第18話 荒野 4/5
渓谷には、不思議な風がながれていた。
一万年前の影のような。
昔は川が流れていたのだろう。
今は乾ききっている。
左右の岩が削られて、下に広い道のような砂地が続いている。
龍人たちが列車から走り去るときは全力疾走だったが、今は早足程度にスピードを落としていた。
たしかに長い旅路になりそうだ。
荷台の突き上げはキツかったが、会話ができないほどではなかった。
「なあ、ゼン、こいつらマジモンの龍人族なわけ?」
「ああ。見ればわかるだろ」
「わかるわけねーよ」
「レザーやゴーグルで身体をかくしているが、見えるところを見れば、おまえのあれと似ている」
「あれ? 肌に浮き出るやつ?」
「そうだ」
「うそだろ。だって、みんな、ピンピンしてる。むしろめっちゃ強そうなんだが」
「いい祈り師がついているのさ」
「はあ?」
タクヤは耳から入ってきた言葉が信じられなかった。
「祈り師って、ほかの国にもいるの? ユリは知ってる?」
話をふられ、ユリは首を横に振った。
「じゃあ、なに。どういうこと?」
タクヤの問いに、ポル爺が答えた。
「タクヤ、おまえはな、招待されたんじゃよ」
「はあ?」
「やつらが襲撃風の迎えにきたときに教えたかったが、車掌や客もおってはそんなことは言えん。みじめな捕虜のフリをしてやった、ちゅうわけだ」
「なになに、どーゆうことそれ」
「王の元に行く前に、龍人の里を知っておく。王子として必要な過程じゃ」
「必要って、誰がそんなこと決めてるんだよ。いろいろ奪いあったり力関係があったりするのはわかるけど、実行犯として破壊と死をもたらしたのは龍人族、そうだよね? 大切な人に死をもたらしたテロリストたち。僕は何かまちがってるかな」
「とりあえず、どちらの大国からも邪魔は入ってこないようだ。大切な王子の行方は衛星で監視されているはずなのに。つまり、認めている、ということじゃ」
「認めているとか認めないとかって問題じゃないんじゃないかな。僕たちは現実に連れ去られているんだよ」
ゼンは、目を細めて、眠そうにあくびをした。
「おいゼン、何眠そうにしてるんだよ。まさか、誰か、連絡でもしたの? 『龍人族さんですかぁ、いま列車で走行中ですぅ』って?」
「走行中はちがうな。出発前に連絡しておいた」
あっさりとゼンが言った。
タクヤはぶったまげた。
「なななな、なんで? ていうか、どこに?」
「ラスカートの衛生局。東自治区にあるやつだ。オレも信じちゃいなかったが、本当にきやがって感心した」
「感心って……、だから、ゼンは余裕なのか」
「いや、ただ眠いだけ。乗り物に乗って何もすることないと眠くなるんだ、オレ」
タクヤの目にマジの怒りが宿った。
「ふざけんなよ。こんなの、お呼びじゃないよ。バンバンと銃を撃つようなやつら、冗談じゃない。それにこっちには女子もいるんだよ。ゆれるし、ホコリっぽいし、エアコンもないし」
そしてタクヤはミルシードにむかって言った。
「ミル、君こそこんなとき、最大限の不満と怒りをぶちまけるべきだろ」
「ま、そうね」
ミルシードは気のない返事を返しただけで周囲をながめている。
「どうしたんだよ」
「べつにどうもしないわよ。むしろ快適な列車だといろいろ考えちゃうから、私はこっちの方がいいわ。ガクガクゆれて異国情緒あるじゃない」
「なんなんなんなんだよ、意味分かんねーよ」
「ねえ、タクヤ」
「何だよ、ミル」
ミルシードは峡谷の風景を見つめたまま言った。
「あなたは、龍の里のこと、知ってる?」
「龍人じゃなくて?」
「そう。飛龍の里よ」
「しらない」
「私は、子供のときにきたことがある。親に連れられて。昔はあの山のふもとって、森が広がっていたはず」
「昔って ミルが生まれたあとなら、そんなに前のことじゃないよな?」
「ほんの十年くらいじゃないかしら。今は一面、砂漠ね。人間ってバカなことばかりやってるわ」
「なにがあったの?」
「詳しくは知らないけど、地下資源が発見されて、戦いが始まって、森が焼かれて、廃墟になった」
「そんなことが……」
「まあ、現代では、よくある話よ」
「だから、このあたりは紛争地帯なのか?」
「欲望垂れ流して、奪いあったって、おたがい死んでたら、意味ないわ」
それを聞いて、ゼンが苦笑した。
「そうやって人の死を利用して、ぬくぬくと豊かな暮らしをする人たちがいる。貴族とかな」
「ゼン、皮肉のつもり?」
ミルシードはゼンをにらんだ。
「否定はしない」
「『あらまあ、この馬車にはどちらのシェフが乗っているの』なんてね。はっ。わるいけど、私はすでに、砂漠の女よ。荒野のミル、と呼びなさい。目にもとまらぬガンさばき。貴族のドレスなんて百万光年かなたに置いてきた」
「ミルさん、それ、あまり冗談に聞こえないかも」
苦笑するユリの言葉に、ミルは、バーン、と手で銃を撃つフリをした。
「ユリ、おまえはすでに死んでいる」
ユリを見下す視線をして、突き出した指先を、フーッと、一吹き。




