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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
19/30

19話 猛獣対剛力

轟音が、部屋中に響く。

凛太が床に落ちた音だ。

哲が凛太から手を離し、歩いて距離を取った。

数秒後、凛太が勢いよく起き上がった。

「やってくれたな」

凛太は言いながら、掌をついて立ち上がる。

「今度は、こっちから行かせてもらうぜぇ!」

全力で駆けだしていく。

哲の目の前で、左足を踏み出し、右腕で振りかぶった。

哲の顔面に、拳が降りかかる。

哲が鼻から血を吹きながら、後ろに下がった。

硬い。

凛太の握力で固めた拳は、嫌というほど硬い。

「シュッ」

息を尖らせて、哲に近寄った。

顔、胸、腹に、右ジャブを連続で入れた。

そのまま左足を、哲の右足の前に滑り込ませる。

左アッパー。

哲の顎に直撃。

今度は右足を前に出す。

右カーフ。

左足。

左カーフ。

右足。

右アッパーが腹にめり込む。

全て、連続でたたきこまれた。

それらは二秒ほどで起こった。

「かはっ」

哲の口から、酸素と唾が飛んでいく。

凛太は左足を回転させ、右足を軸とした回し蹴りを、哲の右頬に向かって放った。

哲が体を低くし、回し蹴りをぎりぎりで避けて見せた。

右手で、凛太の右足首を掴む。

片足だけで立っている状況の凛太は、バランスがとりにくい状況である。

哲が力んだ。

右足も、宙に浮く。

ダァンと、背から床に落ちる。

両手で後頭部を守ってはいた。

しかし、胴体だけでも十分なダメージである。

哲は左足を持ち上げ、凛太の腹目掛けて落とした。

ドン。

入った。

「げぼっ」

凛太は、体を回転させる。

食らった。

目眩がする。

踏みつけた経験がなかったとしても、体重が多い哲の重みは、相当なものであった。

まるで、トンカチを落とされたよう。

凛太が腕で口を拭った。

想像以上だ。

哲の柔道、打撃有りの柔道は、凛太の予想をはるかに超える。

凛太が冷静に呼吸を整える。

哲は低く構えた。

両手を少しだけ前に出し、まるでレスリングのようだった。

「あいつ、レスリングもできるのか?」

ムード・スロック控室。

呟いた。

隣には、ハリッドが座っている。

「…いや、あれは柔道だ」

ハリッドが言う。

「組む、という点では、レスリングも柔道もあんな構えになる」

ムードが考える。

「あの握力を持った奴に、組みを仕掛けるか?」

ムードが、考えながら言った。

「いや、組みは狙ってない」

ハリッドが言ったことに、ムードが反論する。

「どっちなんだよ」

「組んでからの絞め、それが妥当だろうな。レスラーや柔道家と戦ったことのある俺だからわかる」

「で、どうだった?」

「無理だ。絞め技の移行は。ことごとく失敗する」

哲が踏み出した。

右手を前に出した。

凛太は、右手を左腕で払った。

左手が前に出る。

今度は、右腕で払う。

ガクン。

凛太の体が、急に落ちた。

どちらの手も払い、触れられてないはず。

凛太はそう考えている。

蹴られていた。

右足で、左脛を。

故に体が落ちたのだ。

ガッと、右掌底が凛太の体を突きあげる。

凛太の背中が、後ろに曲がった。

その瞬間に、哲の右腕が凛太の首に絡みついた。

絞め技、成功。

「打撃を入れてきたか…」

ハリッドが呟く。

哲が、そのまま凛太を地面に落とそうとしている、

しかし、なかなか落ちない。

凛太が、相当踏ん張っているようだ。

歯を食いしばり、全力で踏みとどまっている。

哲はなんとかして落とそうと、体を浮かせて、自らの体ごと落ちようとした。

だが、タイミングがずれた。

狙ったタイミングと違うときに、体が浮いてしまった。

今度は、凛太が哲の脛を蹴ったのだ。

人間というのは、少し、タイミングや予想がずれただけで、全てが崩れる。

哲は、落ちた時に、自分の前頭部をぶつけてしまった。

逆に凛太は、哲の右腕をクッションにして落ちることができた。

その隙に、締め技から脱する。

哲はすぐに、立ち上がった凛太に向かって、再び技を掛けようとした。

そうはさせまいと、凛太の放った蹴りが、哲の腹に直撃した。

顔をゆがませ、哲は離れていく。

追い詰められている。

さっき追い詰めたのに、また追い詰められている。

哲は焦った。

自分の放った技が、ことごとく失敗させられている。

自分の鍛えた技が、通用しない。

そんな気持ちで、哲は焦っていた。

そして、焦りが、攻撃に転じた。

何度も、両手を突き出し、掴もうと、組もうと、絞めようとする。

しかし、失敗。

凛太の攻撃は当たっていないものの、こちらの技は不発。

凛太の技は、精度をそこまで必要としない。

だが、哲の使う柔道は、精度がなければ技の初手も打てない。

哲は焦りによって、精度を失いつつあった。

焦り。

更に積もっていく。

ガッ。

そんなとき、凛太の右ストレートが、顔に当たった。

体が下がっていく。

そこでようやく、落ち着きを取り戻せた。

(焦るな…。技をかけることができれば、こちらのもの…。まず、かける)

