第14話 ルクフェール財団 4/4
「ゼン、元気だった?」
バックシートのユリが運転席の彼に聞いた。
ゼンは不満げだった。
「オレは相変わらずだが、そっちはいったい何があったんだ」
その問いに、タクヤはユリを制し、自分で答えた。
「人助けだよ。やっぱり、スーサリアの祈り師って、すごい。国の宝って、本当だよ」
「はあ?」
助手席のミルシードが説明を付け足した。
「ゼン、あんたの予想は正しかった。あいつら、スーサリアの正規軍じゃない。ルクフェール財団のベルタが指揮した私設組織。タクヤを捕まえて、教育するつもりだったのよ」
「しかし、こそっと連れ出すんじゃなかったのかよ」
「まあ、いろいろあって。でも、トップのベルタを、助けてあげたわ」
「どういうことだ」
「転落しての頭を打ったあちらのボスを救命してあげたのよ。ユリの祈りでね。くやしいけど、感動的だった。居あわせたみなも同じ気持ちのはずよ。もともと同国人、敵じゃないんだし、もう追いかけてくることはないと思う」
「結局、祈りか。スーサリアらしいな」
「今回は、たまたま私の仲間が二人いたからよかったけど、でも、次に王子を保護に来るのは、きっと正式な軍隊ね、それはもうどうにもならない」
「なら、その前にやることやらねえとな」
ゼンが当然のことのように言った言葉に、タクヤは後席の真ん中からからつっかかった。
「おい、なんだよ、その『やることやらねえと』って」
「おまえのことだ」
「はあ?」
「この問題の核心を、おまえ自身が見る、ってことだ」
「だからなんだよ、その『核心』って」
ゼンは運転席からバックシートをふり返って、ニヤッと笑った。
「知らねえよ。オレだって、初めてだ」
「なんだよそれ。いいかげんな情報じゃないのかよ」
「タクヤ、ほら、あのとき、戦闘用に飼いならされていた龍がいたの、見ただろ?」
「春のイベントの時のこと?」
「そう。突然現れて、のぼりを切り裂いたやつ。まあ、先日、王宮に爆弾を落としたやつらも同じのに乗ってたけどな」
「それがどうしたんだよ」
「普通、飛龍は稀少生物で、人になれたりしない。そもそもが絶滅危惧種だからな。しかし、それを可能にしているやつらがいる。飼いならして、心まで通わせている。その里を、見ておくってことだ」
「僕が?」
「おまえ、王になるんだろ、スーサリアの。だったら、知っておいてそんはない」
「なななな、なんだよそれ。僕が王になるなんて、誰が決めたんだ? わるいけど、そんな自覚ないよ。カンベンしてくれよ」
「タクヤ……」
タクヤの左に座っていたユリが、横から彼の手に手をかさねた。
「行こうよ。見てみたい。世界の真実を……」
右端に座っていたボル爺が、くっくっと笑った。
「そしたら、みんなで、列車に乗るか。陸路となると、そうなるな」
「村のおばちゃんが言ってたやつですね」
ユリが反対側のポル爺を見て目を輝かせた。
「そうだ。列車はいいぞ。しかも、ここの駅にはうまい駅弁があるはずだ。ステーキ弁当。金は王子が払うじゃろ。やっぱ来てよかったわい」
「はあ? 駅弁なんて関係ない、ジジイは黙ってろよ」
タクヤが否定しようとすると、ゼンが言った。
「オレも疲れた。この準備で寝てないし。あとはメシでも食ってゆっくり列車で移動したい。な、ミル」
「ワタクシは、まあ、本当に駅弁というものが美味しいのかどうか、確認する必要があるわね」
「おまえは強いわ」
いつのまにかすっかり親しくなっている前のゼンとミル、そんな二人を見て、ユリが正直な感想を述べた。
「ねえ……二人、仲いいね」
すかさずミルシードは全力で叫んだ。
「あんたに言われたくないわよ!!!」
ミルシードに怒鳴られると、ユリは、ペロッ、と舌を出して、横のタクヤを見た。
苦笑するユリ、舌だし付きかわいらしさ爆弾。
そんなものを間近に受けてしまったタクヤが、ただちに鼻血を漏らしたことは言うまでもない。
「ぼぐ、はなぢでてきた……」
「ホントだ。王子様も鼻血をおだしになのね」
「感心しないでくれ、ユリが悪いんだぞ」
「私? なんで?」
「もういい。上向いてれば止まる」
「のぼせちっゃたのね。祈ろうか?」
「オンボロ車の中じゃムリだろ」
「だね」
ユリは、ぽんぽんとタクヤの膝を手でやさしくたたいて、反対側の窓の外に広がる田舎の風景に目をやった。
「五人そろったね、私、うれしいな。すごく、うれしい」




