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第17話 愛と混乱 4/5

 ユリは真顔で、理解できない、という顔をした。


「どうして? それを心配するのは、君の方のはずだよ」

「祈ってもらうときに、感じるんだ。言葉が伝わってくる。不思議だけど、たぶん、それは、ウソがないやつ」


 タクヤは、ついに口にしてしまった。

 嘘をつけない、祈りの中の、二人のつながりについて。


「私を見透かしてるの? 恥ずかしいな」

「ねえ、否定してくれよ。それだけは、ないよな? ありえないよな?」


 ユリは、わざとらしく苦笑した。


「まあ、私は健康だけがとりえって感じだからね」

「命の危険があるのは僕の方で、ユリではないよね?」

「あたりまえです」


 タクヤはほっと胸をなでおろした。


「だよね。何だろう、ずっと不思議だったんだ。たぶん、病の本質を共有すると、僕の中にある死の要素みたいなものが、君にもはね返ってしまうんろうだね」

「そうです。たしかに、そういうことはあると思います」


 ユリは、やさしく微笑んで、彼の手に、手を添えた。


「私は、まだまだ未熟者。でも、あなたのために、全力をつくします。こんな私ですが、今は、信頼してくれるとうれしいです」

「もちろんだよ。ユリを信頼しないで、誰を信頼するっていうんだ」


 タクヤは、鼻をすすりながらも、しっかりと断じた。

 するとユリは、タクヤに顔をよせた。

 二人の目が、すぐそばに近づいた。

 それは、いざ数センチまで近づいていてみると、とても自然なことだった。

 あせったような衝動も、むず痒くなるような違和感もなく、まるで最初から、そうあるべきことだったかのように。

 ユリは、さらに身体を伸ばして近寄ると、彼の唇に、唇をかさねた。

 少しだけ。しかし、本当に。


 数秒ふれあった唇。

 ユリは、さっと自分のシートに戻って、姿勢を正した。


「なお、いちおう、この治療に関しましては、ほかの人にはナイショでお願いします」


「ぼぼぼ、僕も、この治療に関しては、ビックリしたけど、きっと効果満点だと、思います、的な、言葉にすると、むだにしてしまいそうな、大切さ。一生大切にします」


 ユリは、笑みを浮かべ、澄んだ横目で彼を見た。


「タクヤ」

「ん?」

「私も、こう見えて、あんがい、本気なのです」


 ユリは、ほほを赤く染めると、律儀にかしこまって、正面を向いた。

 

「ありがとう、ユリ。本当に、一生、忘れないよ。でも、本当の祈りも大切だよね。治療の重要さ、わかってる。自制も必要。でも、なんか、ありがとう。これでもう、迷わずに済むよ」


 自信を取りもどしたタクヤ。

 その表情は、たしかに真の王子への一歩を踏み出していた……



  ◆ ◆ ◆



 ユリは、祈りを通して真実が伝わってしまうことを怖れた。

 伝わることは、基本的にはしかたがないこと。

 せめて、それをおおいかくせるような、強い何かが必要。


 だから、風呂で聞いたミルシードの印象的な愛の台詞を、そのまま借りた。

 キスをした。


 内心、「ごめん」と、懺悔しながら。

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