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第13話 薬の記憶 3/5

 車はしばらく走り続け、辺境の港町から、ホテルや空港がある地方都市に入った。


 この仕打ち、タクヤは二回目だった。

 メリルの説明を思いだす。

 なんとか祭の関係者は、世間離れしていて、なにかと配慮に欠ける、と……


 今回も、それ系なのだろうか。

 では、このあと、なにをされるのか?

 

 つかわれた薬が同じだったからか、タクヤは視線が定まらずもうろうとしながらも、封じられていた記憶を思いだしていた。


 春に、黒スーツの男たちにとらえられた日のこと。

 そののち、王宮の特別区画で、何をされたか。

 激しい痛みを伴う記憶……



  ◆ ◆ ◆



 王室の奥深くで行われる秘密の儀式『降霊祭』


 王宮の地下深く。

 特別区画。

 光のあふれる白い部屋。


 イベント帰りの街中でとらえられたタクヤが、眠ったまま横たえられていた。

 簡素な治療台の上に、下着だけにされて。

 透明な肌。

 何も知らず眠る青年。


「始めてくれ」


 と、王は、降霊祭専属のドクターに伝えた。

 王自身のかつての記憶と重ねて、成功を祈りつつ、青年の顔を一眼すると、部屋を出ていった。 


 入れ代わりに10人の祈祷師が入ってきた。

 緑の聖衣をまとった老人たち。

 診察台の周りに輪を描くように立ち並び、祈祷を始めた。

 

 厳かな声が響く。

 ドクターと助手がやってきた。

 助手の持つトレーに乗った注射をドクターがタクヤの腕に刺した。

 黄色い液体をたたえた大きな注射。

 

 タクヤはすぐに苦悶の表情を浮かべ、身体をのけぞらせた。

 祈祷師たちが、新たな呪文を唱え始めた。

 暴れようとするタクヤの身体を、囲む祈祷師たちが手をのばし押さえつけた。

 タクヤの全身の肌が、みるみる赤紫色に変わり、胸や足から細かな血が滲み出してきた。

 ドクターは、指先でタクヤのまぶたを開き、眼球の様子を確認した。

 その奥に赤い流れを確認し、うなずいた。


「ここまでは順調だ。第2液の用意を」

 

 祈祷が続く中、助手が次のトレーを運んでくる。

 黒い液の入った注射を確認したドクターは、同じようにタクヤの腕に刺した。


 まもなく彼の身体から、草の芽のようなものが吹き出してきた。

 細かく、無数に。

 胸からも、腹からも、腕からも、額からも。

 そして呼吸が荒くなった。


 祈祷が激しさを増す。

 老人たちの強い声が、吹き出た芽に見えない圧力をかけていく。

 しかし芽の増加は止まらない。

 最初は何もなかった顔や肩からも、次々に細かく芽吹いてくる。


「バイタル確認」


 ドクターが助手に指示したが、すでに血圧も心拍もモニターの測定限界を超えていた。


「測定不能です」 

「うむ、しかしよく耐えている。続けよう。第3液の用意を」


 タクヤは、叫びをあげはじめた。

 押さえつける者たちに対して野獣が吠えるように。

 

 ドクターは、白い液の入った注射を持った。

 指先で青年のまぶたを開き、眼球に針を刺した。


 タクヤは絶叫した。

 ドクターは同じことを反対の眼球にも行った。

 青年の目から、白い涙が、間欠的に吹き出した。


 祈祷は、激しい叫びから、獣をなだめるような神秘的なメロディへと移行していった。


「まだいけるか?」


 ドクターは祈祷師のリーダーに問うた。

 祈祷師長は、祈祷を続けながら、首を縦に動かした。


「よし、最終液の用意をさせよう」


 祈祷師たちの声が、明るい部屋を埋め尽くすかのように、折り重なって響き続ける。

 ドクターは最終液が届くまでの間、青年から吹き出た芽や、白い涙の採取を行った。

 

 やがて、最終液が小走りのスタッフによって部屋に届けられた。

 ドクターがその注射器を手にした。


「さあ、タクヤ様、耐えてください。これが最後です」


 ドクターは、薄い赤色の液の入った注射を、青年の足の10本の指の爪の裏に、一つ一つ刺していった。

 心臓から最も遠いところだからだ。

 叫び抗うタクヤ。

 なにかの内蔵のような奇妙な匂い。

 液体を受け入れた足先から、龍のような紋様の皮膚凹凸が、下腿に広がっていく。

 祈祷師たちが、最後の力を振りしぼり、声を荒げて、全力で押さえつけた。


 やがて、吹き出た芽に覆われた若い身体は、意識を失い、心臓が止まった。

 ベッド脇のモニターが赤く点滅し警報を発し続ける。


「やはりだめか……」


 顔をしかめたドクターに、祈祷師長が首を振った。


「いえ、可能性はあります。今、先人が舞い降りてきています。入っていただきましょう」

「できるか?」


 祈祷師長は、宙に手をさまよわせ、何事か念じながら、手をさっと大きく振った。

 すると青年の全身をおおっていた芽のようなものが、一気に剥がれ落ちた。

 皮膚から抜け出た無数の芽。

 青年の顔と胸部をおおっていた芽を、祈祷師長が振り払うと、先人の霊は、青年の身体に静かに吸い込まれていった。

 医療スタッフには見えないことだったが、祈祷師たちはそれを確認した。

 

「心拍、再開しました」


 スタッフが告げた。


「成功だな」


 ドクターのホッとした声に、祈祷師長は深くうなずいた。


 力を出し尽くした祈祷師たちは、まもなく全員、その場に倒れ込んだ。

 息を引き取っていった。 


 王宮に選ばれ、20年以上にわたって『降霊祭』ために厳しい修行をしてきた祈祷師たちが、目的をやり遂げた瞬間だった。

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