第19話 里の泉 4/9
二人のユリが森の奥に消えてしまうと、タクヤは顔をしかめて「なんなの、あの二人?」とゼンに聞いた。
「リーアンさんが言っていたことは、本当だったんだな」
ゼンはしみじみとつぶやいた。
「いや、だから、なにが」
「龍人族は、スーサリアの祈り師が組織したグループだってこと」
「凶悪テロリスト集団を?」
さすがにその言葉には、ミルシードが「そういう言いかたはよくない」とダメ出しした。
「ご、ごめんよ……でも、結局、そういうことだろ?」
やがて肌の黒い龍人の女性二人が、茶をとどけに来た。
白いティーカップを四人の前に置き、陶器のポットから温かい茶を注ぎ入れる。 やわらかなハーブ茶の香りがひろがり、ゆるやかに森の空気にとけていく。
「おいしい、ありがとう」
ミルシードが礼を述べると、龍人たちは去って行った。
タクヤもカップに口をつけて飲んでみた。ほのかに甘く、すっきりとした味わいだった。悪くはないが、はっきり言ってただのハーブ茶。
「あのさぁ、祈り師のユリが二人ってどういうことなんだよ」
「帰ってきたら、ゆっくり聞いてみるといい。しかし美しい森じゃ。砂漠の中にまだこんなところが残されていたなんて、さすがのワシも全然知らんかった。きっとスプロス山の伏流水が流れてきているんじゃな」
「あのねえ、のんきに観光客みたいなこと言うの禁止!」
イライラするタクヤを無視して、ミルシードが、ゼンに聞いた。
「私、これ、初めて飲むお茶かも。なにかしら? シクレコ草?」
「だろうな、この独特の香りは」
「シクレコ草は、とても苦いはずよ。これ、香りは似ているけど、苦みが全くなくておいしい。苦みをぬく方法があるのかしら。それとも栽培方法?」
「あとで教わって帰ろう」
「そうね、忘れないで」
二人の会話に、タクヤはため息をついた。
「あ、あのさぁ、茶の話なんかしている場合かよ……」
「あんたのためなのよ」
とミルシードが言った。
「この薬草は、あなたの病変に効く貴重なもの」
「効かなくていーよ。そんなこと、頼んじゃいない。僕にはユリがいるんだし、祈りで治してもらうんだから」
「そのユリは、いったい、何を知っとるんじゃろうの」
ポル爺が冷たく言い捨てた。
タクヤは、心の中で苦々しいものを感じていた。
ユリが、王宮を破壊した張本人である龍人族の女王を知っていた、とはどういうことだろうか?
今までユリはそのようなことを一度も言ったことはなかったし、むしろ龍人族については詳しくは知らない態度をしていた。
なのに龍人族のリーダーと知り合い?
この状況はどう説明したらいいのだろう?
僕は、だまされていたのか?
しかしタクヤはすぐに否定する。
悪いのは龍人族の女王ユリであって、王宮の診療所で暮らしてきたユリは、明らかに被害者だ。
あの日、死にそうになるまで祈りにつくしたユリの姿は、まごうことなき本物。
大丈夫、とタクヤは自らに言い聞かせた。
何があっても、僕は、君のことを信頼する。
それこそが、僕と君の関係。
なによりもかけがえがないもの。