哲が、深く息を突いた。

そして、ゆっくりと、歩みを進める。

自分の庭を歩いているような、そんな姿だった。

ゆっくり、ゆっくり。

確実に、一歩ずつ。

手が届く範囲まで。

射程まで。

ここ。

右手を突き出した。

凛太の左手首を、がっしりと、力強く握った。

引く。

凛太の体が、自分の方へ来た。

右手を離す。

左腕を凛太の右脇に、右腕を凛太の首に。

(技をかけた後、押し倒し、腹ばいにさせ、絞め技に移行し、絞め落とす)

計画は完璧だ。

哲の顔がほころんだ。

凛太が、哲の顔面を蹴り上げた。

「なっ…」

哲は見誤った。

凛太の握力は、自分とは比べ物にならない。

自分が全力で握った程度で、凛太の腕は、固まったりしない。

通常の人間だったら、手首を全力で握られれば、腕を動かしずらくなる。

しかし、凛太にはそれが起きない。

故に、バランスを保つこともできた。

腕を全力で動かすことができ、地面がしっかりと平面に広がっている状態。

バランスを保つことは容易かった。

そして、そこから蹴りを放つことも。

ガシッと、哲の頭を掴んだ。

「シャッ!」

哲を後頭部から、床に叩き落す。

手を離す。

東蓮が、哲に近寄った。

東蓮の顔が、苦虫を噛み潰したかのような表情になる。

「勝負あり!」

歓声が巻き起こった。

東連は思った。

あの哲が一撃でのされるなんて、と。

凛太は、雄たけびを上げていた。


「古八木のおっさん、勝てるかね」

試合後の凛太が、龍一と話している。

「…力でも勝てるかわからないな」

龍一は深く考えた。

「まぁ、心配することでもない気がする」

龍一が言った。


「古八木智、身長百八十七センチ、体重百三十二キロ。時牧戦録十四勝一敗」

審判、登 明凡が言う。

「トード・ハルク、身長百九十九センチ、体重百三十二キロ。時牧戦録、十三勝無敗」

ハルクの息は荒い。

智も同等に、息が荒れている。

「審判は私、登 明凡が務める」

その試合を、ある男が見ていた。

ランク・マーコウル。

第十試合、ウルフのセコンド兼親代わりである。

そして、人体実験を施した張本人。

ウルフは敗北後、ランクからの罰を恐れ、失踪。

廃街に消えていった。

ランクに探す気はなかった。

そもそも、ランクがどう頑張ろうと、ウルフは捕らえられない。

ウルフは、その身体能力を身に着けている。

ハルク戦のダメージがあるとはいえ、ランクの届くものではない。

ランクはそれがわかっていたと同時に、最強を追い求めるのをやめていた。

人体実験で越えられない壁は、幾つもある。

その壁を越えた人物は、このトーナメントに何人もいた。

少なくとも、十人。

霞原龍一、シミーア・ウォール、牧オードン、龍 蓮馬、空、鋼山響十、古藤満、禪院霧斗。

そしてこの二人、古八木智とトード・ハルクである。

壁というのは、全てが同じというわけではない。

龍一、オードン、満、霧斗と、試合の二人は身体能力。

シミーア、蓮馬、空、鋼山響十は技の練度。

今回は、身体能力の壁を越えた二人の試合である。

「始めぇ!」

試合と同時、ハルクの左拳が、智の顔面をぶっ叩いた。

顔を殴り抜け、智を吹き飛ばす。

地面に背中から落ち、大きな音が鳴り響く。

仰向け状態の智に向かって、ハルクが飛び込んだ。

右拳が、智の腹にめり込む。

「けはっ!」

智が唾を吐いた。

「グオオォォォォォ!」

ハルクが仮面越しに叫び、もう一撃、智に打ち込もうとする。

ハシッ。

右手首を、智が捕まえた。

「グゥゥゥ」

ハルクが唸る。

左腕を上げ、智の顔面に向かって振り下ろす。

当たる直前、数センチ前。

智が背筋に力を入れ、顔を持ち上げた。

ハルクの左腕を、顔面で受けたのだ。

結果は、威力半減。

ハルクの左腕は十分な加速、十分な威力を持たず激突したことで、智に与えるダメージは半減してしまった。

智が、ハルクの右手首をグイッと引き、体勢を倒した。

体制が崩れたハルクを押しのけ、智が立ち上がる。

智が右手で、ハルクの左肩を掴む。

「ぬんっ」

智が力み、ハルクの体を持ち上げた。

そして、智は左拳でハルクの顔面を打ち抜いた。

ハルクの仮面に、大きなひびが入った。

「ちゃっ!」

智が叫び、右足を振り上げ、ハルクの仮面を蹴りぬく。

仮面が、完全に割れる。

破片が床に落ち、ハルクの口から半円場のものが落ちた。

