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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
20/29

20話 仮面の男

ハルクの右拳が、智の顔面を叩いた。

「ガァ!」

叫び、再び叩いた。

智は避けられるものではないとわかり、できる限り歯を食いしばっている。

三度、叩いた。

ただ、智も殴られっぱなしというわけにはいかない。

左足を振り上げ、ハルクの睾丸を蹴り上げた。

「ガオォアァァ!!」

ハルクが手を離し、股に両手を当て、これでもかというほど叫んでいる。

実際、痛みをかき消すには、叫ぶことがいいといわれている。

ハルクは、直感、本能的にその行動を選んだ。

涙目になりながら、口から涎を垂らし、叫び続けている。

智の方はというと、それを気にせず身体状況を確認している。

そして、次第に声が小さくなり、ハルクの呼吸は落ち着きを取り戻していた。

「ウウゥゥ…」

怒っているのだろう。

だが、智はそれに臆さない。

逆に、歩み寄っていく。

「続きだ」

そういった瞬間、ハルクの顎をかちあげた。

「ボケっとしてるなよ!」

殴りながら、叫び混じりに言った。

ハルクは防ぐのみ。

智が有利である。

しかし、すぐにもこの状態は崩れる。

右左と交互に殴った瞬間、ハルクが左拳を智の腹に打ち込んだ。

「っ…!」

ハルクがそのまま、リング端まで智を押していく。

智の背が、リングロープに触れた瞬間、ハルクの右拳が智の頬を殴った。

そして、その勢いのまま体を回転させ、右足で智の顔面を蹴る。

智の脳が、激しく揺れた。

もう一発と言わんばかりに、ハルクが大きく振りかぶる。

放たれた。

右拳だ。

だが、智はハルクの右手首をつかみ取り、回転させ、逆にハルクの脇腹へ拳を放った。

深く、拳が食い込む。

一センチほど、ハルクの脇腹はへこんだ。

智の拳が、皮越しに、ハルクの肋へ触れる。

ハルクの体が押され、別のロープに寄りかかった。

トンッ。

智が飛びあがる。

そして、ハルクの頭頂部に向かって、右足の甲を振り下ろす。

ハルクの頭を、一直線に蹴り落とした。

かつて自分を倒した、霞原龍一。

その男の、自分が食らったことのない技。

それを、使用した。

名は、回宙落とし。

ハルクが顔面から、床に倒れる。

「審判…」

荒い息のまま、明凡を呼んだ。

明凡は急いで近づき、ハルクの頭を持ち上げ、そっと置いた後、立ち上がる。

「勝負あり!」

歓声が響く中、智の顔は笑っていた。


「負けると思ったか?俺が」

智が、廊下で話している。

話す相手は、凛太と龍一である。

「おっさん、やっぱ強ぇな」

凛太が笑いながら言った。

「おっさん?そんな歳じゃねぇよ」

「何歳?」

「さぁ」

智が、適当に流した。

「…凛太とおっさんは、なんか関係あるの?」

龍一が不思議そうに尋ねる。

「あぁ。戦ったことある」

「え!?でも…」

龍一が深く考えそうになり、智が止めた。

「時牧で戦ったわけではねぇよ。時牧に引き分けはないから、どっちかが二敗じゃないと…って思ったんだろ?」

龍一が頷く。

「俺は前にやってた時、入る収入より薬の方が高かったから、もっと入るであろう金殺に入ろうとしたんだ。んでその格闘技、|DEAD FIGHT CLUB《デッド ファイト クラブ》っていうのの卒業試合、こいつと戦った」

智が親指で、凛太の事を指した。

「それが俺の初裏試合だったんだよ」

凛太が誇らしそうに言う。

「それで、結果俺の勝ち。そしたらこいつが、再戦とかなんとか言い始めたんだ。それで、時牧に入ったら戦えるって言ったんだ。まぁ、俺との試合の怪我のせいで、入るの一年くらい遅れたけど」

