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第4話 夕日 4/4

 三人が庭園のベンチで食事をしていると、近くからテレビの声が聞こえてきた。

 携帯テレビを持っているものが、皆のために、わざと音量を上げて鳴らしはじめたのだ。

 アナウンサーが速報を伝えた。


「たった今、龍神族(りゅうじんぞく)より声明が入りました。龍人族より『富を独占し、大地を汚す悪魔に、神の鉄槌を下す』とメッセージです。これは、公式な発表です」


 広場に居合わせた人々がざわついた。


「予想はされていましたが、やはり環境過激派・龍人族が声明を発表しました。龍人族は、かねてから環境過激派として知られている国際的な組織。『富を独占し、大地を汚す悪魔の国に、神の鉄槌を下す』 これが龍人族による声明文です。さて、解説委員のイヒミセットさん、これは『環境過激派による狂気じみたテロ』と呼んでいいことなのでしょうか?」


 アナウンサーに問われ、解説委員は丁寧に話し始めた。


「まず、国民にみなさんには改めて、冷静になることを、一番にお願いしたい。すべてのことがはっきりするまで、もう少し時間が必要です。スーサリア国民の、誇りと、誠意を持って、全人民で助け合いましょう。すでに我々の自衛は整っています。再び攻撃に見舞われる可能性はありません」

「攻撃がくり返される心配はない、ということですね?」

「はい。そこは政府の説明を信じていいはずです」

「しかし、もともとの国防体制は、どうなっていたのでしょう? 高貴なる王宮への攻撃をゆるしてしまうなんて」

「今回、彼らは飼いならした5体の飛龍による空爆を行いました。この春のグラビラス号事件と同じ戦闘用の龍です。

 龍は航空機とは違い、レーダーでとらえづらく、しかもほとんど音も発しません。しかも、どこからでも飛び立つことも可能です。急襲をかけるという意味では、現代の最新兵器を越えた高性能と言えなくもない。しかし、逆にいえば、龍といえど生物なので、ライフルなど軽火器で撃ち落とすことが可能です。狙撃手の配置さえ済めば、もう怖がる必要は全くない、ということになります」

「一般的に『龍人族』と我々は呼びますが、彼らは、本当に龍を使いこなす民族だったのですか?」

「そのあたりのことは、まだよくわかっていません。飛龍は稀少な野生動物であり、人間が飼いならして利用するということは、国際的に許可されていないはずです。しかし、重要なのは、龍人族という、過激な国際組織の存在です。ここであえてはっきり申し上げさせていただきたいのは、今のこの状況は『テロ』と呼ぶよりも、すでに『戦争』と呼ぶべき、ということです。たとえ彼らの主張する環境主義に()があったとしても、このような一方的かつ非人道的破壊が、国際社会の中で許されるわけがありません。まして神聖な王宮への空爆など、言語道断です。主犯と考えられるグループや、協力している国家そのものを攻撃することも、いち早く検討する必要があると思われます」

「報復攻撃をする、ということですか?」

「いえ、報復ではなく、これはあくまで自衛です。これほどの被害が現実のものとなっている以上、必要最低限の実力行使は、国家として当然の権利と言えます」

「平和主義国スーサリアとしては、どこまでが自衛で、どこからが先制攻撃なのか、難しい問題も絡んでくると思われますが」

「もちろん最終判断は政府に任せられていることではあります。しかし、スーサリア国民の生命財産を守り、これ以上の被害を出さないために、どうか妥協のない決断を早急に行ってもらいたい」

「なるほど。さて、ここでひとつ、よいニュースが入ってきました。心配されていたタクヤ王子の安否ですが、生存が確認されたとのことです。幸い大きな怪我もなく、王宮敷地内で無事に過ごされていらっしゃるとのこと。たまたま遭遇した記者が直接伝えてきています」

「これは不幸中の幸、ホッとしました」

「本当によかったです」


 テレビで話題に上ったタクヤ本人は、口元に運んだスプーンを止めて、ユリと目を合わせた。


「さっきの人かな」

「でしょうね」


 ユリが、悪戯っぽくうなずいた。 

 ゼンが横から言った。


「ユリ」

「なんですか、ゼンさん」

「いや、その『さん』はいらない。オレもユリって呼ぶから。いいだろ?」

「はい……」

「診療所の方は、軍の人が片付けをやってくれている。すべてが元通りとはいかないだろうが、そろそろいいだろう。君は、ドクターの元に帰って、今夜はゆっくり休んでくれ。オレとタクヤは、このへんで寝るから」