ハルクの仮面を支えると同時に、身体能力を抑えている制御装置である。

「ゴアアァァァァ!」

ハルクが大きく叫び、智に掴みかかる。

智はハルクを躱し、腹に右拳をめり込ませた。

続いて、ハルクの後頭部を掴み、地面に顔面から落とす。

赤い液体が、薄く広がっている。

智が手を離し、足を持ち上げ、ハルクの後頭部に落とそうとした。

しかし、落ちる寸前にハルクが起き上がり、足は床を叩いた。

ハルクは落ちてきた足に向かって、タックルを放った。

片足に体重を掛けられ、智の体制が崩れる。

二人が、床に寝転んだ状況になった。

ハルクは再び、マウントポジションに行こうとする。

そうはさせまいと、智は右肘をハルクの後頭部に打ちおろした。

脳が叩かれた。

脳が、一瞬にして大量に揺れる。

ハルクの視界は、バネのようにねじ曲がっていた。

もう一発。

そう思って、智は肘を振り上げた。

だが、振り上げた肘を、振り下ろすことができない。

ハルクの拳が、智の左脇腹に深く食い込んでいる。

腎臓を直接押し込まれているような、そんな感覚であった。

痛い。

それと同時に、吐き気が襲ってくる。

そんな状態では、肘を打ち下ろすこともできなかった。

それを隙とみて、ハルクは右腕で体を持ち上げ、左拳で智の顔を殴った。

「ぐっ…」

智の鼻から、血が吹いたように漏れ出す。

ハルクは、連撃を狙った。

左足で床を踏み込み、右拳を振り上げ、智の顎を殴り上げた。

その拍子に、ハルクは低い体勢から、立ち上がった体制へと変化した。

智の顎の骨に、小さなヒビが入った。

ハルクはそのまま、智に殴り掛かろうとする。

しかし、不発。

智の拳が、ハルクの腹を突き、ハルクの体を止めたのだ。

ハルクは忌々しそうに、智を睨んだ。

逆に、智は小馬鹿にしたように、ハルクを見上げている。

ハルクは痺れを切らしていた。

このままでは、埒が明かないだろうと。

智は気づいていた。

ハルクが、この状況を無理やりにでも辞めさせるだろうと。

このような、止め、打ち、止め、そんなことをやり続ける訳にはいかない。

おそらくハルクは、立ち技による戦いに移行するだろう。

なら、乗ってやる。

殴り合いを受けてやる。

ハルクにされるがまま、右肩を掴まれ、勢いよく智は起こされた。

智の腰が、膝を超えたあたり。

その瞬間に、立ち技による戦い、殴り合いが始まった。

初撃、ハルクによる左ストレート。

智は踏みとどまり、右ジャブを放つ。

二発連続、直撃。

ハルクの顔に、二発のジャブが当たった。

ハルクが後ろに下がった瞬間、腹に重いパンチを入れた。

「ゴォオォ!」

ハルクは何とか抵抗しようと、乱暴に腕を振りまくった。

しかし、智には一撃も与えられず、腕を振る最中、数発ジャブ程度の打撃をボディに入れられている。

ハルクは疲れたのか、腕を振るのをやめている。

いや、疲れていたわけではなかった。

いきなり体制をかがめて、突進してきたのだ。

もちろん、また転がった状況下に持ち込むわけではない。

とにかく、相手を動揺させるのが目的の、渾身のタックルだった。

智にどんどん近づいていき、あと数歩で掴めるほどの時。

閃光が、ハルクの左頬のそばで走った。

智の右拳が、突進中のハルクの頬を殴ったのだ。

傾いたハルクに向かって、連撃を浴びせる。

打撃の雨霰。

ハルクの胴体全てに、拳を打ち込んだ。

「ふん!」

最後に、全力で右拳を打ち込んだ。

ハルクの左胸に。

ハルクの体が、大きく後ろに下がっていった。

智は追いかけ、ハルクの腹に深く拳を打ち込む。

だが、その腕を左手でハルクがつかんだ。

そして、右拳を固め、智の顔面へと放った。


19話 猛獣対剛力 終

19話後書き。

最近、飽きられている気がします。

pv数も減り、正直見てほしい欲が出てきました。

さて、今回は猛獣対剛力。

一応、ハルク対智を指しています。

因みに、結構適当に考えた題名でした。

すみません。

今回は、鶴島勇気です。

身長188センチ 体重92キロ。

次回のキャラ予定はありません。

というより、全キャラ出尽くしたかもしれません。

例えば、ランク・マーコウルぐらいしか思いつきません。

おじいさんのスペック見て楽しいですか?

では。

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