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龍道  作者: 栄光の平橋
時牧編
14/30

14話 虚空

龍一が廊下で歩きながら、総一郎と話していた。

内容は、古藤満の事だった。

龍一が苦戦を強いられた相手、ミサエル・ジャルマー。

そのミサエルを一切寄せ付けず、倒してのけた相手、それが古藤満。

満は反対ブロックではあるものの、龍一は警戒していた。

「正直、このトーナメントはレベルが高いけど、ミサエルも所詮は難なく突破できるだろう。だから、満の危険度は知っておかなくちゃ」

龍一が腕を組みながら、総一郎に話していた。

「さて、お手並み拝見だ」

総一郎が、リングに目を向けた。

「古藤満、身長百八十九センチ、体重百十一キロ。時牧戦録、十二勝無敗」

右目を隠す、黒い髪が揺れる。

満の左目が、相手を睨む。

「佐島虚郎、身長百七十八センチ、体重六十五キロ。時牧戦録、十勝無敗」

黒い髪が顎先まで伸び、両目が見えにくい。

身体は痩せ形で、肋が見えかけていた。

「審判は私、登 明凡が務める」

その言葉を発し終えると、満と虚郎は距離を取った。

「始め!」

声が上がった。

最初に、虚郎が動いた。

腕の位置や姿勢はボクシングのようだが、手は少し開いていた。

初撃、左ジャブ。

満の顔面に向かって飛んでいく。

だが拳ではなかった。

二本、人差し指と中指が立っている。

目突きだ。

満の両目に向かって、二本の指が飛んできている。

その向かってくる左手を、叩き落とす。

すると、今度は虚郎の右手が、目突きを狙ってきた。

しかし、また叩き落とされる。

「ツィッ」

舌打ちにも聞こえる音が鳴り、両手が何発も向かってくる。

観客たちも、気づき始めた。

虚郎が、目突きを狙っていることに。

反則ではない。

しかし、格闘士は殺戮者ではない。

自ら目突きを狙うようなものは少ない。

虚郎は、目突きをする人間だった。

観客たちは知らない。

何故か。

今までの十試合、純粋な打撃だけで挑んできた。

このような戦い方をする虚郎を、観客たちは知らなかった。

虚郎の指が、満の目に迫る。

だが、届かない。

何発撃ちこんでも、当たらない。

そして、右手が飛んできた時、満の左手が、虚郎の右手首を掴んだ。

困惑している虚郎の顔に、満の左拳が飛んできた。

当たった。

鼻っ柱をへし折り、突き飛ばした。

周りに血が飛び散る。

虚郎の背中が地面にぶつかる。

満は追撃に、駆け寄りながら右拳を振り上げた。

このまま追撃すれば、虚郎を殺すことさえできるだろう。

けれど、満は攻撃を止めた。

なぜ止めたのか、観客の声に、疑念が生まれる。

その疑念の中、虚郎が立ち上がった。

虚郎が、折れた鼻をつまむ。

そのつまんだ指に、力を込め、動かした。

数秒後、虚郎の鼻の形が、真っすぐになっていた。

虚郎の体は、特異体質だった。

痛みを分泌する脳の頭頂葉の部位が、人よりも小さいのである。

故に、人一倍痛みに強く、無理もできる。

虚郎の体が、満に向かって進み始めた。

ゆっくり、ゆっくり。

警戒してるのか、満は動かない。

いや、少し違った。

警戒しているのは合っている。

だが、動かない、ではなく、防御を固めているから、動けない。

両腕を立てて、頭の横に置いてある。

その満に、虚郎の体が近づいてきた。

虚郎が、拳を上げる。

左拳を、頭の後ろにやっている。

左足が後ろに、右足が前にある。

右手は、右足の太ももの横だ。

虚郎が左拳を、満の顔面へ打つ。

唯一開いている顔面だ。

拳が満の顔面に触れる。

瞬間、虚郎の体が吹き飛んだ。

満は、虚郎の拳が当たると、頭を後ろに動かして、威力を消し、そのまま右足を虚郎の胴に打ったのだ。

虚郎は、防御が薄いところに打ったのだ。

時牧戦録、十二勝無敗、古藤満。

それがわからない男ではない。

満は、警戒しながら考えていた。

どう出し抜くか。

結果、顔面への防御を薄め、狙いを一つに絞らせた。

相手が、外傷をものともせず、警戒心が薄い虚郎だったからこそである。

満の蹴りによって、虚郎はリング端まで吹っ飛んだ。

虚郎が顔をしかめる。

痛みはほぼない。

だが、気分が悪い。

気持ちが悪い。

身体の奥底から、マグマのように湧き上がってくるものがある。

痛みや、そういう類ではない。

虚郎の足元が、赤く染まった。

虚郎の目が、赤くひび割れる。

「殺殺殺殺殺サツsatuさつサtu」

虚郎が駆け出した。

両手を下げ、前傾姿勢で駆けていく。

そして、勢いのまま満の顔に向けて、右手を振った。

力は入ってなかった。

虚郎の生み出した、遠心力を利用して、相手を叩く技、投腕(トウワン)