智が言うと、凛太が胸を叩いた。

「一年のブランクがあろうと、俺はすぐにおっさんに追いついたぜ。優勝することができれば、二人の男にリベンジを果たせるんだぜ!」

「優勝できれば、な」

龍一が笑った。

「だが、おっさんの次の奴、どっちでもきつそうだよ」

龍一が廊下の壁に寄りかかりながら、試合場に目を向けて言う。

試合場には、二人の男が立っていた。

黒シャツと黒ズボンの上に、橙色のチャイナ服を着ている。

対して、全身を黒色で包み、仮面を被っている。

龍 蓮馬と空である。

「龍 蓮馬、身長百八十二センチ、体重八十七キロ。時牧戦録、十四勝無敗」

蓮馬がコキッと、首を鳴らす。

「空、身長百九十三センチ、体重九十八キロ。時牧戦録、十一勝無敗」

空は、胸のあたりが動いてるのがわかる。

大きく、呼吸を繰り返しているのだろう。

「審判は私、正 夢坂が務めます」

夢坂はそう言うと、二人の姿に目を向けた。

「では、始めぇ!」

夢坂が腕を振り上げ、試合が始まった。

瞬間、蓮馬が踏み出す。

右正拳。

と言っても、拳は縦拳であった。

空は大振りに躱す。

その空の動きを、しっかりと目で追い、縦拳を打ち続けた。

ただ、その縦拳はすべて、右拳で放たれている。

何か、蓮馬には狙いがあるのか。

空はそんなことを考えながら、悠々と躱し続ける。

リング端に近づいていき、追い詰めた、と言うように、蓮馬は強く踏み込み、右縦拳を突き出した。

その拳も、空は体をそらせることで避け、同時に左足で、蓮馬が突き出した右膝を蹴った。

蓮馬は顔をしかめる。

理由は単純、響く。

どんなに体格差があろうと、関節蹴りというのは有効である。

しかもそれを、自分より大きい相手に打たれたのだ。

膝が、まるで登山後のように、まるでマラソンの後のように、悲鳴を上げる。

しかし、当の本人、蓮馬は、一切の声を上げない。

関節蹴りなど効いていないぞ、そういった表情で、左足を踏み出す。

今試合初の、左縦拳。

空の胸を狙ったその攻撃は、いとも簡単に躱されてしまった。

だが、問題はない。

狙いは、注意を引くこと。

左拳に、注意を惹かせることだった。

惹かせることができれば、右拳でも、問題はなかった。

左拳で打ったのは、その方が注意を惹くと思ったからである。

そして、本命。

右足を滑り込ませ、空の足と自分の左足の間に置いた。

そのまま、回転。

蓮馬の武術、金剛流八極拳。

その真髄。

先の試合でも見せた、あの技。

鉄山靠(テツザンコウ)

自分の背を、相手の胴体に当て、圧す技。

その技が、止められた。

空の両手が、蓮馬の背中を、抑えて止めたのである。

しかも、両肘は軽く曲げ、まるで力を入れずに止めたようだ。

蓮馬が困惑する中、空はその背中を押し飛ばした。

蓮馬は押し飛ばされた勢いで、尻もちをつく。

「駄目だな」

空が喋った。

それを聞いた全員が、驚愕の表情を浮かべる。

一人を除き。

その一人とは、審判桜 髙美である。

一度聞き、忘れているはずのない声だ。

その声は、雄々しく、骨の隅々にまで染みるような、低い声だった。

龍一には、声がうっすらとしか聴きとれていなかった。

しかし、聞こえてる聞こえてないではなく、喋ったこと自体に驚いていた。

「お前は、ただ踏み込んで満足している。本当の足の力みは、もっと自由なものなんだ」

空が片手を、肘から先のみ上げ下げしている。

立ち上がれ、という事だろう。

蓮馬は、それに応じて、立ち上がった。

「じゃあ、本当の力みを見せてみろ」

蓮馬が言うと、空は全身から力を抜いたように、ゆらゆらと動き始めた。

蓮馬は警戒し、すぐに構えを取る。

どんどんと、空が近づいてくる。

「力みは、強も弱も指す」

空は呟くと、まるで蠅のように、曲がりくねった動きで、蓮馬を通り過ぎた。

その道中、ドンッという音と同時に、空の左手が蓮馬の首に触れていた。

通り過ぎて、数瞬後、蓮馬が片膝をつく。

「軽い踏み込みから、重い踏み込みへ、その動作を一瞬にして行う。それが本当の力みだ」

膝をついている蓮馬に、空が歩み寄る。

「見せてやろう」

そう言うと、空が右手を、蓮馬の背中に置いた。

ドォンと、音が響く。

床の埃が、まるで波紋のように広がっていく。

「がっ…」

蓮馬が唾を吐いた。

空のやったことは極々単純。

蓮馬の背中から、内臓に向けて、発勁を叩きこんだだけである。

いや、空本人は、発勁を打とうとしているわけではなかった。

できる限りの力で踏み込み、蓮馬を押し込んだだけである。

それが、発勁となったのだ。

空の踏み込みは、それほどの力を有していた。

蓮馬が片膝をついたまま、動かなくなっている。

空はそれを、ただただ見下ろしている。

数秒後、動く。

蓮馬が急に、空の両足に向かって、足払いを放ったのである。

空は咄嗟に、空中に跳んで躱す。

蓮馬はそれを見切っていたのか、足払いを途中で急停止し、空中の空に向かって拳を放った。

見慣れた、右正拳だ。

狙いはど真ん中。

空の腹である。

拳が触れ、空の腹を打ち抜く。

「かはっ」

空が仮面の下で、苦しそうに唾を吐く。

この時、戦っている蓮馬だけが気付いた。

空の、明確な弱点。

それは、空中にいる、つまり踏み込みができない状況下だと、ダメージを一切流せないのだ。

おそらくは、この男の踏み込みは、地面特化。

空中にいる状態を全く想定せず、適当に飛んでしまっているのだ。

勝機。

蓮馬の猛攻が始まる。

流れるように、空の顔に向かって、拳を打ち続ける。

空は上体を動かしながら躱し、下半身は少しづつ後ろに下がって行っていた。

すると、急に蓮馬が、前蹴りを放った。

もちろん、空は後ろに跳んで躱す。

その時、空の背中がリングロープに触れた。

既に後に引けないところまで、下がっていたのである。

空の体が、反動で前に押し出される。

金剛流八極拳 鉄山靠(テツザンコウ)

蓮馬の背が、空に触れた。

当たった感触はなかった。

正確には、肉を叩いた感覚が。

蓮馬は一瞬で、思考を巡らせる。

結果、あることにたどり着いた。

この男、跳ね返る事がわかっていて、爪先を地面に触れさせていたのだ。

(あの一瞬で…?)

