第16話 鉄道 6/6
ポル爺が、ふところから小型ナイフをとりだし、ゼンにむかって突き刺そうとした。二人分のシートの壁際まで突き刺す勢いで。
ゼンはシートから飛び上がり、空調に手をかけて、姿勢を整えて、ポル爺が座っていたシートに落下して座った。
ポル爺は、ふり返って、笑った。
「やるな。おまえなら、ワシの弟子にしてやってもいい」
「強がるな。ナイフをしまえよ、物騒だ」
「おまえこそ強がるな。ここじゃあ、せますぎる。屋根にでるか?」
「それもいいか。食べて座ってばかりじゃ身体がなまる。運動、させてもらうか」
「こい」
二人が通路の後ろに歩いて行く。
歩きながらも、スキはない。
なんか、めちゃくちゃヤバイ雰囲気を感じたタクヤたち三人は、距離をとりつつ、二人を追った。
二人が連結器のところで、ジャンプして屋根に飛んだことはわかった。
しかしその後のことはわからない。
二人が、疾走する列車の上で、技をぶつけ合い、はじかれたり、はじいたりしながら、時にギリギリ屋根から落ちそうになるのをふんばって、反撃した。
そして最後には、「休憩」と宣言し、二人そろって屋根に寝そべって、笑い合った。
「やっぱ、あんたが、先代だったんだな」
「死にぞこなうと、ヘンなことが、まっているもんだの」
「守護騎士なんて、名前がダサいんだよ、そう思わないか?」
「そう言うな。調べれば、みんないいことしとる」
ゼンは、過去の守護騎士を調べる方法を知らなかったが、伝統が引き継がれている以上は、どこかに記録もあるのだろう。
「なあ、爺さんは、いつからあの村に潜んでるんだ?」
「潜んでなどおらん。生活しとるんだ」
「オレも、いつか、そうなるのかな」
「ワシは、まあ、セノラさんを見て、ビビッときたからな」
「なら、それでいいだろ。なんでまたタクヤに関わる?」
「しらんわ。うちらの縄張りに、あいつが飛び込んできたんじゃ」
「そうか。そうだったら、まあ、悪かったな」
「おいおい、なにをいまさら。おまえも自覚があると思うが、今回の案件は、とびきりじゃ。歴代最高レベルと言っても過言じゃない。ワシも命をかけて望むぞ」
「その割には、あんた、反応、鈍ってたぜ」
「65だ、贅沢言わすな」
ゼンは素直に笑った。
「じいさん、オレはあんたに『スーサリアのために』なんて言わねえよ」
「すきにしろ。ワシは、カテナ村の村長代理だ」
「ところで、三人の娘の話は、本当なのか? みんな、病で死んだってやつ」
「本当だ。血はつながっておらんがな」
「なんだ。つまらねぇオチだ」
「侮辱は許さんぞ。ワシは嘘は言っておらん。ただ、まあ、村の由来や薬害問題は、王子の成人には関係ないな」
「関係ないなら語るなよ。話をややこしくするな」
「うるさい、現実は小説とはちがう、いろいろあるんだ。しかし、まあ、これは、おまえたちの物語だからな」
「オレは、物語なんてクソ食らえだが、あいつには必要かもしれない。信じるとか、愛とか。あいつ、基本的にバカだが、純粋なやつなんだ」
「あいつも同じじゃったよ」
「はあ?」
「デルフィーニ」
「はっ、スーサリアの王を呼び捨てにするやつなんて、初めて会ったぜ」
「純粋で、思いやりがあって、突っ走って。まるで、本当の親子みたいだ」
本当の親子みたい……
「いいのかよ、そんなこと、オレに言っちまって」
「いいに決まっておる。しかし、正直、ユリが知っているのには、まいった」
「はあ?」
「ユリは、守護騎士も真っ青ってくらい、知るはずのないことを知っている」
「なんで、それを、あんたが知っているんだ?」
「初めて会ったとき、膝が痛いと言ったら、けなげに祈ってくれてな。向こうはこっちが誰か知らないから親切心でやったんだろうが、心がつながれば、ワシにはわかることがある」
「じゃあ、どうすんだよ」
「どうしたものか。とりあえずユリには気をつけろ。あいつが選択を誤れば、スーサリアは国として終わる可能性すらある」
ゼンは、目をつぶって、うなずいた。
「終わらせはしない。万全を期して対処する」




