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第12話 ポルプーレ 4/6

 二人が昼食を食べていると、一人の小柄な老人がやってきた。

 おっくうそうに横の椅子に腰掛けると、口を開いた。


「よう、ワシは、ポルプーレ・メドリック。村長代理をしておる。王子には不満のない滞在になっておるかな?」

「強制的に連れてこられたことには不満はありますけど、来てみたらみんないい人で、むしろ『ずるい』と感じてます」


 タクヤの微妙な言い方に、ポルプーレはおかしそうに笑った。


「あんたら、病院の患者に祈ってくれたそうだな、礼を言うぞ」

「いえ……」


 顔を伏せるユリに、ポルプーレは明るく言った。


「誰も治るなんて期待しておりはせん。ただ、一瞬でも夢を見られたなら、すばらしいことだ」

「はい……」

「まあ、いきなりなんじゃが、あんたたちの国は、ずいぶんたくさん物を作ったの。けどな、ワシらは、あまり物は持たない主義じゃ。たくさんの物を必要とするほど、人生は長くない。ワシはこの歳になって思うのだが、物を所有するということは、むしろ悲しい。死は、別れじゃ。たくさんの物を置いていけば、それだけ悲しくなる。そうだろ?」

「ポルプーレさん、でしたね。ポルプーレさんはずっとこの村に住んでいるのですか?」


 ユリの問いに、老人は遠い目をして答えた。


「ああ、ずっと昔から。この村ができる前からな。いろんなことがあったよ。ワシが今、あんたたちに言っておきたいのは、物質の喜びではなく、心の幸福を求めなさい、ということじゃ」

「は、はあ……」


 タクヤとしては特に反論したい内容ではなかった、が、知らない老人が昼のテーブルにやってきて、いきなり人生感を語ってくることに違和感を抱いた。


「ポルプーレさん、別に僕は、おっしゃることを否定しませんが、でも、なんていうか、昼からずいぶん深刻な話題っすね」

「世界の現実が深刻じゃからな。ワシ自身は、まあ、具合の悪いところだらけじゃが、それはしかたがないことじゃ。特に、この膝の痛みは」


 ユリは、スプーンを置いて立ち上がった。


「ポルプーレさん、その膝、見せてください」

「うん?」


 ユリは老人に座る向きを変えさせ、その前に跪いた。

 そして手をかざした。


「右ですね?」

「わかるのか?」

「しばらくじっとしていてください。祈ってみます」

「治せるのか?」

「わかりません。ただ、もう逃げたくないんです」


 ユリが目を閉じ、小声で何ごとかつぶやき始めると、胸の装身具から緑の光が広がった。

 老人の顔が赤くなり、身体がほてっていく。

 やがて老人の膝に痛みが走った。

 震える膝を、老人自ら両手で押さえつける。


 祈りが終わると、老人はユリにつぶやいた。


「あんた、知っとる人だね?」


 ユリはその問いには答えず、目を閉じたまま深い呼吸を繰り返した。


「……そうか。あんたは、知っとる人じゃったか」


 老人は椅子から立ち上がると、膝の具合を確認した。そして軽くユリの肩に手を置いてから、何ごとか考えながら、食堂から出ていった。

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