蓮馬が振り返った瞬間、空の手が顔に触れた。

トォンと、大きくはないが遠くまで届くような、そんな音が鳴る。

蓮馬が口を半開きして、前に倒れそうになった。

だが、空がそれを許さなかった。

踏み込みなどを一切無視した、全力のアッパー。

蓮馬の顎に直撃した。

蓮馬は後ろに倒れこみ、夢坂が近寄って、手を振り上げた。

「勝負あり!」

空は息を切らした様子もなく、悠々とリングを下りる。

そして、蓮馬に勝った足で、廊下に向かった。

龍一がいる、あの廊下に。

「…霞原龍一」

龍一が、驚いたような顔をする。

そんな龍一に、空は近づいていくが、二つの影が道を塞いだ。

轟凛太と、古八木智である。

「龍一に話があるなら、俺たちを通してもらおうか?」

凛太が空に向かって、威圧的に話しかける。

「…」

空は少し首を傾け、二人の後ろにいる龍一の姿を見た後、二人の横を通っていった。

「龍一、忘れるなよ」

空はそう言い残し、そのまま去っていく。

「大変だな、お前」

智が龍一に目を向ける。

「忘れるなよって、どういうことだ?」

凛太が、不思議そうに龍一に聞いた。

「お前やっぱり、何かしたんじゃねぇの?」

凛太の問いに、龍一は深く考え、曖昧に口を開いた。

「いや…もしかしたら…だけど」

「ほう。聞かせてもらおうじゃねぇの」

凛太が言うと、龍一は笑いながら答えた。

「まったく関係ない人かもだから、言わねぇよ」

「なんだよ。お前の失敗談とか聞けるかもだったのに」

凛太は残念そうに、ため息をついた。

「…凛太は置いておくとして、気をつけろよ、龍一」

智が腕を組みながら、龍一に警告を促す。

「えぇ。襲われたりはしないと思います」

「…そうか」

龍一が、空の行った方向に向かって振り向く。

空の姿は、廊下の陰に消えていた。


白髪の男がいた。

歳はまだ、十八になったばかりだという。

場所は、フランスの端。

ある道場の前に立っていた。

男は歩いていき、道場の門をたたく。

「はい?なんですか?」

巨体で金髪の男、ラルパット・ツィマーリが出迎える。

「ここ、空手の道場であってます?」

男が、ラルパットに聞いた。

「えぇ、まぁ。あなたは…日本人ですか?日本とは全く別物の道場ですが…」

ラルパットの言葉を、男は途中で切った。

「なんでもいいんです」

「はぁ…?」

「道場の長を呼んでいただけます?」

ラルパットは、道場の奥を指す。

そこには、金髪の中年男が、正座でうつむいていた。

「頼もう!」

男がいきなり、声を出す。

「む?」

中年男は顔を上げ、白髪の男を見た。

「道場破りか、名は?」

「鋼山響十」

白髪の男は、笑顔で言う。

「ふむ。私はツアーリル・クルカ。ヒビト、私と戦いたくて、ここに来たのか?」

「はい!」

響十は元気に答えた。

「よろしい。正々堂々と、試合をしましょう」


ツアーリルは道着で、響十はワイシャツで立ち並ぶ。

「時間は三分。ルールは常識の範囲内。いいな?」

「了解です」

響十はさわやかに言う。

「では、始め!」

ラルパットが、開始の合図をした。

最初に、ツアーリルが突っかける。

「ぬぁっ!」

ツアーリルが、右正拳を放った。

ドンッ。

その拳が到達する前に、響十の前蹴りが、ツアーリルの腹を貫いた。

「シュッ」

上段回し蹴り。

ツアーリルの頬を叩き、そのまま一回転をした。

ツアーリルは倒れ、すぐにラルパットが駆け寄る。

「…勝負あり」

ラルパットは、悔しそうにつぶやいた。

響十は、道場を後にする。

鋼山響十、格闘技二年目の男である。


20話 仮面の男 終

20話後書き。

遂に20話です。

ここまでで投稿初日から、3か月程度経過しています。

速いですね。

今回は、ハルク対智、蓮馬対空。

空の謎が深まるばかりです。

そして、響十の道場破り。

新キャラを二人登場させたので、まだまだ後書きが書けます。

さて今回は、時牧審判の橋本猛です。

3話登場です。

見返して、いたなぁ、と思ったキャラです。

身長178センチ 体重65キロ。

審判なので、すごくもないです。

では。

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