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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
18/30

18話 だから

「牧オードン、身長百九十八センチ、体重百五十四キロ。時牧戦録、十五勝無敗」

髙美が、リング場の真ん中に立っている。

「黒山紺、身長百八十七センチ、体重九十五キロ。時牧戦録、十二勝無敗」

オードンが、紺を睨み下ろす。

眉間にしわを寄せ、瞳がギラギラと光る。

逆に紺は、冷静にオードンの身体を観察している。

「審判は私、桜 髙美が務めます」

髙美は二人に、目を向けた。

正反対の状態で、お互いを見あっている。

しかし、その熱量や力みは、似通っていた。

「準備はいいですか?」

冷や汗を額に流し、二人に聞いた。

「無論」

紺が答えた。

「いつでも」

オードンが拳を握り締め、力のこもった声を発する。

「では、始めぇ!」

髙美が腕を振り上げた。

試合の開始と同時に、オードンが進んだ。

(おお)きく、(ふと)い右足が、地面をどついた。

そして、岩石のような右拳が、紺に向かって放たれた。

拳が紺の毛先に触れる直前、オードンの身体諸共、上に飛び上がった。

紺が右手の甲で、オードンの腕を突きあげ、軌道をずらしたのである。

大きく拳が外れ、オードンの体制が崩れるが、左足で持ち堪え、振りかぶって再び拳を放った。

今度は、後ろに少し跳び下がることで、拳を避ける。

「シャァ!」

オードンが両腕を開き、紺に走りかかった。

ガシッと、紺の腰辺りで、両腕が組まれた。

「ガァッ!」

声を大きく鳴らし、紺の体を持ち上げ、腰を曲げる。

紺が、オードンの体に乗っかった。

オードンは、紺を頭頂部から落とす気だ。

その勢いで、持ち上げた。

しかし、紺の頭には、対処法が浮かび上がっていた。

紺が左手で、オードンの顎を触れる。

そして、精一杯肘を伸ばす。

オードンの両腕が外れそうになり、紺の体が少し上に行った。

上というのは、天井に向かっているという事だ。

つまり、オードンの頭から、床から離れているのである。

床へは、オードンの頭頂部が激突した。

全力の振りかぶり、紺の体重、延ばされた勢い、全てが重なって、オードンの脳を叩く。

上下に大きく、脳が揺さぶれる。

オードンの両腕が、紺の体から完全に離れる。

オードンは床に、両腕を伸ばして倒れている。

紺は、オードンの上で立ち上がった。

紺が退こうと、片足を持ち上げた時。

オードンがガバッと起き上がり、両手で紺の肩を掴んだ。

そして、精一杯踏み込み、紺を投げた。

紺の体が宙に浮き、ロープに背を打った。

更にオードンは、横になっている紺に向かって蹴りを放つ。

紺は蹴りを、両腕でガードした。

何発も、オードンは蹴り続ける。

次第に体制が変わり、オードンは蹴るというより、踏みつけているようになっていていた。

紺は依然として、防御の体制だ。

どうやら、動かないつもりらしい。

そうわかると、オードンは紺を飛び越え、リングロープに飛び乗った。

体は観客たちの方を向いている。

両腕を広げ、飛び上がった。

オードンは空中で一回転し、両足を紺に向けて振り下ろした。

隕石(メテオ)ォォ!」

そう言って、オードンは落ちた。

紺の腕が、大きく音を上げた。

オードンは紺から降りると、紺と逆方向に走っていった。

ここぞとばかりに、紺は立ち上がった。

オードンは、体を紺に向けてロープに体を預けた。

弾ける。

高速で、オードンが突っ込んでくる。

紺は前蹴りを放ち、オードンを止めようとした。

正確に、紺の爪先はオードンの腹を撃った。

だが止まらない。

オードンの右手が、紺の頭を鷲掴みにし、そのままロープ外まで追いやった。

紺の背中が、ロープにひっかかり、背骨がキシリという。

「ジャイアントォォォ……!」

オードンが言いながら、紺の頭から手を離した。

そのまま、右腕を紺の左脇に、左腕を紺の右足にやった。

右腕は、上からのせ、手を脇に回している。

そして、がっしりと掴むと、両腕を持ち上げて飛び上がった。

全身を紺の身体に乗せ、体重をかける。

「プレス!」

オードンが言った瞬間、落ちた。

紺は背中から、オードンの体重が乗ったまま落ちた。

ダメージは相当だった。

肺から、酸素が逃げていく。

呼吸ができない。

オードンは両腕を離し、両腕を上げて勝ち誇った。

無論、まだ勝ちではない。

止めを刺せたら勝ちだ。

しかし、まだやらない。

オードンがプロレスラーだからだ。

プロレスラーなら、勝算があろうとなかろうと、観客たちを楽しませるために戦う。

そしてようやく、仕上げの時が来た。

オードンはまた飛び上がり、右肘を紺の胸に向けて落ちてきた。

紺は右肘で地面を打ち、全身を回転させ、何とか避けた。

ガァンと、肘から盛大に落ちた。

痛いだろう。

だが、オードンは顔に出さなかった。

逆に、さっきより笑っていた。

観客たちは、さらに沸いている。

オードンが豪快に笑った。

「いいね!もっと戦ろう(たのしもう)ぜ!」

オードンが振りかぶり、右拳を紺に振り下ろした。

紺は左手で正確に薙ぎ払った。

払った、はずだった。

落としたはずの拳が、紺の左脇腹にめり込んでいる。

「かはっ」

深い。

巨大な拳が、深くまで入っている。

肝臓に痛みが走る。

そのすきに、オードンの左手が、紺の右頬をぶっ叩いた。

平手打ちだった。

あまりにもプロレス。

それが強い。

紺が体制を崩すと、右拳を脇腹から離し、そのまま紺の顎に向かって突き上げた。

紺の身体が、少し浮いた。

そして、左拳を紺の顔面に放った。

直撃。

なのに、当たった感触がない。

くるりと、紺の身体が回った。

オードンの左側に、紺がいる。

ここにきて、紺が新たな技術を身に着けた。

単純で、直進的なオードンの攻撃だから試せた技術。

中国武術、化勁(カケイ)

