表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
23/29

23話 タフ

初撃、龍一。

右カーフが、ムードの頬を叩く。

ムードはそれによって、少し体が傾いた。

傾く視界の中、右から閃光が飛び出した。

龍一の、左ミドル。

ムードの顎を、一直線に打ち抜いた。

意識が揺らめくような、強烈な一撃。

龍一は、そんなつもりで打っていた。

しかし、そうはいかない。

ムードの首は、常人の数倍以上の衝撃を耐えうるほどの、強靭さを有していた。

ムードが、龍一に掴みかかる。

両腕が龍一の体を囲い、背中で手を組み合わせ、龍一の胴体を掴む。

ムードが踏み込み、二人の体が宙に浮いた。

倒れこむ気である。

瞬間、ムードに激痛が走り、腕が緩んで、龍一が抜けだした。

そのまま、ムードが倒れこむ。

ムードは歯を食いしばり、うめいていた。

龍一が、空中で股間を蹴り上げたのだ。

ムードが汗を、ぽたぽたと垂らしている。

龍一は呼吸を整えながら、ステップを踏み、ムードの周りを動いている。

「スぅ~…」

息を大きく吸い、ムードが立ちあがった。

片眼が閉じかけ、開いている方の目は、血走っている。

ムードも龍一と同じく呼吸を整え、姿勢を低く構えた。

ステップを踏みながら周る龍一を見て、ムードはタイミングを見計らっていた。

動く。

ムードの突進が、龍一の体を直撃した。

そのまま倒れこむこともなく、リング端まで突っ走っていく。

龍一の背がリングロープにかかり、ロープが大きく変形する。

普通なら、このまま反動で吹っ飛ぶだろう。

しかし、ムードがそれを許さない。

左手で龍一ごとロープを抑えながら、右拳を握り締め、大きく仰け反った。

龍一が胸を抑えられながら、両腕を顔の前に構える。

放たれた。

両腕ごと、顔面をぶん殴られた。

龍一の頭が、後ろに向かって吹き飛んだ。

衝撃で龍一は目を瞑り、歯を噛み締めていた。

そんな龍一に向かって、もう一度ムードは、大きく仰け反る。

龍一が薄く目を開き、それに気づいた。

龍一はさせまいと、右足をムードの左膝に向かって突き出す。

右足が左膝に当たると、ムードの顔がゆがんだ。

膝の軟骨が、悲鳴を上げる。

そのまま倒れこみそうになった。

だが、右足で無理矢理、ムードは踏みとどまった。

(ここで倒れれば、距離を取られる!)

全力で右足に力を込める。

距離を取られれば、待っているのは泥試合。

突進も見られてしまって、次からは破られる可能性もある。

そうなれば、ムードに勝ち目はなかった。

歯を食いしばって、何とか耐えようとする。

そこに、龍一の右膝が飛んできた。

(倒れろ!)

