第10話 メッチャウマイ 4/6
タクヤが目を覚ました。
高速巡航が始まっていた。
力強いエンジン音が響いている。
普通の船のような上下の揺れはなかったが、波にぶち当たったからか、スピードが急に遅くなる瞬間がある。
やはり気持ちのいいものではない。
ユリはベージュ色の毛布にくるまり、横を向いて熟睡していた。一瞬、タクヤも、あのラインのように耳元で甘い言葉をささやこうか、と考えた。
あなたのためなら何でもします、って?
タクヤは苦笑した。
そんなの、あたりまえだ。
問題は、そこじゃない。
タクヤは、眠っているユリに近づき、少しだけ顔を寄せた。
温かい寝息と、心地よい髪の匂い。
それだけで、十分だ。
ここには、タクヤにとって、真に大切なものがある。
それが愛と呼ぶべきかどうかは、まだわからない。
それでも、自分の中に入ってしまったユリの存在は、すでに言葉にできないほど強烈に愛おしい。
運命が、死を示唆するなら、それを変えていく。
本当に自分が一国の王子なら、そのことのためにこそ、力も権力も使ってやる。
さて、とタクヤは立ち上がった。
気持ちを切りかえよう。
ドアに鍵がかかっているか確認してみた。
かかっていなかった。
ドアを開けて、周囲を探ると、誰もいない。
ラッキー!
ここからは、タクヤ王子による、タクヤ王子のための、自由行動だ。
許したまえ、国民よ。
タクヤは足音を忍ばせながら、エンジン音が響く通路を進んでいった。
上下に続く階段を見つけた。
これを上がると、最初に案内してもらった艦橋に行けるはず。
上は、発見される可能性、大なり。
いまは、下、一択。
警戒しつつ階段を下りていった。
二等客室らしき広い部屋に出た。
彼は身をかがめて、こっそりと窓辺のシートにもぐり込んだ。
横には丸窓があった。
思いのほか海面から高い位置。
海中翼で船が浮き上がっているからだ。
タクヤは腕を組み、ボロ布のように壁に寄りかかり、窓から見える荒れた海を見つめた。
心がつらいときは、こうやって旅をするものなのだ、と内なる声が教えてくれていた。
「メリルさん、ごめんね」
つぶやいてみる。
彼女を思い返すと、自然と涙があふれてくる。
いいさ。
そういうものは、流れたいだけ流れればいい。
僕がだれだろうと、シートに隠れて、大切な人を想って涙を流すことだけは、誰も禁止することはできない。




