第18話 荒野 1/5
列車が停車した。
まもなく車掌のアナウンスが車内に響いた。
「……あの……やめ……とはいえ説明はしな……お願いです……暴力は……」
話がついたらしく、あらためてアナウンスがなされた。
「みなさま、本日はご利用いただきまことにありがとうございます。当列車は、ただいま龍人族による突然の襲撃をうけ、困っております。車掌の私も、本気でまいっております。予定通り走行して、みなさまを安全に終着駅までお届けしたいのはやまやまなのですが、私たちは警察ではありませんので、武器と申しましても、ウサギさんをなんとか殺せる程度のかわいい拳銃がひとつあるだけですので、とてもこれでは太刀打ちできない、というか、こんな申し訳程度の武器ならないほうがいいぞって思ってみたりしてみますが、我々は鉄道マンの鏡といたしまして、みなさまの安全を第一に考えたく思っているしだいですので……はい、わかっています……で、では、ここで、龍人族の方に、ご要望をご説明いただきたいと思います。どうぞ」
ガサガサとマイクが手放される音がした。すぐに太い声が響いた。
「我々は、危機的消費文明から世界を救うために立ち上がった龍人族。悪魔のスーサリアから迷い込んだ王子がいるはずだ。すぐに車外に出ろ」
そこでアナウンスの電源がいきなり切れた。
タクヤは一度深く呼吸してから、ユリたちと目を合わせた。
「なんでわかったんだ?」
「私たちのことですね? とても危ない気がするんですけど……」
そのとき、後ろの車掌車から、車掌が扉を開け、こちらの車両に走り込んできた。
「は、早く、ドアを閉めて、誰か……」
後部に座っていた男がドアを閉めると、数秒後に爆発音が響き、車両がゆれた。
全員が耳をふさぐ。
「あ、あ、あ、あいつら、わ、わ、わ、わ、私の車掌車を、ば、ば、ば、爆破しやがりましたぞぉぉ!」
窓の外では、馬に乗った男たちが、停車した列車を囲んでいた。
ボスらしき大男が叫んだ。
「王子、さっさと出てこい。早くしないと次の車両も爆破する」
それはタクヤたちの最後尾のことだ。
車両に乗っていた乗客たちが不満げに立ち上がった。
「おいおい、呼ばれているやつはさっさと外に出ろよ」
「関係ねーオレたちを巻き込んだら、オレたちがただじゃおかねえぞ」
車掌は立ち上がると、ふらふらとよろめきながらタクヤたちの席まできて、ひざまづいて懇願した。
「あのぅ、申しわけありませんが、龍人族が現れては、いたしかたがございません、どうか、あきらめていただいて、お願いします」
乗客に詳しい車掌は、よそ者であるタクヤたちの正体を察していたらしい。
タクヤは感謝をこめて言った。
「車掌さん、とっても素敵な列車の旅でした。本当に喜んでいたところなんですよ。これでお別れなんて、ものすごく残念です。でも、やっぱり、行くしかなさそうですね」
「はひ。わたくしも非常に残念であります。本当に本当に残念で仕方がありませんです。でも、行っていただくしかなさそうでございます」
タクヤが立ち上がる。
するとユリたちも立ち上がった。
タクヤは手で制した。
「いや、僕だけでいいから」
「だめです。私も行きます。だって、そのための祈り師です」
「ユリ、これ以上ぬけがけなんて許さないわ」
タクヤは一瞬、ミルシードの言葉の意味がわからなかったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
通路むこうの爺さんも立ち上がった。
「しかたがない。ワシはおまえを守るためにおるのだ」
平然と言って立ち上がった老人に、だったら守れよ、と、タクヤは怒鳴りたかったが、ぐっとこらえた。
ゼンだけは座ったまま、めんどくさそうにあくびをした。
「じゃあ、オレは寝てていいか?」
タクヤはそのシートを足で思いっきり蹴った。
「おまえこそ仕事しろ、何のためにいるんだよ」
タクヤに言われて、ゼンはため息。
「勝てる相手じゃないっしょ。無理言うなちゅうの」
「勝てなければいいのかよ、そーいう態度なのかよ、やる気なさすぎだろ」
「うちは労災も出ないし」
「はあ?」
タクヤの声が裏がえった。
すると見かねたポル爺が、しかたなさそうに口添えした。
「タクヤ、むりいうな、こいつはワシよりも弱い」
ゼンは爆笑して、立ち上がった。
「弱くて悪かったな。ま、呼ばれたもんは、行くしかないだろ。列車が遅れちゃ悪い、さっさと行こうぜ」