止められた。

右手で、虚郎の右手首を抑えている。

虚郎の目が、大きく見開く。

そんな虚郎に、満の左拳が飛んできた。

虚郎の体が飛び、背を地面につけた。

満は今、両腕が重なっている。

右腕が下、左腕が上だった。

満は、その腕を重ねたまま、虚郎の体へ飛び込んだ。

虚郎の首に、両腕が落ちる。

「ゲバッ」

満の顔面に、虚郎の血が飛び散る。

満はそのまま体重をかけ、首を抑えた。

虚郎は、掠れた呼吸のまま、右手で攻撃を仕掛けた。

満の左肋に、虚郎の右人差し指が迫った。

満は冷静に、上半身を浮かせて、攻撃を避けた。

そのため、両腕が虚郎から離れている。

虚郎はなんとか脱出しようと、体を動かそうとした。

だが、満の左手で、右腕を掴まれてしまった。

そしてその右腕を、左脇に挟み込み、自分の方へ引く。

左前腕で、上腕を相手の方へ押した。

ミリミリと、肘から音が鳴る。

正確には、靭帯からだ。

虚郎が上半身を、少し起き上がらせた。

靭帯を千切られないようにするためである。

その浮かび上がった頭に、満の右肘が落ちてきた。

顔面直撃。

轟音を立てて、落ちた。

満が、右手を解く。

登が近づいて、状態を確認すると、腕を振り上げた。

「勝負あり!」

どっと歓声が沸いた。

龍一は、冷や汗を垂らしていた。

「あれが、古藤満…」

総一郎は、そんな龍一を横目で見る。

「強いな。勝てるか?」

「…分からない。機転力では、劣るかもしれない」

「機転力?」

「その場その場にあった行動を、瞬時に見極める力」

龍一が、地面に目線を移す。

「決勝まで上がってくるかも」

「…なるほどね。でも、まぁ…」

「まぁ?」

「対戦相手も強そうだが」


葉山浩二控室。

控室には、サンドバックがあった。

もちろん、時牧が設置したものではない。

葉山が持ち込んできたものだ。

「シュッ」

息を飛ばした。

サンドバックに、右ミドルがはいる。

「シッ」

左カーフ。

右ストレート、左ロー、右ジャブ、右ハイ。

強烈な連撃が、サンドバックに直撃していく。

汗を垂らし、葉山がサンドバックに背を向けた。

「フッ」

左に回転し、左踵を、天高く打ち込んだ。

すると、サンドバックに傷が入る。

そこから中身が、ポロポロと出てくる。

そして葉山が、右足を高く振り上げ、踵を振り下ろした。

サンドバックに、大きな傷が入った。

入った瞬間、ざらざらと中身がすべて出てきた。

葉山浩二、キックボクサーである。


宇田滉控室。

上は白、下は黒の道着を着ている。

正座だ。

控室の真ん中、中央に鎮座している。

黒い短髪、眉毛は尖り、同じ黒色である。

口は数センチだけ開き、目を閉じている。

滉の武術は、合気道。

宇田流合気護身術、その現当主である。

宇田家の子息には、当主になる条件があった。

それは、兄弟内で勝ち上がる事だった。

合気で。

だが、滉の代は、後継者が滉しかいなかった。

そのため、条件はほぼないようなものであった。

滉の実力は、現存する、父、宇田良太郎(ウダリョウタロウ)、祖父、宇田万之助(ウダマンノスケ)に、劣っていた。

滉は、実力を高めるため、裏格闘技に身を投げた。

しかし、実力はまだ届かない。

滉の目が開いた。


「葉山浩二、身長百八十四センチ、体重七十八キロ。時牧戦録、十三勝無敗」

黒い髪、眉、瞳。

ハーフパンツのみ、履いている。

「宇田滉、身長百八十二センチ、体重八十一キロ。時牧戦録、十八勝無敗」

道着のまま、リングに上っている。

「審判は私、正 夢坂が務めます」

夢坂が、二人に目を配る。

「始め!」

試合が始まる。

葉山が突っかけた。

構えながらの突進ではない。

短距離走を走るような、そんな姿勢で駆けていた。

滉に迫っていく。

そして、滉に向けて、右ハイを放った。

滉は、後ろに躱す。

「シュッ」

息を漏らし、滉に畳みかけた。

パンチによるラッシュだ。

葉山は蹴りを打てる。

だが、打たない。

いや、打てない。

打てない理由は、距離。

遠すぎると蹴りは当たらず、近いと当たったとしても威力は半減し、掴まれる可能性もある。

もちろん、葉山は、蹴りの距離を取ることができる。

ならなぜ打てないのか。

滉が、少し距離をずらしているのだ。

だから、パンチのみで戦っている。

しかし、問題はなかった。

葉山は、拳による攻撃の鍛錬を、怠ったことがなかった。

徐々に、徐々に、滉は追い詰められていった。

段々と、スピードが上がりつつある。

回転力のみならず、拳速も。

そして、滉をリング端に追いやった。

下がることのできない滉の顔に、右ストレートを放つ。

直撃。

