第16話 鉄道 3/6
半分ほど客席が埋まったところで列車が動き始めると、すぐに車掌によるアナウンスが忙しげに流れ始めた。
「このたびはノジャ高速鉄道をご利用くださいましてまことにありがとうございます。高速鉄道というわりにはやや定刻を遅れての発車となってしまいましたが、みなさまにはおかれましては、どうかご理解いただきたく謹んでお願い申しあげますぞ。途中停車駅は、シベリー・オアシス、東山、中山、西山、山はずれ、さらに国境を越えまして、終着駅のマーサ連邦トケバ駅には、日が暮れて21時到着になる予定です、が、だいぶ発車が遅れてしまいましたので、そのへんの詳しいことは、追々、車内放送でお知らせしてまいりますので、なにとぞよろしくお願いいたしますぞ。この列車のトイレは二号車、四号車、六号車、八号車の前方にあります。車内販売は、途中、東山駅まで。その先は停車駅での立ち売り販売などをご利用ください。なお、本日の砂漠の天候は、気温28度、東の風2メートル、おだやかな快晴となっており、心地よい旅をお楽しみいただけるかと存じますが、山越え前後に軽い砂嵐の発生が予報されておりますぞ。当列車の運行には支障がないものと予想されますが、砂嵐の際は窓をきちんと閉めていただきますよう御協力お願い申しあげます。また、ここ数日、進路周辺に飛龍は確認されておらず、龍待ち停車はない予定ですが、なにぶん地域紛争の状況によりましては、長時間の停車になる可能性もないわけではないことも、どうかあらかじめご理解くださいませ。では、すっかり話が長くなってしまって申し訳ありませんでしたが、みなさまよい旅を。次の停車駅はシベリー・オアシス、シベリー・オアシスです」
実際はこの同じ内容を三つの言語でくり返した。
長いアナウンスが終わると、ユリは「すごく個性的な車掌さんね」とあきれ顔で言った。
ポル爺は鼻で笑って言った。
「ま、長い旅だからな。いろいろしゃべっておかんと閑をもてあます、って」
ユリはリラックスして微笑んだ。船の旅では決して見せなかった余裕ある笑顔。
先頭の気動車に牽引された列車、その最後尾の客室は、とても静かで快適だ。
砂漠の荒くれ男が利用するからか、シートも幅広で、前後の間隔も十分。
「で、おじいさんは何の話をしてくれるのかな。いっとくけど、このミルシード姫を退屈させたら、蹴り入れるからね」
「やれやれ。それじゃあ、まず、イルカの話からしようかの」
タクヤが、ユリと、目を合わせた。
この人は、シロのことを知らないはず。
タクヤがイルカと会話できる能力のことも。
きっとこれはただの偶然……
「むかしむかし、人にはいくつかの類似した種類がおった。サルだっていろんなのがいるとおり。しかしな、人は同族嫌悪というものをする。なんか似たやつがいるとむかつくんじゃ。
そのころ、どのくらい互いにコミュニケーションがとれたのかはわからんが、身振り手振りや、いくつかの共通の言葉くらいはあっただろう。そもそも、みんながみんな、けんか腰というわけでもない。中には、わかり合いましょう、というやさしい心をもった人もおったはずじゃ。
しかし、なんだろうな、人の本性というのか、わかり合えんものはわかり合えん。だから結局は殺し合う。
でな、そこに二つの……まあ、人間族としておくか……我々とはべつに、二つの人間族がおった。一つは、海で食料を得ることが得意なタイプ。もう一つは、高いところから武器を使って獲物を仕留める山岳タイプ。
海好きの人間族は、地上の殺し合いがいやになって、海で生きることを決めたんじゃ。最初は大変だったとは思うが、だんだんと身体が順応して、体毛がなくなり、手足はヒレになり、海中で会話するようになった。それが、今はイルカとして知られておる。……で、高いところから、って方は、何になったかわかるか、ユリ?」
「龍ですか?」
ユリにむりやり言わせた感。
「彼らは、凶暴な人から身を隠すために、断崖絶壁のわずかな割れ目をすみかとして、布を両手でかざして空中を滑空した。それが長く続くうちに、彼らの本能が身体を変化させて、手が翼になっていったんじゃ」
「でもそれ、昔話、だよね? 龍って、尻尾もあるし、むしろトカゲの進化したものじゃないの?」
タクヤが、だまされないように、と、確認の質問をすると、ポル爺はあざけるように笑った。
「そう思いたいやつは思えばいい」
「いや、べつに思いたいわけではないけどさ」
「たくさん話をしたら、腹がへった」
ちょうどそのとき、後ろの車掌車から、大きな台車を押して車掌さんが現れた。
「みなさま、車内販売、失礼しますぞ。お弁当、お飲み物、ビール、ウイスキー、フライドポテトなどはいかがでしょうか」
ポル爺はすかさず手を上げて、弁当と飲みものを人数分買い求めた。
「おおっ、ナイスナイス、まだ温かいステーキ弁当じゃ、車掌車で温めたんじゃな。最後尾はめっちゃいいな、静かで快適で、飯も美味い」
しかしミルシードは不満げだった。
「やれやれよ。つまらないじじいの話に、安っぽい米飯弁当。これが旅なら二度とごめんといいたいけれど、でも、この車窓の風景だけはすごいわね。本当に見渡すかぎり荒野の砂漠」
ミルシードは、風景を眺め、美味しそうに弁当をぱくついた。
「おまえ、完全に美味しそうに食べてるようだが」
「ほっといて。ところで、ポル爺、昨夜、何か言いかけていたけど、思い出したの?」
「は? 何を思い出すんじゃ?」
「まさか、思い出せなかったことを、思い出せないとおっしゃるか」
「ふむ、そうなるなら、そうなるかの」
「まあいいけど。ところで、今さらな質問していい? なんでポル爺が王子といっしょにいるの?」
「言ったはずだぞ。こいつは、ワシの弟子だ」
タクヤを指さすポル爺の頭を、ミルシードがパコッと叩いた。
「いてっ、なぜ叩く。おい、タクヤ、おまえからも何か言ってやれ」




