、強い。

智は下がっていく空へ、駆け寄った。

左腕を振る。

空の頭を叩く。

空は、体勢を崩し、体が傾いた。

そこにも、腕を振るう。

連続で、空を叩いた。

空は困惑していた。

それは、自分に響き渡るダメージの大きさにである。

しかし、その困惑もすぐに晴れた。

空はこのトーナメントで、足の力みをうまく使い、相手の威力を流してきている。

だが、今智が使っている技は、逆に力まず放つ技。

空がどれだけ脱力しようと、力もうと、固いものが頭を直撃すれば、ダメージは入る。

空にとって、最悪の技だ。

智は止まらず、腕を振り続ける。

次第に、智も気づいていた。

相手は、この技を嫌がっていることに。

(いい誤算だ。このまま押し切ってやる!)

智が、振りかぶって、右腕を振り下ろした。

空の頭に、それが触れた。

その瞬間、智の体が吹き飛んだ。


24話 ダメージ 終

24話後書き。

どうも。

今回は、凛太対牧オードンの決着と、智対空でした。

空の復讐心が目立つ話でもありましたね。

空が龍一を恨む理由とは、何なんでしょうね。

因みに、空がと打つとき、毎回クウガが出てきてしまいます。

面倒です。

さて今回は、ラルパット・ツィマーリです。

身長198センチ 体重121キロ。

全員そうなのですが、外国系の名前は語感だけで決めています。

では。

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