第16話 鉄道 1/6
タクヤたちは砂漠の民らしい安っぽい服装に着替えて駅に向かった。
ポンチョとか、ジーンズとか、つばひろ帽子とか。
長距離列車の始発駅にしては簡素な駅だった。
屋根すら全くない長いホームがひとつあるだけ。
しかしホームに着いてみると、意外に多くの乗客たちが車輪付きの旅行カバンや大型のリュックを背負って、それぞれの車両にむかって歩いていた。
すでに日は昇り、砂漠の方角から熱気をおびた乾いた風が吹いてくる。
列車が南に進めば、気温も上がっていくだろう。
タクヤは、簡素すぎるホームに意表を突かれたが、列車はいかにも砂漠を横断していくにふさわしい威圧的なものだった。
アイドリングのうなりを発している紺色の大きなディーゼル車。
それに連なる2両の貨物車と、8両の客車、最後尾に小型の車掌車。
「さすが、長距離列車って感じだね。この馬力ってどのくらいなんだろう、なあ、ゼン」
タクヤの男の子らしい問いに、ゼンは首を傾げた。
「気動車は、ギアでパワーをしぼり出すやつと、エンジンパワーでおしきるやつと、ふた通りあるからな……」
「音だけではわからない?」
「走り出したらわかるだろ」
二人の後ろで、ポル爺は、列車の側面の鉄板を、指の背でたたいた。
ボン、ボン。
「うむ、まあ、これならある程度は耐えられそうじゃな」
しかし女性二人は、列車のことには関心はない。
「ねえ、ユリ、私、美味しいもの食べたいな。今のうちに何か買っておいた方がよくない?」
「あそこに、車掌さんがいますね。聞いてみましょう」
二人がホームにたたずむ車掌さんとおぼしき人に声をかけると、その人はいきなり二人と同じ言葉で語り始めた。
「このたびはノジャ高速鉄道をご利用いただき誠にありがとうございます。ご質問などございましたらなんなりとお声がけください。私がこの列車の車掌兼、案内係兼、何でもがかりということでみなさまの旅の安全をお守りいたしますぞ」
「よろしく。で、食事はどんな感じなのかしら?」
「お弁当、お飲み物、ビール、ウイスキー、フライドポテトなどはいかがでしょうか。後程私が車内販売でおじゃまさせていただきますぞ」
「それだけ?」
「途中駅で気動車の交換がございまして、そこで売店もご利用いただけます」
「甘いものは? デザート系は?」
「いえ、あいにく特にそのような用意はなく……」
「え、でも、食堂車はあるわよね、あそこ」
ミルシードは、窓のない紺色の二両を指さした。
車掌は困った顔をした。
「いえ、あれは貨物車です。みなさんの荷物や、郵便などを運んでまいります」
「はあ? つまり、食堂車はない、ってこと?」
「はい、そのようになっております」
「なによそれー!」
ミルシードは、大げさに落胆した。
「この私が列車の旅をするというのに、食堂車がないとはどーゆうこと。そんなの、たとえ私が許しても、神さまが許さないわ」
「ミルさん、ムチャはほどほどに。私たち、いまは、これですから」
ユリが苦笑して、ポンチョをはおった両腕を広げた。
「なによ。意味わかんないんだけど。ねえ、車掌さん、あなた、途中で気動車を交換するって言ったわよね、ウソじゃないわよね」
「はあ……」
「いくらお金を出せば、そこで雰囲気のいい食堂車も追加できるの?」
ユリは、ミルシードの腕を引いて、車掌さんに頭を下げて、強引に遠ざけた。
「ミルさん、やりすぎ」
「ユリ」
「はい」
「あんた、よけいなことしてると、タクヤ様に、あのこと、言っちゃうぞ」
「いやいやいや、それはさすがにやめてください」
あせるユリ。
ミルシードは不満をかくさない。
「だって、座席で弁当なんて、パッとしない。そう思わない?」
「ポルさんは、美味しいお弁当があるって言ってましたよ」
「ステーキ弁当ね、まあ、しかたがないわね。我慢してあげる。今回は、いろんな体験できることに感謝しましょ」
ミルシードは、わかっているという意思を伝えるために、ユリの手をぽんぽんとたたいた。
ユリは「ですよね」と胸をなでおろした。
「おーい、この車両だ。8号車。最後尾だった。早く来いよ」
タクヤの声が響く。
いつものまっすぐな声。
手をふる彼を見て、元気になってよかった、とユリは思った。
本当は、ユリは、車掌がぶ厚いレンズのメガネをかけており、視力低下に悩んでいることに気がついていた。目の病には、祈りは効くはず。前から一度試してみたい、と思っていた。
しかし今は、そんなことをしている場合ではない。
王子タクヤ様のために、すべてを捧げてこその祈り師だから。




