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第11話 カテナ村 1/6

 高速船キャンベル号は軍の船だ。

 当然、警護隊も乗船していた。


 しかし海賊の襲撃場所に、王子自ら現れてしまっては、警護のしようがない。


 二人が海賊に拉致らちされたと、船長やライン特佐に連絡が入ったときには、すでに漁船に模した海賊船は離れはじめていた。

 

 キャンベル号から、信号弾が放たれ、厚い雲を赤く染めた。


 ラインたちも最初は楽観していた。

 いくら海賊の船が速くても、軍の高速艇にかなうはずがない。

 バカな海賊ども……


 しかし海賊船は速度を上げるのではなく、漁船の外装をたたみ始めた。

 のっぺりとした、まるで潜水艦のような姿になると、そのまま海中に沈みはじめた。

 キャンベル号の艦橋からも、海に沈んでいく海賊船がはっきりと見えた。


「なんだあれは、潜水艦だったのか?」

「まずいわね、潜られたらこの船では探査できない」


 船長が唇をかむ。


「特佐、すぐに近海の潜水艦をこちらに。連邦に要請して」

「それは無理だ」

「どうして?」

「この海域はラスカート共和国の勢力範囲だ。公海としての自由はあるが、軍の潜水艦を走らせていい場所ではない」

「だったらどうするの?」

「さいわい巡視艇は数隻、近くにいる。それでソナー探査させよう」


 あまりにも平凡な策。

 船長は、深いため息をついた。


「海底の流れに乗って移動されたらソナーでは無理よ。なるほどね。ここでつかまるなら海賊なんてやってない、ってこと」

「船長として、あの海賊に心当たりは?」

「ありますよ。あるけど、もし、それが本当なら、ますます手出しはできない」

「共和国の船か?」

「共和国はこんなこと認めたりしない。海賊を飼っている、なんてね。特佐は、こんなうわさは聞いたことないかな。ベルベスの危険な精製の一端を極秘裏に担う村があると」

「精製が医学でも解決できない害をもたらすことは知っている」

「スーサリアは、それをどこかに依頼している。それと関わりがあるとしたら?」

「では、なぜスーサリアにむかって無法をする?」

「たぶん、たまたまさ。やつらはべつに王子を狙っていたわけじゃない。高級食材にこだわる金持ちを嵐の中で狙ったんでしょう」

「なんてことだ」

「しかし、私のカンついでに言わせてもらえば、心配は必要ないはず。彼らの目的は、単純に金。それも普通の労働報酬レベル。はっきり言って、連邦に潜水艦を要請するよりも、ずっと安くつくと思うわ」

「なんですかそれは」

「言っておきますが、今回のこの事態は、私の船の失態ではないですよ。メッチャウマイを食べたいとおっしゃるお姫さまのせい。金は彼女の家に請求すればよいでしょう」

「船長は、気楽におっしゃるが」

「なにか、王子の安否以上の心配事でも?」


 船長の問いに、ラインは潜水艦の消えた海をにらみつけて答えた。


「連れ去られたのは二人。もちろん問題は王子の安否ですが、祈り師にしても、最重要の国家秘密にかわりはない」

「ま、それに関しては、最重要の秘密なのは、国にとってではなく、あなたにとってでは?」


 船長から横目で笑みを投げかけられ、ラインは、はっと気がついた。


「まさか、聞いていたのか?」

「勘違いしないでよ。私は祈りの施術に興味があっただけ。全部聞こえたわけでもないし。ただ、言いたいことはわかっちゃった」

「ななな、なんてことだ……」

「心配無用よ。私はあなたの見方。他の者は誰も知らない。だから、これからは仲良くしましよう、特佐どの」

「とんでもない政治案件だ」

「悪く思わないで。私は特佐のそういうところ、嫌いじゃない。ただね、少女の清楚な見た目にコロッとだまされるのは大人としてどうかと思うけど」

「だまされてなどいない。私の叔母も祈り師だったからわかるんだ。大変な覚悟だよ。この国の宝だ」

「でも、祈り師は、結婚できるの?」

「できなくはない。王直属の立場は終わるが、王宮を出ても術士としての立場は継続される」

「本当に詳しいのね」


 船長は苦笑をもらした。

 特佐は赤くなった顔を自分で気が付いていないかのように、軍人らしく真面目に言った。


「叔母は、災害に派遣されたときの話を、子供の私にかくさなかった」

「クックラ震災?」

「そう」

「あれか……8万人が亡くなったというわね」

「現地で痛ましい死をいくつも乗り越え、祈り師として命の限り尽くしたことを、私は聞かされて育った」

「なるほど」

「一人の女性には重すぎる仕事だ。しかし、それから逃げないんですよ。スーサリアの祈り師ってやつは」


 断じる特佐に、船長はまっすぐ質問した。


「そこに惚れたの?」

「いや、実はもっとずっと前。しかし、ここから先は、秘密にさせてもらっていいかな」

「もちろん。あなたはあの子のために、きっといい仕事をする。私の予感は案外当たるからね。お楽しみに」


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