紺が、オードンの攻撃を流した。

オードンの視線が、左方向に向く。

その瞬間、何本もの閃光が走った。

中段正拳突き。

オードンの左半身に、打ち込まれた。

右、左、右、左、右。

合計五発。

オードンの身体が傾いた。

オードンは、無理やりにでも踏みとどまろうとする。

そんなオードンの左太腿に、紺の右足が乗った。

その勢いで、オードンの顎に向かって、左膝を放った。

オードンの身体が、どさりと倒れた。

仰向けに。

紺はまだ、空中にいた。

紺の右膝が、オードンの腹に向かって落ちる。

「かっ…」

オードンのかすれた声が聞こえた。

紺は立ち上がり、距離を取った。

またさっきみたいに、反撃を食らうかもしれないと思ったからだ。

だが、その様子はない。

オードンは仰向けに倒れたまま、息を漏らしている。

それでも、紺の警戒は解かれなかった。

しかし、本能とは別に、思考が働く。

追撃をし、完全なる止めを刺すべきだと。

紺は踏み出した。

右拳を、降り落とす気でいた。

構えた瞬間、紺の本能が体を止めた。

その数瞬後、オードンが立ち上がり始めた。

ゆっくり、確実に。

紺は動けない。

無意識的に恐怖している。

オードンが完全に立ち上がった。

紺は思う。

なぜ起き上がれる。

答えは単純だった。

プロレスラーだから。

紺の顔面に、オードンの左拳がめり込んだ。

紺の身体が吹っ飛ぶ。

見えなかったわけじゃない。

ただ、避けれなかった。

紺が仰向けに倒れた。

オードンは走っていき、ロープに飛び乗った。

紺は危機を察知した。

だが、先の攻撃で動けない。

オードンは両腕を振り上げ、両拳を合わせた。

その技は。絶神プロレスの、看板のような技だった。


オードンが絶神プロレスを立ち上げ、間もない頃。

門下生は数人だった。

オードン(当時三十二歳)は、もっと派手で、強くて、見た人間全員が刺激されるような技を考えていた。

そんな中、偶然見つけた。

技の基となるものを。

オードンが見たのは、飛び込み。

プールに飛び込み、その姿勢や彼方で得点を決める競技である。

オードンはこれを、技とした。

両腕を上げ、拳を合わせ、相手に向かって飛び込む。

技の命名は、オードンの師匠、武浦充郎(タケノウラミチロウ)ことロード武浦(タケウラ)が名付けた。

「水に飛び込むだけじゃだめだ。もっと豪快に、まるで神の如く、そうだな…」


飛び上がる。

紺の胴体に、両拳が落ちた。

海割り。

オードンは身体が倒れ、落ちたところをさすりながら起き上がった。

紺へ振り返る。

しっかりと見た後、審判に目配せをし、右腕を高く掲げた。

「シャッ!」

「勝負あり!」

観客が沸いた。

試合場一杯に、歓声が響く。

部屋は、熱気に包まれた。


「黒山さん」

龍一が、話しかけた。

試合が終わり、控室に戻る途中に話しかけたのだ。

「初めての敗北だった。化勁まで使い、全力で負けた。よき戦士だった」

「黒山さん…」

紺が顔を上げた。

「龍一、もうすべては伝えた。俺は一人で行動する」

紺が言った。

「いつか、戦りましょうね」

龍一が笑って、手を出す。

「藤木のことについて、終わったらな」

龍一の手を掴んだ。


「さて、行くとするかな」

凛太が、首を鳴らす。

「頑張れよ」

龍一が声をかけた。

「これに勝って、次勝ったら、お前とやれるのか」

凛太は龍一の顔を見て、ニヤリと笑った。

「いつの話してんだよ。行ってこい」

「シャア!」

凛太の声が、廊下中に轟いた。


廊下に、巨体の男が立っていた。

柔道着。

哲だ。

哲が試合場を前に、仁王立ちしている。

凛太が上がろうとしている試合場を、遠い目で見ている。

「ふぅ~」

深く息を吐いた。

その瞬間、目がらんらんと光った。

試合場へ、一歩ずつ確実に歩いていく。

凛太は既に、試合場に上がっていた。

観客をかき分け、リングロープに手をかける。

ゆっくり、上がっていった。

凛太と睨みあう。

「田中哲、身長百九十八センチ、体重百六十五キロ。時牧戦録、十三勝無敗」

