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第10話 メッチャウマイ 6/6

 物陰に身を隠したゼンとミルシード。


「ゼン、あんた、彼を行かせてしまっていいの?」

「これも作戦のうちさ」

「はあ?」

「見ろ」


 ゼンは銃撃で穴があいた壁を指した。


「ボードは穴があいているが、横の金属のところ、わずかにへこんでいるだけだろ」

「たしかに」

「そして、下にゴム片が散らばっている。ゴム弾だ。当たると痛いだろうが、死ぬやつじゃない」

「どういうこと?」

「オレが裏で手を引いてるとか思うなよ。こんなことを引き起こしたのはおまえだ」

「はあ? なに言ってんのよ」

「メッチャウマイが食いたいって」


 ゼンに指摘され、むくれたミルシードはそっぽを向いた。


「だって、こんなことになるなんて思わないじゃない、普通」

「いいさ。オレもやることがある」

「やることって何よ。ちゃんとおしえなさい」

「ここは、連邦から遠く、ラスカートの勢力圏内だ」

「ラスカート共和国? 大国だけど、ここは領海ではないはずよ」

「そんなことは関係ない。ラスカートの勢力圏内であることが重要なんだ」

「あなた、つながっているの? ラスカートと?」

「興味あるか?」

「知るべきことを知りたい、それだけ」

「オレも、じつはまだ間接的に聞いているにすぎない。連邦の自由主義に異を唱える勢力のつながり。そこには武器の供与も含まれる」

「武器ってなによ」

「たとえば、それさ」


 ゼンはフロアに散らばったゴムの破片を見て顎でしゃくった。

 ミルシードは、いきなり彼の胸ぐらをつかんだ。


「あんた、知ってることを全部言いなさい」

「オレが知ってることなんてなにもねえよ。これから調べるんだ、放せバカ」


 ゼンは彼女の手を引き離した。

 ミルシードは力負けした悔しさを込めてゼンをにらみつけた。


「あんた、ラスカートみたいな自由のないがんじがらめの社会がいいの? そんなの私はいやよ」

「そうじゃない。いきすぎた自由が、格差を拡大し、欲深いやつらが力で支配する原始社会に戻っちまった、ってこと。それが今のマーサ連邦ってやつだ」

「なによそれ。まあ、わかるけど、でも、それ、今する話?」

「ひとつ言っておくが、この対立に一歩足を踏み込んだら、おまえもテロリストのレッテルを貼られかねない。だから勧めたくはない」

「はあ? 生意気なのよ、あなた。私を誰だと思ってるの?」

「王宮のイカれたバカ女」「むきー」

「覚悟があるなら、しばらくオレについてこい。タクヤとユリは、おそらく、このあと龍人族の里に行くだろう。王の元まで行くのにしばらくかかる。そのあいだに情報を集めたい」

「あんた、何かぶっ壊す気?」


 ミルシードの厳しい眼差しに、ゼンは鼻で笑った。


「オレは何も壊す気はねえよ。ただ、あいつと、国のために、道を作るだけさ」

「ほほー、かっこいいわね、それ」「甘く考えるんじゃねえ」

「いいのよ。正直、私も王宮暮らしにはあきて、死に場所を探していたところだから」

「ずいぶん極端な発想だな」

「そうかしら? 女ってそういう願望、あるものよ。で、そこを王子様に救ってもらうの」

「最高にわがままだ」

「ばか。『恋』って言いなさい」

「こい? まじか?」

「あたりまえでしょ」

「え゛」

「な、な、なによいまさら。わかりきってるでしょ」

「なんだ、まじか。まじなのか」

「私は王子の婚約者よ。そしてなによりむかつくのが、王子は別の女と去ったこと」

「ご愁傷様」

「ふん、いいわよ。見返すチャンスととらえるわ。この世界の、裏の裏まで知りつくしてやる。協力しなさい。私をなめるんじゃないわよ」「それにしても……タクヤだろ? あいつのどこがいいんだ?」


 ミルシードはゼンの目を見返した。


「……本気だったのよ」

「なにが?」

「すべてが。怪我人を運んだり、祈り師をかばったり、止血の布をまいたり、刺さったガラスをひとつひとつ取り除いたり。ずっと、悪い人じゃないけど、根はそこそこいいかげんな人、と思ってた。『降霊祭』で変わったみたい。長い眠りから目覚めた朝にはすっかり別人よ。すごい力よね、王宮の秘術って」

「そういう……」

「災害時って、人間の本性が出るものでしょ? 正直、痺れた。聖なる光をまとって輝いて見えた。本当よ。誰のせいにもしない、まごうことなき本物。でも、言わないでよ。こんなこと、誰にも」

「オレは口は堅いほうだ」

「しかし”私”には、何でも言いなさいよ、かくしごとなんてしたら処刑するから」

「処刑なんてできねえだろ。おまえはただの貴族。王家じゃない」

「そんなことありませーん、私の父は血がつながっていて、王位継承の権利だってちゃんとあるんですーっ!」

「そんなやつがテロリストになったら、この国も終わりだな」

「あんたが言うな」


 ミルシードに断言されて、ゼンは苦笑した。

「とりあえず、これから捜索が始まるだろう。そんなことにつきあっちゃいられない。船を降りるのに政治力使えるか?」

「あんたが敬意をはらって頼んでくるなら、やってみないこともない」

「おねがいします」

「って、きもちわるっ。なに、いきなり謙虚になってるのよ。いいわ。最速で降りれるようにしてあげるから、そのあとのこと、しっかり考えておきなさい」

「はいよ」


 ミルシードは気丈に立ち上がって、両腕を腰にあてた。


「ここは戦場にして食堂。カレーを食べてから行動よ。メッチャウマイはお弁当にさせるわ。いいわね?」

「やっぱ、おまえ、つぇーわ」

「もう、堅苦しい王宮暮らしとは、おさらば。いっそ海賊だってウエルカムよ。すぐにひざまずかせてあげる、私の美貌と、権力でね。さあ、立ちなさい、ゼン。冒険は始まったばかりよ」


 ゼンが反抗的に「めんどくせ」とつぶやいて猫のようにごろんとしたことは言うまでもない。 

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