龍一の望みは、ムードが倒れ伏すこと。

何とか倒れまいとするムードを、何とか倒そうとしていた。

膝が入り、ムードの背中は仰け反っている。

「ッ…」

膝が入った衝撃なのか、歯を噛み締めすぎたのか。

口から血が漏れ出していた。

しかし、耐えしのいだ。

ムードは体を勢いよく前に向け、もう一度龍一に組み付こうとする。

龍一は冷や汗をかいた。

まさか、膝を入れてもまだ倒れないとは。

だが、組まれるわけにはいかない。

それが例え、手を掴まれた程度であっても、ここからなら決め手になる。

龍一は、地面を蹴った。

直立で飛んだのである。

ムードの腕は空を掴み、龍一の足はロープに向かって着地した。

ムードが上を見上げた瞬間、龍一はムードの頭を踏み、前に跳んでいく。

龍一がリングに戻った時、ムードとの距離は、二メートルほどあった。

距離を取られてしまった。

そんな考えが、ムードの頭を走る。

ムードが振り向くと、龍一が背中を向けて立っていた。

逃がさん。

ムードが突っかける。

しかし、龍一はそれがわからないほど未熟ではない。

体を回転させ、左踵でムードの顔を蹴った。

ムードの体は転がっていき、リング端まで行ってしまった。

龍一は追い打ちせず、しっかりと距離を取る。

三メートル。

随分と離れてしまった。

ムードが息を荒くしながら、四つん這いになっている。

横目で龍一を見ると、ゆっくりと立ち上がる。

息をつきながら、龍一を睨んだ。

まるで猛禽類のような鋭い目つきで、龍一のことを睨む。

龍一は臆さず、ステップを踏んでいる。

ムードはリング端から動かない。

それを見て龍一は、体を屈めた。

そして、跳ぶ。

高く、ムードに向かって飛んだ。

空中で体を捻り、一回転させる。

右足の甲が、ムードの頭頂部に迫った。

打ち抜く。

ムードの頭頂部を、確かに足で打ち抜いた。

だが、ムードの体は倒れなかった。

ムードには、作戦があった。

実行できるかどうかさえ分からない、曖昧な作戦。

出来たとして、成功できるかどうか。

成功したとして、その後は。

そんな作戦。

だが、今成功してのけた。

ムードの作戦は、わざと回天落としを打たせること。

龍一に回天落としを打たせ、受ける。

受けて、捉え、倒す。

倒して、組む。

それが、ムードの決死の作戦であった。

ムードの口角が、一気に上がる。

龍一は、胸から落ちた。

「かはっ」

龍一は肺がつぶれる感覚を味わい、酸素がすべて抜けていく。

「シッ」

ムードが体を滑らせ、龍一の上に乗っかった。

そして、龍一の首を後ろから絞め上げた。

その瞬間、龍一の首が絞まる。

抜けた酸素を、徹底的に抜いてくる。

龍一の目が血走り、脳に血が行き届かなくなってきた。

耳から、キュイイイイといった、機械音のようなものが聞こえてくる。

龍一の動向が、段々と上に昇っていく。

意識が遠のく。

ムードが、小さなうねり声を上げ始めた。

龍一は回らない脳で、考え始めた。

切り抜ける方法を。

(どうする?どうやって切り抜ける?今の状況を整理して…)

龍一の目が、一瞬光った。

そして、行動に移す。

地面を蹴ったのだ。

今の場所は、リングの端。

この二人が倒れている高さは、十分一番下のリングロープに引っかかる高さである。

しかし、龍一の厚さなら、リングロープを抜けれる。

つまり、ロープを通ろうとしたとき、ムードが引っかかるという事。

龍一は、ロープ下に向かって地面を蹴ったのだ。

その結果、ムードの頭がロープに引っかかり、腕が首から離れた。

ムードの体を背負って飛べたのは、回天落としを放てるほどの脚力があったからである。

龍一は腕が離れると、ムードの体を蹴り上げた。

ムードの体が離れ、龍一がロープ下をくぐってリングに戻ってくる。

ムードと龍一が、離れた。

計画が崩れたムードに対し、そもそもの計画を持たない龍一。

精神状態で言えば、龍一の方が上である。

龍一はその落ち着いた精神で、しっかりと距離を取った。

ムードはすぐに、突っかけた。

ムードが迫ると、龍一が体を屈めてくる。

ムードが目線を下に向けた。

龍一は、ムードの左腕を掴み、飛び上がる。

その時、智が気付いた。

(あれは…)

