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第6話 リーアン 3/5

 リーアンは、足を速めて公園を横断した。

 王子が祈りを終えてもどるまで、早ければ30分ほど。

 急がなければならない。


 まず議員宿舎に向かった。

 公園のとなりにある無機質な七階建ての集合住宅。

 その地下に大型地下駐車場があった。

 門番に議員章を見せて通過すると、まっすぐにスロープから地下駐車場に下りた。

 ビジタースペースに駐車しておいた彼自身の車のドアを開けたとき、リーアンは急に強い吐き気に襲われ、アスファルトにかがみ、透明な液体を嘔吐した。


「食べてもいないのに、緊張というやつは……」


 彼は、口の中の苦さを、唾と共に吐き捨て、口元をシャツの袖でぬぐった。そして倒れ込むようにドライバーズシートに腰掛けた。


「まったく、自分の弱さには涙が出る。あの内省の小男の決意を引き継ぐ価値が、自分にあるのか? いや、今さら自問してもしかたない」


 若き議員は、そう自ら言い聞かせて、車をスタートさせた。

 彼が資産運用名目で所有している港の倉庫にむかって急ぐ。


 車を道の脇に止めたリーアンが、周囲に気を使いながら、古い小さな事務所に入っていった。

 ペイントで落書きされた無人の事務所。

 その中の扉を鍵で開けると、うす暗い通路を伝って、彼は倉庫にたどり着いた。


 長く閉じ込められた者たちと龍の独特の匂い。

 しかし、なぜかここに来るとリーアンは優しい気持ちになる。どんなときよりも、優しい気持ちになる。


 そこにいた五人の龍人戦士たちは、すでに愛する飛龍に爆弾を結びつけ終えていた。

 大人一人では、運ぶのもやっとの50キロ爆弾。

 それを胸元に下げても、まだ余裕がある程度には、飛龍の身体は大きかった。

 飛龍たちは、かれこれ一週間、この倉庫に閉じ込められたままだった。

 いかに龍人たちが獣と心を通わせているか、その温かい愛情に、リーアンの心は震える。


 リーアンは、二枚の地図を龍人たちに見せた。

 港と王宮の位置関係がわかるものと、王宮を俯瞰して目標地点を示す地図。


 龍人たちは、その意図を理解し、目標の分担を決めると、愛する飛龍に飛び乗った。

 リーアンがリモコンを操作すると、倉庫の巨大な扉が上がり始めた。


 ゆっくりと開いていく扉から、光が入りこんでくる。

 それは現世を越えた、聖なる世界への入り口のよう。


 扉が開ききるまでの間に、戦士たちは夏の光に目をならした。

 自然の息吹に充ちた心地よい空気を胸いっぱいに吸い、過去の記憶を流し去る。


 龍人たちは、リーアンと敬礼を交わした。

 死別を意味する敬礼。


 すべてを察した飛龍たちは、鋭い雄叫びを上げ、我先にと走り出る。翼を広げ、秘めた力を爆発させて、舞い上がっていった。


 リーアンは出立を見届けると、胸元の議員バッチを外し、海に投げ捨てた。

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