第17話 愛と混乱 2/5
「あなたがいろいろ大変なのは理解する。でもね、王宮なんてそんなものよ。平和に働いて、ご飯食べて風呂入って寝る、なんてことは、無理な場所なの。何百というルールがあって、不動の予定にしばられて、悩んでいても、お腹が痛いときでも、人々に微笑みを振りまく。しかも今は、ベルベスをめぐる混乱。現実に人が死ぬ。こんな時に、あなたが強くならなくて、どうするのよ! べつに泣くなとは言わないわ。むしろ、私たちの前なら、いくらでも泣いていい。でもね、それでも、あなたは、強くあってこそ、なのよ」
タクヤは、ミルシードの言葉を聞き、一瞬迷ったが、このさい、本音をぶちまけてしまう。
「それは、君が、強いからだろ。強いから言えることなんだよ。僕は、ちがう」
「わかってるわよ、そんなこと! あなたが、繊細で、素直で、がんばっていることは、すごく……なんていうか……いいことだと思うわよ。でもね、それじゃあ、やっていけない、って私は言ってるの!」
「ミルさん」とユリが厳しい顔をして言った。「心にも、外傷ということがあります。治りにくいし、傷跡を残すんです。時間が必要です。それは理解しないと」
「なによ、また、ユリの医学ボケ?」
「ボケではないです」
「じゃあ、彼のことを、ちゃんと愛しなさいよ」
「ミルさん……」
「あなたは、それが専門の人なんでしょ。小手先の技術で祈ってないで、ちゃんと彼を愛しなさいよ」
「そんなこと、できない」
「できないなら、今すぐ、この場から去りなさい! 祈り師として、あなたは失格なのよ!」
場が凍る。
「もう、アンタたち見てると、私までダメになっていきそう。もういい、トイレ行ってくる」
ミルシードは、バタバタと大股で前の車両へ歩き去った。