両足がムードの左肩に乗り、手首も両手で掴んだ。

龍一が少し笑い、背中を床につけながら体を捻る。

ムードの体に、悪寒が走る。

メキッと、音が鳴り響いた。

一手三鳥。

智に使ったあの技。

ムードの手首、肘、肩が、ねじ切られた。

龍一は手を離し、歩いてムードから遠ざかる。

ムードは左手をだらんとたらしながら、汗をかいていた。

痛い。

激痛が走る。

智は薬のおかげで、痛みが抑えられていた。

しかし、ムードの身体にはもちろん痛みが走る。

もう、立てないだろう。

龍一はそう確信する。

だが、歯を食いしばって、立ち上がってきた。

龍一は驚きながらも、構える。

ムードがゆっくりと、歩みを進めてきた。

戦えないだろう。

それをわかりながら、ムードは歩いてきたのである。

龍一は息をつき、ムードに向かって飛び出した。

右足が。高く飛ぶ。

「勝負あり!」

夢坂が声を上げた。


「龍一」

廊下の前で、総一郎が喋りかけてきた。

「金殺出場決定か!」

凛太が笑って、龍一の背中を叩く。

「次お前だろ?行ってきな」

「おう!」

凛太は大きく返事をし、試合場に向かって歩いて行った。

「…強かったな。ムード・スロック」

総一郎がそう言うと、龍一がうつむく。

「もし、最後、リングロープに少しでも遠いところにいたら…」

総一郎は煙を吐き、龍一に言った。

「勝ったのはお前で、実力が高かったのもお前だ。考え込むな」

龍一が、顔を上げる。


「負けちまったな」

ハリッドが、ムードの控室で立っていた。

「…勝てるなんて、一回も言ってないからな」

ムードの言葉を聞くと、ハリッドが顔をしかめる。

「お前…」

ハリッドの声に、ムードが顔を上げた。

その瞬間、ハリッドがムードの顔を叩く。

「そんなバカなこと言ってんじゃねえぞ。俺に勝った男が弱気なこと言いやがって…」

ハリッドが声と怒りを抑えながら、ムードに言った。

ムードは数秒考え、笑った。

「そうだな!」

ムードがハリッドの手を取り、がっしりと掴む。

「落ち着け」


試合場に、巨体の二人が立っている。

一人は、百八十ほど。

もう一人はそれを超え、二メートルほどあった。

「牧オードン、身長百九十八センチ、体重百五十四キロ。時牧戦録、十六勝無敗」

オードンが鼻を鳴らし、胸を張った。

「轟凛太、身長百八十二センチ、体重九十四キロ。時牧戦録、十二勝一敗」

凛太も胸を張り、オードンを睨んでいる。

「審判は私、楼 王宣が務めます」

王宣が二人に目を向け、手を前に出した。

「では、始め!」

「シャァ!」

凛太が叫び、右拳で思いっきりオードンを殴った。

「ツゥッ!」

オードンは、背中をのけぞらせる。

続けて、右足でオードンの胸を突いた。

「がはっ」

オードンが後ろに下がっていき、ロープに背中をかける。

それに向かって、凛太が走っていく。

しかし、それも計算の内。

オードンの、考えの内だった。

ロープに体重を乗せ、反動を使い、飛び出す。

凛太が走ってくる勢いと、反動の勢い。

そのまま、ラリアットが入った。

オードンの左上腕が、凛太の顔面に当たる。

凛太の体はぐるりと回り、背中から床に落ちた。

「ほら立ちな!」

言いながら、オードンが高くジャンプする。

凛太の胸目掛けて、右肘を落とした。

ドンッと、床から響いて聞こえてくる。

相当な威力で落ちてきたのだ。

凛太の肋に、ヒビが入る。

そして、肺にも衝撃が響く。

凛太が、口から赤い血を吐き出した。

その血が、オードンの顔にふりかかる。

だが、それを何ともせず、オードンは立ちあがり、もう一撃肘を打とうとしていた。

オードンが首を鳴らし、飛び上がる。

その瞬間に、凛太が体をずらした。

オードンの肘が、床に直撃する。

硬い床に当たったことで、痛みが走った。

「痛ッ…」

オードンが目を見開いたとき、凛太の左拳が顔面をへこませた。

鼻から血が噴き出し、今度は凛太の頭にかかった。

凛太は胸を抑えながら、オードンと距離を取る。

オードンはそれを一瞬見ると、こちらから動く必要はないと、ゆっくり息を整えた。

凛太が遠目でオードンを見ながら、固く構えている。

オードンがゆっくり立ち上がり、後ろに下がっていった。

そして、ロープに両腕をかける。

「来なよ」

オードンが言い放つ。

オードンが言ったことを、凛太はすぐに理解した。

オードンは背をロープにつけている。

下がろうと思えば下がれるし、反動で威力も付けられる。

反動を利用されると、こっちのタイミングもずれる。

そして、相手はプロレスラー。

ロープの上に登られれば、こちらの陣地ではない。

逆に、こちらの逃げ場がない。

だが、攻めないわけにはいかない。

凛太はオードンの言葉を理解した後、対処法を考える。

「どうした?怖いか?」

オードンの言葉は、凛太の体を動かした。

凛太が走って、オードンに迫っていく。

オードンはにやりと笑った。

凛太との距離が、一メートル半になった時、オードンがロープを両手で握りしめた。

そして、ロープを土台に、体を持ち上げる。

膝を曲げ、凛太の顔面に向けて伸ばした。

凛太の顔に、両足が触れる。

凛太が逆のリング端まで吹き飛んだ。

リング端に倒れた凛太に、オードンが走った。

凛太が、ぐらつきながら立ち上がる。

その瞬間に、オードンの身体が飛んだ。

凛太の胸に向かって、ドロップキックが放たれる。


23話 タフ 終

23話後書き。

どうも。

3回戦の始まりです。

最近pv数が減ってきたなぁと思ったら、いつの間にか誰かから星5をもらっていて声が出ました。

龍一対ムード。

最期らへんはちょっと急ぎ足になってしまいましたが、何とか出来上がりました。

柔系の選手は、動かしにくいのが残念なところです。

なので3回戦の左ブロックは、どちらも扱いにくい戦闘です。

右ブロックが楽しみ。

今回は、西中2年三津島幸太郎です。

西中の人たちはいつか出て来るかもしれません。

身長177センチ 体重77キロ。

ラッキーセブン。

因みに三津島という苗字は日本に20人程度しかいないみたいですよ。

では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