表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/226

第15話 祈り 1/3

 砂漠の街。

 すでに今日の長距離列車は終了していたので、タクヤたちは地元の衣料品店で地元らしい服を買い求めて、慎重に追っ手が来ないことを確認してから、小さなホテルに宿を取った。

 本来ならスーサリアの正規軍がすぐに救助に駆けつけるべきところだったが、やはり連邦と対立するラスカート共和国の勢力圏内、ということがややこしくしていた。

 逆に、ラスカート政府は、衛星や監視カメラをつかって、一行の動向はほぼ確認していた。タカコ派を暗に支援し続けている共和国の見守りの下であれば、安全は確保されていると言える状況だったし、ゼンは完全ではなくても、そのような状況であることをうすうす察していた。

 だからのんびりできた。


 そのホテルの近くには、温泉を利用した公衆浴場があった。

 りっぱなリゾート施設ということではなく、主に住民に利用されている。

 一行は食事の後に、おんぼろバンに乗ってそこに向かった。

 火山の多いスーサリアの国民は、みな温泉が大好きだ。



  ◆ ◆ ◆



 ユリとミルシードは、ぬるめの露天風呂につかって、満天の星を見ながら、男子ぬきで語り合った。


「ねえ、ユリって王宮から出る機会ってあった?」


「あまりなかったですね、ミルさんもでしょ?」


「うん、まあ、行事として出ることはあっても、それは王宮の人たちに守られて、だからね。こんなふうに一人で外に出るなんて、夢にも思わなかったわ」


「なんか、楽しいですよね」


「いや、楽しいのはいいんだけど、問題はそこじゃないと思うよ」


「というのは?」


「ここだけの話、しちゃっていい?」


「生理痛か何か?」


「ちがうわよ。ユリのボケって、なんか独特よね」


「そうですか?」


「医学的っていうのかな、なんかヒロインから逸脱している」


「いやべつに、ヒロインではありませんから」


「じゃあ、聞いてしまう。タクヤ王子のことだけど」


 ユリは、ふっと顔を半分湯に沈めて、ぶくぶくと口から空気を吹き出した。


「ユリ、どう思ってるのよ、実際のところ」


 ぶくぶく……


「ねえ、思い切って質問してるんだからちゃんと答えて」


 はぐらかし続けるわけにはいかない、と悟ったユリは、湯から顔を上げて、はっきりと言った。


「私は、祈り師。それだけです」


「いや、仕事は大切だよ、それはわかる。でも、それじゃあ答えになってない」


「あなたこそ、どうなんですか」


「いや、まだそっちの話が終わってないし。彼は、あなたが好きなのよ」


 また、ぶくぶく……


 ミルシードはため息をついた。


「祈り師が、患者と深い付き合いができないのは知ってる。祈りって本当に深い行為だものね。王宮でもすごかったし、転落した女を助けたのだって、普通はゼッタイできないやつだと思った。あれ、どうやってるの、実際」


「なんというか、まあ……かん?」


 ミルシードは爆笑した。


「ユリって、天然なのか、わざとなのか、ゼンゼンわかんないよね」


「あんがいこう見えて、本気なんですよ」


「彼のことも?」


「治したいという気持ちは本当。それが、最優先。私には」


「じゃあ、治ったあとはどうするつもり?」


「今はそんなこと考えられません。すでに何回か祈ったのに、症状はむしろ悪化しています……」


「よくないのね」


「はい」


「私もね、こうみえて、あんがい、本気なんだ」


「知ってます」


「あんた、知ってるなら少しは協力しなさいよ」


「それは無理だと思う。私、そういうキャラじゃないし」


「へんな自覚、持ってるのね。でも、一つ、聞いていい?」


「いや……」


 ユリは顔を沈めて、ぶくぶく……


「あなた自身は、彼のこと、どう思ってるの?」


 ついに来た、その質問。

 来たものは、もう逃げられない……

 ユリはぶくぶくをやめて湯から顔を出す。


「いい人」


「もちろんそうだけど、それだけ?」


「そこ、聞くかな。聞くよね。いつか聞かれると思ってた。でも、本当に困る。口にできないことだから」


「ぶっちゃけ、あんたたち、わりといい感じでしょ?」


「それは否定しないよ」


「否定しないのかよ……」


「でも、これはそういう問題じゃないから」


「どういう問題よ」


「たとえ、ミルさんが、絶対に口外しないと約束してくれても、それでも、どうしても、言えないことが、ある」


「なんで?」


「だって、それは、違法だし。この国への裏切りだから」


「はあ? あなたが?」


「私は、こう見えて、重罪人なの」


「うそでしょ。私はただ愛とか恋の話をしているだけよ」


「そうね。でも、そこが、そうなっちゃうの」


 ミルシードは、考えをめぐらせてから、質問した。 


「私にできることはある?」


「見守ってほしいな、それ以上は無理だと思う。事実を知ったら、たぶん、あなたでも私を許さない」


「そんな大問題、絡んでるの、ユリって?」


「そう、大問題」


「だから……、つまり、それをかくすために、彼への態度をはっきりさせないのね?」


「ごめん」


「私にあやまられても困るけど、でも、一つ言えるのは、私の政治力はホンモノよ。利用するなら、利用していいわ」


「じゃあ……ひと一つだけ、言っておくね」


「うん、ぜひ」


「私……、ごめん、やっぱり、無理……」


 ミルシードは、改めて深いため息をついた。


「よっぽど深刻な問題みたいね。でも、なんとなくわかった。そして私たちの利害関係は、たぶん、矛盾しない。でしょ? それだけわかれば大成功よ」


「ミルさん」


「なに?」


「いつか彼を、幸せにしてあげて」


「なによそれ。人生終わりみたいな言い方しないでよ」


「だね。ごめん」


「あんたは、そうやって素直にあやまることが、かわいいことだと自分で自覚しているからたちが悪い」


「ふふふ。ミルさんの言い方はイジワルだけど、でもなんか、いつも愛があるよね。ほら、星空と温泉、語り合える女友達。なんか、私、幸せだな〜」


「ばか。50になっても、60になっても、あなたとはここに来るわよ。付き合いなさい」


「はーい」


 その可愛らしい返事を聞くと、ミルシードは顔を半分湯に沈めて、ぶくぶくと口から空気を吹き出した。


「なにやってるんですか?」


 ぶくぶく……


「まねですか?」


 ミルシードは、ぶくぶくしながらうなずいた。


「そんな不満げな顔でぶくぶくしても効果ありませんよ。もっとかれんな女子らしくやらないと」


「こいつー」


 ミルシードはユリに襲いかかった。

 二人は大笑いした。


 

 ほかに客のいない露天風呂で、二人は楽しく語らった。

 裸のままで、笑いあって。


 そこに従業員の女性が、急いでやってきて、二人に言った。


「祈り師の方でいらっしゃいますか?」

「はい、そうですが」

「男性のお仲間の方が具合が悪いそうです。すぐに来てほしいと」


 ユリとミルシードの表情が一瞬で曇った。

 たしかに、いままでタクヤに自覚症状がなかったことが奇跡。

 彼は、今、死の病をかかえているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