第12話 ポルプーレ 2/6
立て札をたどった先にあった食堂は、かつてのリゾート施設のレストランをそのまま活用した建物だった。
親切なおばちゃんが温めてくれたスープと共にパンを食べていると、男の子がやってきた。朝、窓のところに知らせに来てくれた子供だった。
「やあ、君は、さっきの」
「おはよう」
タクヤとユリのあいさつに、男の子は片手を上げて応えた。
「みんな、もう漁に出ちゃったんだ。僕が村を案内するよ」
「案内って?」
ユリが問うと、男の子は少し照れて答えた。
「ここ、いいところもあるから」
「僕はタクヤ。このお姉さんはユリ。君は?」
「ラプシー」
「わかった、ラプシー、よろしく」
昨日の厚い雲は、すでに風に流され、今日は青空が広がっていた。
しかし、ひんやりとした空気はあいかわらず。
二人は、男の子の導きで、黄色い花が咲く丘に登った。
そこには幼い子供を連れた母親たちも何人か来ていて、いっしょに花輪を作って遊んだ。
「スーサリアは爆撃で大変ね」
母親の一人に話しかけられると、タクヤが答えた。
「まあ、いまも海賊にとらえられている最中ですけど」
みんなが笑った。
幼い子供たちもつられて笑った。
母親たちと別れ、丘を降りる。
港へ戻る途中、学校や工場を見て回った。
そして男の子が迷いながら質問した。
「ねえ、ユリは、祈り師って、本当?」
「そうだよ。私はスーサリアの祈り師。まだなりたての新米だけど」
「おねがいしていいかな?」
「なにを?」
「祈り」
「え? ラプシー、君が?」
「ちがうよ、僕じゃない。あれ……たぶん、やってあげるといいと思うんだ」
男の子は、診療所と書かれた家の裏手に歩いていった。
その先にあった長い建物。
中に入ると、木製の寝台がならんでいた。
人々が横たわっていた。
数えると12人。
「ねえ、祈りって効果ある?」
ラプシーに問われて、ユリは返答に困った。
「みんな、そうなの?」
「毒にやられた人。で、そこにいるのが、かあちゃん」
ユリは、ベッドに横たわる女性と目が合った。
顔の皮膚が病でくずれていた。
表情はわからなかった。
しかしその目には、わずかな怒りの感情が読み取れた。
世界に毒をまき散らすスーサリアに対する怒り……
「やってみる」
ユリは、その女性の脇にイスをすえて、香油を振り、祈りをはじめた。
胸から淡い緑の光が広がる。
タクヤは、男の子の手を引いて部屋の隅に移動し、小さな身体に後ろから抱きしめて、ユリの祈りを見守った。
外からでは、効果は、わからなかった。
祈りが終わっても、患者はほとんど言葉を発することができず、表情も変わらない。
つながった心から、なにかを感じているはずのユリも、なにも言わなかった。
無言のまま、ユリは次の患者に移っていった。
12人、すべての患者への祈りが終わった。
タクヤが「おつかれさま」と声をかけようと近寄ると、ユリは椅子に座ったまま、泣き崩れた。
ユリは言葉にはしなかった。
この12人に対しては、もう祈りではどうにもならないこと。
ユリの力では治せないこと。
そのことを、ユリ自身が、誰よりも、知っていること。




