第12話 ポルプーレ 5/6
二人が食べ終えたころ、食堂の内線電話に連絡が入った。捕虜をノジャの駅に連れていけという指示だった。電話を受けたおばちゃんは、大声で二人に伝えた。
「さあさあ、連絡が来たよ。急いで支度しな。むこうさん、あわてているらしくて、だいぶ払ってくれたようだ。あんたらにも旅の小遣いくらい用意してあげるから心配すんじゃないよ」
ユリはコーヒーカップを持ったまま、朗らかな笑顔で「ありがとうございます」と応えた。
「ていうか、荷物なんかないか。あんたら捕虜だもんな、じゃ、このまま港に行こうか、食器はそのままでいいよ」
「え? 駅に行くんですよね?」
ユリは信じられないような顔をして問いただした。港から出る列車もあるのだろうか……
「祈り師さん、なにか用意することでもあるのかい?」
「いえ、そうではなく、これからの移動が鉄道なら、むかうのは港ではなく駅のはずですよね?」
「ノジャの駅からは列車だけど、そこまで行くには船が必要さ」
「なにそれ?」
ユリが目を大きく開いた。
「いや、あんたら、この村は塞がれてるって聞いてないかい? 陸路は全部ダメなんだよ」
「でも……」
「ノジャまでは船さ。きまってんだろ、そんなこと。心配しなさんな。ちゃんと誰かの漁船で送ってもらう。なに、三時間ほどで着いちまうから」
三時間!?
ユリの顔から生気が消えた。
もちろんユリの胃の中には、消化がいいとはいえない貝が、すでにたっぷりと収まっている。
ユリはタクヤに愚痴をぶちまけた。
「もう、やだ。私ね、旅は嫌いじゃないよ。楽なことばかりじゃないけど、タクヤといると楽しいと感じることだってある。早く王や、皆さんのもとに行きたい。でもさ、でもさ、なんでこう『船』ばかりなわけ? 私、神さまの機嫌を損ねるようなことなにかした? そりゃ私だってカンペキじゃないのはわかってる。でも、こう見えてユリはユリなりに努力しているのよ。なのに、なんでこうなっちゃうの? なんで『船』ばかりなの?」
「だったら今度は僕が君のために祈ってあげるよ」
「あなたが祈ってくれても効果ないんですけど」
「そ、そりゃそうだけど」
困ったタクヤ。
ユリはうなだれた。
「ごめん、あなたのせいじゃないのに」
「こちらこそ、ごめん。とりあえず、船にはゆっくり進んでもらおう。ゆっーくりーと」
◆ ◆ ◆
港に向かって坂道を下っていると、男の子ラプシーが、布袋を持ってきて、おばちゃんに渡した。おばちゃんは受け取って、中に現金が入っていることを確認すると、タクヤに投げ渡した。
「ほら、旅行資金。大切に使いな」
「は、はい……」
さらに下り道を歩いていると、食堂で話しかけてきた老人が走って追いかけてきた。
村長代理のポルプーレ・メドリック。
足の調子はとてもよさそう。
「おーい、おばちゃんよ、このお二人さん、砂漠の列車に乗せるって本当か?」
「そうさ」
「なるほど。したら、ワシがついてってやることにする」
「はぁ?」
おばちゃんはあきれた顔をした。
「ポルさん、あんた、物見遊山はべつの機会にしたらいいだろ」
「なにを言うか。砂漠の列車は危険がいっぱいじゃ。二人だけで行かせるわけにはいかんわい。身代金の契約にも『護衛をつける』とちゃんと書いてある。で、親切にもこのポルプーレ様が、じきじきにその大役をかってやろうと言うておるのじゃ。ありがたく思え」
「頭、大丈夫かい、あんた?」
おばちゃんは自分の頭を指さしてぐるぐると回した。
「あほ、大丈夫じゃ。ワシだってちゃんと薬は持ったわい」
タクヤはそれを聞いてますますあきれたが、おばちゃんはなぜかそれで納得した。
「オッケー。したら、よろしく頼むよ」
老人は、ユリに手を差し出し、半ば強引に握手した。
「さっきはありがとうな。いきなり元気100倍じゃ。さすが王子直属の祈り師はひと味ちがう。こうなったら、ワシは、命に代えても、あんたらを守るぞ。よろちくな」
村長代理のポルプーレ。
外見は小柄な老人にすぎない。
タクヤは遠慮なく言った。
「あのさぁ、僕だっていざとなったらそれなりにがんばるし、ユリのことは命に代えても守るし。むしろ老人同伴の方が先が思いやられるんですけど」
「ほっほっほ」
ポルプーレは笑った。
「そう強がりたい気持ちはわかる。しかし、おまえさん、よく考えてみ。この先は二人ではない方がいいぞ。『二人はつらい』のじゃ。相手が祈り師となれば。な?」「なななななんだよ」
タクヤは、たじろいだ。
いったいこの老人は、何を知っているんだ?
「ま、心配せんでいい。天下に名高いセノラ隊の生き残りであるワシがついとったら、そりゃあもう千人の軍隊が守っているのと同じじゃ。経験と知恵が、旅の安全を保障する」
「って、じいさん、なにかできるの?」
「なんでもできるといっても過言ではない」
「戦いは?」
「そういうのは、まあ、ちょっと」
「ほらこれだよ!」
大げさにあきれるタクヤ。
ポルプーレは少しだけ本音を漏らした。
「力つかうと、あとで関節が痛くなるからいかん。ま、本気を出せばプロと渡り合う自信はあるがの」
「希望的ご意見、どうも」
ポルプーレは、タクヤの背を平手でたたいた。
「おまえ、いい性格しとるの。弟子にしてやるわ、よろこべ」
「いや、そういうの、まにあってるんで」
「だまれ、おまえは弟子、もう決めたのじゃ」
「老人の世話は、いやだよ僕……」
落ち込んでいたユリが、二人のやりとりを横で聞いて、ようやく少し笑みを見せた。
ポルプーレは”そういう気づかい"も、していく男だった。