赤い血が、飛び上がった。

だが当たった代わりに、右手首を滉に掴まれてしまった。

左手で、がっしりと掴んでいる。

葉山は、後ろに体を引き、逃れようとした。

無理だった。

身体が動かない。

どころか、足が上がらない。

冷や汗が、顎を伝り、地面に落ちた。

その瞬間、ガクッと、葉山の体が崩れた。

両膝を、床につく。

口を開き、唖然としている。

滉が、手首を左に捻った。

すると、葉山の体が、左に回転した。

葉山から見たら、右だ。

回転した勢いで、側頭部を地面に打ち、頭頂部、左側頭部を順に打っていき、最後は左半身を地面に打ち付けた。

「かはっ」

葉山の肺が圧迫される。

葉山の体から、空気が一気に抜けていった。

空気が抜けたことで、血の周りが遅くなり、目の前がゆがむ。

脳に血が行き渡らず、思考が一瞬止まった。

目が虚ろになった瞬間、滉が足を上げた。

右足だ。

その右足を、葉山の顔面に向かって、思い切り落とした。

葉山の顔面に当たる。

グチョッと、嫌な音が鳴った。

滉の足が、赤く染まる。

滉は床に足を下ろし、葉山を見下ろしてから、手を離した。

手が離れ、葉山の右腕が、落ちていった。

葉山の右腕が、地面に触れるとき、手首が回転し、掌が地面に触れた。

「なっ」

滉が声を漏らす。

葉山が、勢い良く立ち上がる。

顔を血に染め、床にボタボタと溢しながら。

左目が、半目になっている。

先ほどの《《踏み》》で、瞼が落ちている。

口で大きく呼吸をしている。

鼻がつぶれ、十分に息が吸えないのだ。

重傷、のはずだ。

だが、滉の目には、赤く燃え上がっているように見えた。

それが、葉山なのかはわからない。

ただ、笑っていた。

踏み込んだ。

今度は、滉からだ。

右手を突き出す。

右手は、通常の拳ではない。

前に龍一が見せた、鳳眼拳である。

人差し指を、第二関節で折り曲げた拳だ。

両の拳が、そうなっている。

通常の拳よりも、一センチほどリーチが長いが、先ほどの滉のように、下がって避けていた。

左手を突き出す。

避ける。

右、左、右、左、右。

交互に突き出して言った。

そして、幾度か目の右。

避けられた。

しかし、次の一手が違った。

右足を前に出し、もう一度右拳を突き出す。

その多少のずれで、均衡が変わった。

当たっていなかった拳が、葉山の眉間を捉えた。

突き出ているところが、眉のちょうど真ん中に当たった。

葉山の頭が、後ろにつき飛ぶ。

その次に起こったこと。

葉山の均衡が崩れた。

反撃をせずに、避けるという、均衡が崩れる。

左ジャブ。

滉の顔面に向かって放った。

しかし当たらなかった。

残り数ミリ程度の所で、届かなかった。

その理由は、脳の揺れ。

滉によって疲れた眉間。

それによって、脳が前後に揺れ、空間の認識が正確ではなくなったのだ。

故に、外れてしまった。

滉が、葉山の右肩を掴んだ。

ドォンと、地面に激突した。

頭からだった。

葉山の顔が、床に少しめり込んでいた。

顔と床の間から、血が広がっていく。

それを見て、夢坂が顔をしかめ、左手を上げた。

「勝負あり!」

声が、部屋中に響き渡った。

観客たちが、燃えるように叫んでいる中、滉はゆっくりと控室に戻っていった。


控室の扉を、ばたりと閉める。

ため息をつき、帯に両手をかけた。

するすると、慣れた手つきで、道着を脱いでいった。

道着を脱ぎ終わると、椅子の上に置いてある、洋服に手をかけた。

滉は、洋服を着終わると、脱いだ道着に目を向けた。

黒い帯の端には、宇田流合気道と、白い文字で書かれている。

滉が目をそらした。


14話 虚空 終

14話後書き。

遂に書きました、古藤満。

満の元ネタは特にありません。

ただ、主人公が苦戦した奴を倒す奴がいたら面白いだろうな、と考えて生まれたキャラです。

なんならこの話を書くまで、満の設定は考えていませんでした。

そして、葉山浩二対宇田滉。

ここで一つ、報告があります。

葉山浩二というキャラの名前、浩二です。

実は、浩二というキャラは、漢字もそのまますでに登場しているんです。

2話の裏格闘技にいます。

龍一の初対戦相手です。

同じ名前という事なので、本編では葉山と呼んでいます。

名前被りは気づきませんでした。

さて、今回はあのキャラ、富士宮です。

フジミヤではなく、フジノミヤです。

身長193センチ 体重132キロ。

元ネタは、特にいません。

書いてるときに、雷伝為衛門みたいだったらな、とか考えて書いてました。

では。

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