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第6話 リーアン 2/5

 リーアンは叔父との会話を済ますと、早足で国会の裏門にむかった。

 立ち並ぶ警備兵たちに会釈し、半開きになっていた鉄製の門を抜ける。

 幅の広い道路を渡ると、広大な中央公園に入っていった。

 バラやカエデの木立をぬけて、噴水のある広場に着く。


 リーアンはひとけのないベンチに腰掛けた。

 ハンカチで汗をふき、乱れた息を整える。

 噴水からまろやかな水音が響く。


「こんにちは、リーアン殿ですね?」


 小柄な男が声をかけてきた。目がぎょろりと光っている。

 リーアンは機械的に会釈した。


「君は、内省の?」

「ええ。王宮内省のフロスです。御伝言にまいりました」

「いよいよ、か」


 リーアンは目を閉じ、身体を反らせて深呼吸した。


「さあ、その伝言とやらを、聞かせてもらおう」

「目覚められた王子は、ついさきほど診療所にむかいました。正確には9時32分。まもなく祈りの治療を受けることになるでしょう」

「つまり、これで、王宮に、王と王子、共に不在となる時間が作られた、と」

「そうです。あわせて例の会議も始まっています」

「なんらかの間違いの可能性は?」

「側近のメリルがスケジュールを打診してきています。間違いはございません。あわせて、これが目標地点の地図となります」

「変更はあるのか?」

「ご自分でご確認ください」


 リーアンが紙を開くと、王宮を真上から描いた地図。

 二箇所、強い筆跡でチェックがついていた。

 中央王宮の歓迎ホール上。

 そして王子の間のある東の塔。


「フロスと言ったね。君は、メリルのことをよく知っているのかい?」

「はい」


 迷いのない返事。

 それだけで意味は通じた。


「君は、このあとは?」 

「自害させていただく所存です」

「なに? ここでか? 役割を終えたということか?」

「いずれにしても病は進んでおります」


 小男は白いシャツのそでを引き上げ、腕に広がった凹凸の深い紋様をリーアンに見せた。


「おい、これは……」

「汚れた私の、はかない腕にしては、もったいないほどに美しい『花』です」

「腕だけか?」


 リーアンの問いに、小男は冷たい笑みを浮かべて首を横に振った。


「すでにほぼ全身に」

「龍人の里に行けばなんとかなるかもしれない」「私は王宮の者、病をかくす義務がございます。本日、母なるプハーヨの流れに身をまかせる自由を、どうかお許しください。よかったら、事後の疑いに関しては、すべて私の身に。役に立つかわかりませんが、これを」


 小男は、上着を脱いで、リーアンに渡した。

 リーアンは、その仕立てのよい上着を受けとると、木々の先に見えるゆったりとした流れに目をやった。

 首都キュビーネの中心を流れる豊かな川、みなが『母なるプヨーハ』と呼ぶ。


「フロス……どうか君に、スーサ神の加護があらんことを」

「お心づかい、痛み入ります」

「君たちの決意、決して無駄にはしない」


 握手ののち、リーアンは晴れわたった空を見上げた。

 この空には、最愛の妻の魂も、還っている……


「さあ、時間もございません。リーアン様、どうぞお先に。私はいましばらくここに」


 来たときはぎょろりと光っていたフロスの目が、今は柔和な笑みをたたえていた。


「ありがとう。スーサリアの未来のために」

「スーサリアの未来のために」

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