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第10話 メッチャウマイ 5/6

 泣いているうちに、また浅い眠りに入っていた。

 気がついたときには、窓の外は薄暗くなっていた。

 船はあいかわらず高速航行を続けている……と思ったが、すっとエンジン音が弱まり、やがて停止した。


 きっとこれは休憩なのだろう、とタクヤは考えた。ずいぶん高速だったし、エンジンを休ませることも必要だろう。


 タクヤは、通路の途中にあった素朴な匂いのする共同トイレで用を済ませてから、壁に貼られた館内地図を確認した。


 食堂がひとつ下にあること発見した。

『食堂』という、なんとも大衆的な響き!

 うまくすれば、正体を隠したまま、下品で美味いものを食べられるかもしれない。

 そう、カレーでいい。

 むしろ、カレーが食べたい。


 彼がおそるおそる食堂の扉を開けると、なぜかそこでは芝居がかかったことが行われていた。

 グレーの服とマスクに身を包んだ大柄の男たちが怒鳴り、食堂の従業員たちを部屋の隅に集め、縄で縛っていたのだ。

 グレーの男たちは、手に拳銃や、マシンガンを持っていた。


「どうしたの? これは演習か何か?」


 タクヤが質問すると、グレーの男が銃を彼に向け、少しずらし、ババッと背後の扉を打ち抜いた。


「うわっ。ななななななに?」

「オレたちは、メッチャウマイを持ってきた。この船の客人と交換だ。早くしろ」

「どういうこと?」


 タクヤは食堂の従業員のリーダーらしき人に質問した。


「この海で希少な食材を調達しようと、近くの漁師に声をかけていたのは本当ですが、それがまさか、海賊とは」

「ここは希少な魚も取れるが、海賊もいるんだよ」

「お偉いさんが乗っているんだろ。さしずめ王室のだれかだ。でなければメッチャウマイの要請なんて出さないはずさ」

「はあ?」

「ちょうどよかったんだよ。実際、メッチャウマイはとびきり新鮮なやつを持って来た。だから、お偉いさんと交換だ」


 男たちは高笑いした。


「嵐の中、誘拐して一儲け、こんなうまい話はないってもんよ」

「いや……王子なんて誘拐したって、美味しくないと思う……」


 タクヤの弱々しい反論に、海賊たちは目を向けた。


「ところでおまえ、なんだか王子っぽいな。名前は?」

「名前はタクヤだけど、王子なのは断固拒否する」


 男たちは笑ってうなずいた。


「なんてラッキーなんだ、こいつだ。まちがいなくお偉いさんだ。大物が釣れたぜ。団長に報告しろ」

「もうしてる。捕まえて来いとさ」


 海賊が、タクヤの両手を後ろに回して縄で縛った。


「なんだよこれ!」

「では、行くぞ」


 連れ去ろうとする男たち。

 タクヤは反論の方向性を変えることにした。


「おまえら、こういうことは軍の人にちゃんと許可をとらないと攻撃されるぞ、あの人たち、ああ見えてマジで強いから」

「許可など必要あるものか。おまえ、これがなにか知らねえの? 銃だぜ」

「わ、わかりましたよ。撃たないでよ、危ないよ、もう」

「さあ、さっさと行くぞ」

「ちちちちょっと」


 引きずられそうになったタクヤは足でブレーキをかけて言った。


「もしかして、僕一人?」

「あたりまえだ」

「それはちょっと。ほら、この足、わかります?」


 タクヤはズボンの裾をまくって紋様を見せた。


「ほら、龍が浮き出ているでしょ。これ、祈りの治療を続けないと、僕は死んでしまうんです。だから誘拐してもダメ、あきらめてください」

「では、どこだ?」

「なにが?」

「なにがじゃない。祈り師はどこだ、と聞いている」

「え?」

「祈りが必要なら、祈り師が同行しているだろ。今回は特別サービスでいっしょに誘拐してやる」


 タクヤは誘拐をやめさせようとして言ったつもりだったのに、ユリを巻き込む墓穴を掘ってしまった。


「祈り師はどこだ。さっさと言わないと、一人ずつぶっ殺す」


 別のグレーの男が、囚われた人々に銃口を向けて叫んだ。

 人々が恐怖で震えながら抱き合った。 


「言え! 本当に撃つぞ! ウソじゃないぞ! オレたちはやるときはやるぞ!」


 怯えた表情の人々。

 その中の一人が、みんなに目配せしてから白状した。


「祈り師様は、上の階、医務室にいらっしゃいます」


 男たちが、条件反射のように階段を上がっていった。タクヤが下りてきた階段ではなく、食堂から直接上に続く階段だった。

 銃の発砲声が響いた。

 男がもう二人、あとを追った。


 幾つか銃声が響いたが、すぐに静かになり、数分後には男たちがぐったりとしたユリを腕に抱いて下りてきた。

 これは、いちおう軍の船のはずだが、実戦においては、海賊の方が手練てだれらしい。


「よし、行くぞ。これで文句はないだろ」

「ないとは言えないけど……」


 そこにミルシードが脇の扉から飛びでてきた。


「なんなの、これは」


 また威嚇の銃声が響き、彼女の背後の壁に穴が開いた。


「よせ」


 後を追ってきたゼンが、ミルシードの腕を引いた。

 ミルシードは、本物の銃声に声が震えながらも、気丈に言い返した。


「アンタたち、海賊なの? バカじゃないの。こんなことして、ただで済むと思うの? なんてったって、そこにいらっしゃるのはスーサリアの第一王子、タクヤ様なのよ。どう、びびった? ねらった船が悪かったわね。とっとと帰りなさい」


 男たちは喜んでうなずきあった。


「おお、おっぱりそうか」

「当たりぜな」「第一王子タクヤだってよ」「スーサリアの世継ぎじゃねえか」

「めちゃラッキー」


「バカ」とゼンがミルシードをたしなめ、すぐにタクヤにむかって叫んだ。


「むりするな。いいさ、おとなしくつかまれ。ミルはオレが守る。必ず助けに行くから、ムチャするな」

「あ……ああ」


 それを聞いて、海賊の一人が笑みを浮かべた。


「あいつ、おまえの友だちか?」

「まあ、そんなかんじ」

「いい忠告するな。王子、あんた、いい友人持ってるな。いい友だち持ってる王子は、いい王子だ。これは金になりそうだ。では、いくぞ」


 男たちは、発煙筒に着火し、床に転がして逃走した。

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