審判は東蓮だ。

「轟凛太、身長百八十二センチ、体重九十四キロ。時牧戦録、十一勝一敗」

凛太が歯を見せて笑っている。

「審判は私、正 東蓮が務めます」

哲が息を吐いた。

「なぁ、あんた」

哲が凛太に話しかけた。

「俺がどういう手を使っても、恨まないか?」

「?あぁ。戦闘に恨みっこはなしだぜ」

「そうか。なら、お前は勝てない」

哲が言い放つ。

凛太は困惑したように、声を上げる。

「どういうことだよ」

「甘い」

哲はそう言って、リングロープに近寄った。

「では、始め!」

東蓮の開始の合図。

同時に哲が駆け出した。

凛太は、上に何も着ていない。

技はかけにくい。

対して、哲は柔道着を着ている。

こちらは好きに、技を掛けられる。

そもそも、有利。

そう思っていた。

ガツン。

右頬をぶたれた。

哲が左拳で殴ったのだ。

哲が殴ってくるとは思わず、油断しきっていた。

更に、重い。

体勢を崩している隙に、右腕を掴まれてしまった。

哲が右腕を、凛太の腰に回した。

そして、投げられる。

凛太は背中から落ちた。

「かはっ」

予想外の威力。

ここで、凛太は知る。

柔道を、田中哲の恐ろしさを。

だが、負け続けてはならない。

凛太が両手を床につけた。

突き放す。

両足が、哲の胴体を打った。

哲が痛みに、顔を歪めた。

しかし、踏みとどまる。

凛太が立ち上がる。

二人とも、見合っている。

ダメージでは、凛太が上だった。

それがわかっている哲は、休まず追撃を仕掛けてきた。

柔道の構えである。

右手が前に突き出る。

凛太は後ろに下がって、掴まれるのを避けた。

そのまま、ロープまで下がっていく。

それと同時に、哲は追ってくる。

凛太の背が、ロープに触れた瞬間。

その瞬間に、凛太が蹴りを突き出した。

狙いは、哲の胸。

突き刺さった。

だが、効いてるのか、効いていないのか。

表情を変えず、凛太に突っかけてきた。

両手で掴もうとする。

凛太はその哲の両手首を、両手で掴んで止めた。

「ッ!?」

凛太は驚いた。

自分の体が、少しずつ後ろに曲がっていく。

(重っ…)

どんどん、凛太の体が下に下がっていく。

凛太が全力で、両手に力を込めた。

哲は一瞬顔をしかめ、凛太の体を蹴って離れた。

その理由は単純だった。

全力で掴まれたことで、腕の骨が悲鳴を上げたのだ。

哲が冷や汗を流す。

凛太が警戒するように、哲も凛太を警戒する。

故に、どちらも動かなくなる。

二人は、膠着状態に陥っていた。

その状態は、数十秒、数分にまで続いた。

そして、凛太が構えを解いた。

哲は、警戒を深める。

そんな哲の精神状態とは対照的に、凛太は散歩するかのように歩いて、哲に近づいていく。

後、数十センチ。

凛太が右手を出した。

哲の左の襟をつかむ。

そのまま、凛太は動かない。

哲は何かを察したかのように、右手を出して、凛太の肩を掴んだ。

睨みあった末に、二人同時に息を吐いた。

お互い、相手を片手で押す。

二人の体制が、少し崩れる。

すると、凛太が左手で哲の柔道着の帯を掴んだ。

哲は左手で、凛太のハーフパンツを掴む。

どちらも、両手に力を込めた。

凛太は、哲相手に柔道を持ち込んだのだ。

そして、凛太の体が浮いた。

凛太の体が、再び落ちる。


18話 だから 終

18話後書き。

牧オードン対黒山紺。

書いてて楽しかったです。

やっぱりプロレスラーって強い。

因みに、見返していて気づいたのですが、藤木組傘下の幽香組がいないことに気が付きました。

もう投稿してしまった以上、黒薔薇組や野呂組のところに行ける訳にもいきませんので、考えた結果、幽香組は龍を殺してしまった責任で解散という形にしてもらいます。

忘れてました。

今回は、忘れ去られてないか心配な、久慈島光郎です。

身長170センチ 体重54キロ。

次回は弟子の鶴島勇気ですかね。

では。

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