第13話 薬の記憶 2/5
船から渡し板を通って不動の大地を踏みしめたタクヤたちに、リーダーらしい男が進み出て深く頭を下げた。
「王子殿下、このたびはよくぞご無事で」
タクヤは、足もとが固定されてみたら、逆にクラクラしそうになったが、頑張って威厳を誇示した。
「みなさん、こんなところまで本当にありがとうございます。僕たちには、なにも危険はありません。ということで、ご心配なさらず。解散!」
「どうぞ気をつけてお帰り下さい」
とユリも品良く笑みを添えた。
リーダーらしい男があわてて言った。
「ちちちちちょっと、まってください、解散はしないし、できません。私たちは王子殿下を王の元へと無事にお届けする任務があります」
「みんなついてくるの? まあ、いいけど、リーダーの方のお名前は?」
「私は内省のフルキエと申します」
「じゃあ、フルキエさん、ご飯食べにいきましよう。僕たち、船でゆれてゆれて、気持ち悪くて嘔吐して、すっからかん。さすがに今すぐ食べるのは無理だけど、ちょっと街を散策して、いいかんじのレストランに入って地元の肉料理をかっくらいましょう。よかったらごいっしょに」
タクヤとしては、精一杯フレンドリーに言ったつもりだったが、男達は笑みを浮かべることなく、あくまで任務に従事する態度だった。
「そのような自由行動は、危険すぎます。ホテルをとっております。まずはそちらに」
男達が、タクヤたちをササッと取り囲んだ。
タクヤは、あえて悪い王子を演じ続けた。
「わかった。けど、散策とレストランはゆずれないんだよな。次にいつ来れるかわからないし。この王子の決定に、意義がある人いますか?」
スーツの男たち全員が手を上げた。
「あのねえ、みんな、わかってないな。それじゃあ王子の旅が成立しないでしょ。こういうのも将来のための貴重な経験なんだよ。安全安全なんていってたら、王子なんてやってられないっちゅうの」
王子のわがままを前に、リーダーのフルキエと、数人がこそこそと相談した。
「了解いたしました。このたびの王子殿下の街の散策、そしてレストランでのお食事を、われわれシークレットサービスが誠意を持って見守らせていただきます」
そしてフルキエは男達を二分して、王子のガードと、街の調査、それぞれに充てた。
ユリは、身体をかがめてポルプーレの耳元でつぶやいた。
「あの人たち、銃を持ってますね」
「本物だ、油断するな」
「でも、身方ですよね?」
「そうとも限らん、おまえらの国は二つに割れておろう」
「たしかに……」
「それに、ここにいるのが全てでもないだろう」
そんな二人に、タクヤは明るく言った。
「じゃあ、行きますか。ポルじいさん、あんた先頭ね。詳しいんでしょ、ここ」
するとそこに一台の車が走り込んできた。
急停車して、中から出てきた黒髪の女が叫んだ。
「おい、なにをぐすぐすしている。早く王子をホテルにお連れしろ」
いきなり命令。
その女に対して、タクヤは王子として強気で言いはなった。
「悪いけど、僕のわがままで、街の散策とレストランの食事が追加されました、あしからず」
「そんなことは許されません。おい、薬をつかえ」
女の言葉を合図に、男達が三人を取り囲んで、強引に捕まえに来た。
抵抗をするなんて無理だった。
完全に男達の方が人数が多く、逃げる余裕などない。
そして、タクヤたち三人の腕に、注射が打たれた。
めまいと、脱力。
かつがれて、車に乗せられる。
この暴力が、やはり我が国の現実なんだと、タクヤは改めて悟り、なんだか切実にむなしくなった。




