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月夜譚 【No.301~】

闇に染まる 【月夜譚No.371】

作者: 夏月七葉

 好きなものを嫌いになるのは難しい。

 楽しい、美味しい、面白い、可愛い……ポジティブな感情は心の中で花開いて、余程のことがなければ対極の気持ちは中々生まれない。心地良い思い出はそのまま、温かく残るのだ。

 ――ずっと、そう思っていた。

 先ほどまで小降りだった雨脚が強くなって、視界が煙る。車道でタイヤが水飛沫を上げる音がやけに大きく響き、それ以外の音が判らない。

 庇の下にいた彼女は、傘もささずに雨の中に足を踏み出した。一瞬で全身がずぶ濡れになる。

 雨に体温を奪われて、指先から冷えていくのが判る。けれど、雨を避けようという気力はなかった。

 ゆっくり歩く歩道に人気はなく、一人でただ周辺を彷徨った。

 頭を占めているのは、数分前に見た光景。たった一つの厭に赤い傘の下、影を重ねた後で楽しそうに会話をする男女の笑顔だけだ。

 あまり利かない視野と肌を流れる感覚は、雨だけのせいなのだろうか。それすらも、もう彼女には判らない。

 見てしまったものが、彼女の心を塗り替える。明るく華やかだった感情は、憎悪の黒に染まってしまった。

 好きなものは、好きでいたかった――。

 微かな願いは花火のように散って、凍てついた星月のない夜空が支配した。

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