「え?」


 ユリとタクヤが、顔を見合わせて、同時に聞いた。

 ゼンは少しなつかしそうな顔をした。


「軍が毛布を支給している。あれを借りよう。いいだろ、また星空のもとで語り合おうぜ。夏はよくやっただろ」

「いやまあ、語り合うのはいいけど、あいてが君というのは、どうなのかな」


 ゼンは苦笑し、食べ終えたトレーを持って、立ち上がった。


「教えてやるよ。お前の母さんが、どんなに素晴らしい人だったか。それを受け継ぐ者たちの、決意ってやつもな。なぜ王宮がこうなったのかも」

「それは誰だ? 龍人か?」

「ああ」

「爆撃したやつらか?」

「そうだ」

「なんでゼンが知ってるんだよ」

「すべてを知っているわけじゃない」

「ずるいじゃん、そんなの」

「この現実には、ここにいたる理由がある」

「なんだそれ、意味わかんないんだけど。ていうか、ゼンは、最初からいろいろ知っていたのか?」

「この爆撃を実行した本人を、オレは知っていた」

「おい、どんなクソ野郎だよ。人間か? 悪魔じゃないのか? 罪もない人々をこんな目にあわせるなんて」

「タクヤ、お前にはわるいが、いい人だよ。医師だ。いや、元医者で、今は環境派の国会議員」

「はあ、なにそれ、いい人のわけあるか」


 タクヤは吐き捨てるように言った。

 ユリは、懇願した。


「私も、知りたいです。話、いっしょにダメですか?」

「わかった。とりあえず、ユリ、君はドクターのところに戻って安心させてきたほうがいい。せっかくだから風呂でも入ってこい。戻ってきたら、きっちり語ってやる。しかし、オレが語ることが、全て正しいとは思わないほうがいいぜ」

「デタラメだからか?」


 タクヤが突っかかる。

 ゼンは冷静に王子の目を見かえした。


「正しくあろうとすると、巻き込まれる。生き残れるとも限らない。王妃をもってしても、それはかわらなかった」

「でも」と、ユリはあわてて問いただした。「タカコ妃は、病死だったはずでは?」

「病気ではあった、が、病死したわけじゃない。消されたのさ。売国野郎どもに」


 ゼンは、王宮の一角を、残酷なくらい明確に指差した。

 

「王妃を、なきものとし、王宮の秘密を大国に売りわたそうとしていたやつらが、今日、あの場所に集まっていた」

「それが? そのための攻撃だったのか? そのためにメリルさんが巻き込まれて死んだっていうのか? 巻き込まれた人は大勢いるぞ、小さな子供だって!」


 興奮したタクヤに、ゼンはシニカルな笑みを浮かべて、吐き捨てた。


「メリル……あの人は、オレと同じ古武道の格闘家だ」

「だからどうした」

「彼女が、メリル本人が、この計画を立案したんだよ」


 タクヤが息をのむ。


「なんで……」

「わかるだろ、みなまで言わすな」

「わかんねえよ、わかるわけないだろ、何が言いたいんだよ!」

「証拠を消すために自分の上に爆弾を落とさせたのさ」

「はあぁ? 僕がそこにいたら?」

「おまえが診療所に行った連絡からスタートした。これはオレの憶測だが、メリルはおそらく、おまえが『今日』目覚める細工をした。ベルベス利権をめぐって、欲にまみれた連中が集まる秘密会議の日に。しかも亡き王妃の誕生日。王は遠征中で、城の要人は出はらっている」


 タクヤは、ハッとした。


 死の間際、祈りで苦しみから解放されたメリルは、最後に口元を動かして、なにかを語ろうとしていた。

「ありがとう」か、「だいじょうぶ」か、そのような言葉とタクヤは理解していたが、そうではなかった。



「あとは頼みます」



 確かに、王宮と王子への奉仕に、命を捧げた人。

 王宮とこの国の未来のために自ら犠牲なることを選んだ気高い意思は、いくら敬意を示してもたりないほど。

 引き継ぐべきことがあるなら、全力で引き継ぐ。

 

 でも、ちがうんだ、とタクヤは叫びたかった。


 まだ寝起きのボーとした思考ではあったが、メリルの動作はすべて記憶していた。

 飛んでいる蚊をつまんだり、点滴をぬいて窓辺に移動することを手伝ってくれたり、いっしょに海を見て、忠誠の誓いをしてくれたり。 

 彼女が発した言葉もおぼえていた。

 すべておぼえていた。

 しかし、それらは過去であり、これから新たに追加されることはない。

 その現実が、巨石に磨りつぶされたかのように、タクヤの心を引き裂いてくる。 

 


 タクヤは夜空をあおぎ見て、あふれる涙をそのままに、小さく首を横に振った。


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