第16話 鉄道 5/6
「汚染自体は、昔からあった。正確なことはわからん。わからんが、数百年前からすでにそういうことはあったはずだ。しかしその汚染は、あくまで一部の地域に限定されていた。そんなことがなぜ続いたのか、理由はわかるな? おまえたちの国に貢ぐものを作るためだ。ベルベスの原料だ。しかし、30年ほど前、ある企業がそこに目をつけた。新薬開発の誰かが、その効果に気がついたんじゃ。実際、それはアレルギーによく効いた。ひと頃は、魔法の薬として高値がつき、原料は各地で栽培が推奨され、精製も規模の大きなものになっていった。その精製を担当していのが、我々のルーツだ」
「製薬会社ですか?」
ユリが問う。
「『風邪薬、エルス〜』って広告、しらんか?」
「あ、製薬会社フーリューの」
「そう。今や世界トップスリーに入る巨大製薬メーカーだ。昔はのど飴だけの小さな会社だったんだがな」
「市販薬だけでなく、医療用の薬品でも伸びたんでしょうね」
「やつら、ヤマトザミから作った生成物でしこたま儲けたが、長くは続かんかった。あたりまえじゃ。副作用が強い。深刻すぎる。しかし発生件数が少なく、医学的な検証ができないのをいいことに、裁判も金でねじ伏せて、フーリューは金儲けに走った。汚染の事実もかくそうとした。だから、ワシらは独立することにした」
「でも、それだったら、自治区みたいなことでもよかったのでは?」
タクヤの疑問に、ポル爺はふんと鼻で笑って答えた。
「ワシらが働いていた場所が、そもそも自治区だった。エレリア地方のサウス・シェール自治区。ワシらのリーダーのセノラさんは、ずいぶんその自治区にも協力していたもんだが、それじゃあつまらん、となったわけだ。こうなったらベルベスを盗んでやる、そして未開の地で独立してやる、ってな。幸い、話のわかる小さな村も北海で見つけた。汚染で陸路は閉ざされ、荒れた海を渡らないとたどり着けない現代の秘境だ。
もちろんワシらだって、リスクは知っていたよ。知っていたと完璧に言いきるのは正確ではないが、少なくとも何も知らないわけではなかった。しかしな、考えてみてくれ。娘を三人も奪われて、金だけもらってありがとうございました、で、済むと思うか?」
ポル爺は、誰ということでもなく、前の空間をじっとにらみつけた。
「ワシらは、事実を世界に発信し始めた。するとな、本当に軍隊がやってきたよ。製薬会社といっても、あれだけ規模が大きいと、私設軍隊くらい持ってしまうんじゃな。ワシらは、そこでベルベスをたんまり抜き取って、逃げ出した。しんがりに、12人が選抜された。リアルに戦闘する小部隊。セノラさんが先頭に立ってな。セノラ・スダン。それが我々をみちびいた英雄の名だ」
「でも、その人は、たしか、おばちゃんのだんなさんで、お亡くなりになって……」
「そう、ユリの言うとおりじゃ。我々は無数のミサイル砲撃を受けた。しかし、その前に、重要なものはまとめられて、ワシに託され、ワシは逃げることに成功したんだ。どうだ、すごい話だろ。今なら、弟子、募集中じゃよ」
ミルシードがポル爺の頭をパコッと叩いた。
「いたっ。なんで叩く、おい」
「いや、なんか、話がいい感じだから、つい叩きたくなった」
「いい感じで叩かれていたら身が持たんぞ」
「ほうびだと思え」
「なんじゃそりゃあ」
「ところで、じいさん」
と、そこで急にゼンが、通路を隔てた席から言った。
「そのウソには、いつまでつきあえばいいんだ」




