第18話 荒野 5/5
次の休憩ポイントには、替えの馬が待機していた。
今回の『作戦』には、多くの砂漠の民も協力しているらしい。
馬の代わりに現金や弾丸が地元民に渡される。
タクヤは、初めての馬に苦労した。
願わくば、後ろにユリを乗せて疾走、といきたかったが、さすがにいきなりは無理。
今回はほかの仲間同様、龍人戦士の後ろに乗せてもらう。
「オレは、ツーコアだ」
戦士は、走りながら自己紹介した。
「僕はタクヤです、いちおう王子してます、よろ」
「おまえ、死は怖いか?」
「なんでそんなこと」
「重要なことだと思うが」
「それはそうだけど」
「初めて馬にまたがると疲れるだろ。何かしゃべっていた方が気が紛れる」
固い筋肉をした、いかつい戦士が、気をつかってくれている。
「僕は、死が怖いというより、死が何か、わからない」
「見たこと、ないか?」
「あるよ。ついこないだも、王宮が爆撃されて、たくさん怪我人を見た。たまたま診療所にいて、必死で手伝ったんだ。死んだ人も、少なくない」
「祈り師は? いなかったのか?」
「いなくはない。でも今は、王が遠征中で、ほとんどのスタッフが王宮にいなくて、唯一の祈り師がユリだった」
「あの女か」
戦士が右に顔を向ける。
「いや、あの人は貴族の娘のミルシード。もともと気が強い人だったけど、いまじゃあ、いっぱしの荒野の女きどり」
「では、あの黒髪だな」
戦士が見るの乗った馬の後ろの馬に目を向ける。
「そう。祈り師のユリ」
「いい女か」
ズバリと問われて、タクヤは、とまどった。
「い、いい、いい人だよ、うん、それはそう」
「すまん、そういう意味ではない。いい祈り師か、と聞きたかった。わるい」
戦士は素直にあやまった。
タクヤは苦笑した。
「ユリは、新人の祈り師。でも、保障するよ。スーサリア最高の祈り師」
「それは楽しみだ」
「はあ?」
「なんでもない。下りだ。飛ばすぞ、しっかりつかまっておけ」
タクヤは、レザースーツの戦士の身体に、腕を回してしがみつく。
男の匂い。
オレンジ色の砂の色。
目を襲うホコリっぽさ。
乾いた風。
激しく響くひづめの音。
快適ではない。
しかし、なぜか、心が躍った。
馬が大地を蹴る力に、身体の底からわき上がるような喜びを感じた。
走るとは、これにちがいない。
世界を疾走する。
どこまでもいけ。
ルールなんて無用。
走ればわかる。
「なあ、ツーコア、君は、強いのか?」
タクヤは質問を叫んだ。
砂漠らしい豪快な返答を期待しながら。
しかしその問いに対する男の返事はこうだった。
「オレは、祈りによって生かされている」
荒野の戦士から発せられたのは、病んだタクヤをとまどわせるほど正直な言葉だった。




