表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/226

第10話 メッチャウマイ 2/6

 タクヤとユリはさっそく医務室に案内された。

 スチールがむき出しの殺風景な部屋。ドクターは乗船していなかったが、いざとなれば手術まで対応できるように装備は調えられていた。


 タクヤが下着だけになり、ベッドにうつ伏せになる。 

 右足の後ろ側全体に、いよいよくっきりと龍の紋様が浮き出ていた。

 ユリは香油を部屋にふりまいてから、ベッド脇の丸椅子に座って姿勢を正した。


「また、痛いかな?」


 タクヤはちょっと不安げに質問した。

 ユリは呼吸を整えながら答えた。


「そうですね、たぶん」

「なんだか、ユリが入ってくる、みたいな感じだった。祈りって、そういうことなの?」

「まちがってはいないと思いますけど、私はただ、あなた自身の内面が『気付く』お手伝いをするだけです」

「気付く?」

「そう。記憶もそうですが、あなた自身を妨害している悪しきものを、あなた自身が知り、対処できるように」

「内側の、隠れているところを、かき回す、みたいな?」

「そういうことも、あるかもしれません。でも、たとえば、深い海底を上から見ると恐ろしいもの。しかし自分で潜って一度海底に触れてくると、案外、怖さは消え、適切な対応ができるようになるものです。そんなイメージに近いかと」

「……なんか、よくわからないけど……」

「頭で理解することは、必要ありません。祈りは、思考とはべつのことです。さあ、力を抜いて。始めます」

「よろしくです」


 ユリが呪文を唱えはじた。

 胸の装身具から緑の光が広がる。


 ユリの発する言葉が、再びタクヤの足をなでてくる。

 逃げ出したいような衝動を、タクヤはグッとこらえた。


 それは暴力とはちがった。

 たしかにユリの人柄を感じさせる丁寧で温かいもの。

 しかし丁寧で温かいながらも、侵入は容赦がなかった。


 拒むすべもなく、病変の現れた皮膚を突き破って、侵入してくる。

 神経や内臓がこじ開けられる。


 そしてユリの触手が、また頭まで達したとき、声を聞いた。



  そこにあるのは

  未来への扉


  勝利も栄光もない

  祈りの果て



 タクヤは、ふと、強い悲しみに襲われた。

 大波をかぶったかのように。

 涙が出てくる。

 雨音の響く古い一室にいる、と感じる。

 いつか夢で見た古い筆。

 筆は、勝手に動いて、紙に文字を記す。

 その文字が宙に浮いて、ひとつの意味を示した。

 



   ユリの死




 ありえない。

 それだけは。

 ユリは爆撃後のギリギリの試練ですら乗りきったのだ。

 筆が悪いのか?

 不吉な筆。

 折ってやろう。

 しかしタクヤはイメージの中の筆を手に取ることができない。

 

「だめだ!」


 タクヤが叫んだとき、ユリの祈りはすでに収束にむかっていた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