第17話 愛と混乱 1/5
もどって来たゼンとポル爺は、タクヤたちとは通路を隔てたシートに無言で座った。
特に険悪なことはなく、普通に「どうぞ」と譲り合って。
出ていくときはヤバイ雰囲気だったはずだが、何を納得してもどって来たのか。
彼らが何を共有したのかは、タクヤには全くわからなかったが、二人が大切な何かを共有してきたことだけは、明確に察せられた。
そして二人はそのまま仲良く眠ってしまった。
疲れたのだろう。
あるいは、ひさしぶりに、安心できたのか。
列車が停車駅に停車した。
わずかばかりの乗客が乗り込んでくる。
砂漠の商人や家族づれなど。
まだ空席はあるが、6〜7割ほどは客で埋まった。
そして再びゆっくりと走り始める。
加速には時間がかかった。
しかし確実に加速を続けていく。
カーブのない砂漠の直線ルートは、かなりのスピードが出せるのだった。
うなるように加速した列車は、渦を巻く砂ぼこりを残して疾走していく。
◆ ◆ ◆
「何だよあいつら、心配させやがって。仲がいいのか悪いのか、ゼンゼンわかんないし」
熟睡してしまった通路向かいの二人を見て、タクヤがグチをもらす。
ユリは苦笑した。
「どうなるかと思ったけど、でも、よかったです。ね、ミルさん」
「ユリ、あれはよかったといえるほど単純じゃないと私は思うけど、でも、なんかむしろ、信頼度は増した気がするわ」
ミルシードは頬杖をついて、横目で二人を観察した。
タクヤは、天井を仰ぎ見て、つぶやいた。
「なんかさ、こうやって、信頼できる仲間と列車の旅なんて、夢みたいだな。あのときと比べると。あのときのことを思い出しちゃうよ」
「なに?」
ユリの素直な問い。
タクヤは、それと同じ表情を知っていた。
そう、あの夕日の下でも、ユリはおなじように、無防備なまなざしを向けてきた……
「メリルさんの決意は、もちろん尊重するよ。すごいことだと思う。でも、本当にその必要があったのかな。僕には、わからないよ。君たち二人は、第一秘書のメリルさんとは、会ったことある?」
「もちろん」とミルシード。「頭のいい高貴な人だった。でも、基本的には武人よ」
「ですね。親切な人だったけれど、誰かと心を許して笑い合っているような姿は想像できない」
タクヤはうつむいた。
「僕は、あの人となら、笑い合えたと思うよ。目覚めた朝、僕はまだ身体がうまく動かなくて、そりゃあ3ヶ月も寝たきりだったんだから当然だよね。そんな僕を、あの人は、ほほ笑みながら助けてくれた。あの感じ、何なんだろう。恋人でもなく、母親でもない」
「忠臣」
ミルシードの冷たい言葉に、タクヤは首を振った。
「そうではないな。たぶん、それは、友情だったんだと思う。信頼できたし、同じようななにかを背負っているから、わかりあえる感じ。頭を強く打って死んでしまったけれど、重症で運ばれてきたときは、まだ息があったんだ。ユリに祈ってもらって、安らかに息をひきとった。その直前、なにかを口にしていた。僕はそれを、さようならとか、ありがとうとか、そんな普通の最後の言葉と理解していたんだけど、じきに気がついたよ。『あとは頼みます』と言われたんだ。僕たちはそういう関係だったんだ」
「わかるけど、あなたが自分の上に爆弾を落とすのはなしにしてよ」
ミルシードは冷たく言って肩をすくめた。
「ミル、それは、わからない。いつか、そうすべき時が来たら、するのかもしれない。メリルさん自身、何らかの形で、彼女の前の人から、それを引き継いだのかも」
沈黙ののち、タクヤはうつむいた。
涙が、あふれてくる。
あふれてきた涙を腕でぬぐい、上を向いて、鼻をすすった。
「僕はさ、それを引き受けるのは、かまわない。どうせ誰かがやらなきゃいけないことなら、僕がやる。ただ、せめて、こういう旅のときに、あの人も、いっしょいてくれたら、楽しかっただろうな、って……」
嗚咽がとまらなくなるタクヤ。
すると、ミルシードがいらいらして叫んだ。
「いいかげん、そういうことを言うのはやめてよ!」




