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第11話 カテナ村 2/6

 海賊船の船内では、とらえられたタクヤとユリが、操舵室の後方のポールにしばりつけられていた。


 うす暗い操舵室は、左右に三人ずつ、男達が壁に向かってシートに着いており、彼らの前には大小さまざまなモニターやメーターが光っていた。

 奥の正面には、二人。

 その二人が、操縦士。

 あわせて八人の男達の声が、小さめの声で室内に響く。


「深度ヨンマル、耐圧性能異常なし」

「海底まで230メートル、右前方に岩礁あり注意」

「海流相対速度0.12」

「進路プラス2」

「最終ソナー準備完了、今のところ追っ手なし」

「油圧制御、レベル6に移行。ギア不良あり。……ま、これはいつもの感じです」

「って、おい、まだ直してなかったのかよ」

「調整には潜航が必要です。あとでやっときます」

「しっかり頼むぜ」

「おい、直すと言えば、アンテナの水漏れは誰か直したのか?」

「え、直してないの?」

「いや、たぶん忘れてます」

「ゼッタイ忘れてます」

「ヤバくないか?」

「いいでしょ、ポタポタたれるくらい。深海に潜らなければ問題ありません」

「次はゼッタイ忘れるなよ」

「あのー、そういうこと、ここで言わないで直せるときに言ってもらっていいですか?」

「おまえが直すべきものを直さないで擬装ぎそうなんかに凝るから悪いんだよ」

「擬装だって奥が深いんです。海賊船だってそれぞれに様式っものがあるんですから」


 エンジン音はなかった。

 圧力を調整するモーター音がときどきかすかに聞こえるだけ。

 ミシミシと水圧に耐える船体の響きが重なる。

 中央のシートに、黒いあごひげを伸ばした大柄のリーダーが座っていた。


「自由の国へようこそ、だな。スーサリア王子タクヤ殿」

「自由の国?」

「そうさ。しがらみのない人生。オレはまとめ役のオミヤマ師だ。このたびは、かわいい連れもごいっしょか。いいじゃねえか。高速艇がメッチャウマイをご所望なんて電波を無神経に飛ばすから、おかげでこちらは大収穫ってもんだ。うわさってのは、ばかにできねぇな。え? このへんで漁をしてりゃいいことあるって。オレの嗅覚にビビッときてよ」

「僕たちをどうする気だ」

「心配するな、ただの身代金みのしろきん目的の誘拐だ」

「それ、自分で言うことかな」

「オレたちは、ヒジョーに善良な海賊なのだ。常識はずれな要求もしない。金さえいただけば、すぐに帰してやるよ。まあ、これが龍人族だったら、そうはいかんだろうがな」

「そうだぜ」


 操舵室の男が口をはさんだ。


「オレたち、べつに悪い人じゃない。自由が好きなだけさ。龍人族といっしょにするなよ」

「そうそう。ついでに自由には、ちょっとばかり金がかかる」


 オミヤマ師はタクヤとユリに、今のうちにトイレに行っとけ、と指示した。


「すぐに隠密航行に入る。しばらく一切音出し禁止になるから覚悟しておけ」

「トイレの音も?」

「当たり前だ」

「しばられてるんですけど」

「そうだな。じゃあ、あきらめろ」

「ふざけんなよ、おい、大声出すぞ」

「うるせえな、冗談だよ。うちのトイレはもともと無音のやつ、いつでもしたいときにしてもらってけっこう」

「な、なんだよ、それ」

「せっかくなんだから、海賊ふうのスタイルを楽しまないとな」

「楽しむ場合かな」

「これを楽しまないで、なにを楽しむってんだ。オレたちにとっちゃ1年2カ月ぶりの海賊だぜ」


 タクヤはむかついた。

 人をなんだと思っているんだ。

 しかし、同じポールにつながれたユリが、薬の影響でうとうととし、身体を密着させてくるから、小声で「しかたがない、今は黙っておいてやる」とつぶやいた。


 水深が確保されると、動力が完全に切られた。

 無音となり、室内もうす暗くなった。

 バッテリー式の赤い室内灯と、操縦室のモニターだけ。


「ベルベス順調。水路822を進みます」

「ソナー異常なし」

「水中艦は、作戦開始前と同じですね。遠く、南に一つ、マーサ攻撃型。ほとんど移動していない」

「うむ。動かないということは、この海域には入れないということだ。入ってきたところで、なにができるわけでもないが。まあいい。交代で休憩に入れ。ベルベスの異常はすぐに知らせろ。20時間、漂流する」

 

 タクヤとユリは、ホールにしばられた縄をほどかれて、監視の下でトイレと給水を済ませると、ふたりまるごと、背中合わせの姿勢で毛布で巻かれ、鍵付きのベルトでしばられてしまった。


 その姿勢で、床に転がされた。

 枕まで頭の下におかれて。

 タクヤは、困ったような、嬉しいような、複雑な気持ちになった。


「どこまで本当の海賊なのかわかんねえよ、ったく。ユリ、大丈夫?」


 タクヤは、背中にユリの体温を感じながら小声で質問した。


「まだ、頭が重くて……」

「薬が残っている感じ?」

「うん」

「だから睡眠薬なんかよくないんだ。もう少し眠る?」

「そうするかも」

「いずれにしても、縛られていてなにもできないし。まったく、本物の銃を向けてくるって、どういうことだよ。『王子』って、これ、みかけによらずけっこう危険な職業だよ」


 ユリはくすっと笑った。


「タクヤ様って、面白いね」

「二人のときは『タクヤ』でいいから。言ったろ?」

「うん、タクヤ……」

「なあ、さっきの会話聞いた?」

「ん?」

「この潜水艦、ベルベスを利用してるんだな」

「スーサリアの技術よ。本当は身方ってこと?」

「どうせ裏ルートで手に入れたんだろう。たしかにこれなら無音で漂流できる」

「そだね……私、やっぱり眠る、もう、限界……」

「どうぞ。僕も、眠れたらそうする」

「ねえ。温かいね」

「それしか取り柄がないみたいな言い方やめてくれます?」

「ううん。大切なことだよ」

「そう? いやしかし、そんなことより、脱出方法を考えないと」

「お願いします。私、考えるの、無理。……次に目が覚めたら、白馬に乗った王子様が助けに来てくれるといいな〜」

「その願望、冗談になってない」

「じゃあ、夢のなかで、助けてもらおう……」

「まあ、夢の中なら、僕も頑張れるかも」

「頼りにしています。ねえ」

「ん?」

「いつか、私たち、夢でもつながりあえるといいな」

「大丈夫だよ。きっとそうなるって。僕なんかイルカの言葉だってわかるんだ」


 タクヤは冗談のつもりで言ったのだが、ユリは笑うことなく、溶けるようにまぶたを閉じた。


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