第10話 メッチャウマイ 2/6
タクヤとユリはさっそく医務室に案内された。
スチールがむき出しの殺風景な部屋。ドクターは乗船していなかったが、いざとなれば手術まで対応できるように装備は調えられていた。
タクヤが下着だけになり、ベッドにうつ伏せになる。
右足の後ろ側全体に、いよいよくっきりと龍の紋様が浮き出ていた。
ユリは香油を部屋にふりまいてから、ベッド脇の丸椅子に座って姿勢を正した。
「また、痛いかな?」
タクヤはちょっと不安げに質問した。
ユリは呼吸を整えながら答えた。
「そうですね、たぶん」
「なんだか、ユリが入ってくる、みたいな感じだった。祈りって、そういうことなの?」
「まちがってはいないと思いますけど、私はただ、あなた自身の内面が『気付く』お手伝いをするだけです」
「気付く?」
「そう。記憶もそうですが、あなた自身を妨害している悪しきものを、あなた自身が知り、対処できるように」
「内側の、隠れているところを、かき回す、みたいな?」
「そういうことも、あるかもしれません。でも、たとえば、深い海底を上から見ると恐ろしいもの。しかし自分で潜って一度海底に触れてくると、案外、怖さは消え、適切な対応ができるようになるものです。そんなイメージに近いかと」
「……なんか、よくわからないけど……」
「頭で理解することは、必要ありません。祈りは、思考とはべつのことです。さあ、力を抜いて。始めます」
「よろしくです」
ユリが呪文を唱えはじた。
胸の装身具から緑の光が広がる。
ユリの発する言葉が、再びタクヤの足をなでてくる。
逃げ出したいような衝動を、タクヤはグッとこらえた。
それは暴力とはちがった。
たしかにユリの人柄を感じさせる丁寧で温かいもの。
しかし丁寧で温かいながらも、侵入は容赦がなかった。
拒むすべもなく、病変の現れた皮膚を突き破って、侵入してくる。
神経や内臓がこじ開けられる。
そしてユリの触手が、また頭まで達したとき、声を聞いた。
そこにあるのは
未来への扉
勝利も栄光もない
祈りの果て
タクヤは、ふと、強い悲しみに襲われた。
大波をかぶったかのように。
涙が出てくる。
雨音の響く古い一室にいる、と感じる。
いつか夢で見た古い筆。
筆は、勝手に動いて、紙に文字を記す。
その文字が宙に浮いて、ひとつの意味を示した。
ユリの死
ありえない。
それだけは。
ユリは爆撃後のギリギリの試練ですら乗りきったのだ。
筆が悪いのか?
不吉な筆。
折ってやろう。
しかしタクヤはイメージの中の筆を手に取ることができない。
「だめだ!」
タクヤが叫んだとき、ユリの祈りはすでに収束にむかっていた。




