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第0話 秘書メリル 1


 スーサリア王宮で、秘密の宴が行われていた。

 場所は三階の迎賓室。

 世界から集まった20人ほどの紳士淑女が、楕円形の円卓を囲み、意見を交わしながら美食を堪能していた。

 身なりも、ステイタスも、物腰も、常人のものではない。世界を支配する大物たち。


 彼らに共通しているのは「ある物質」について関心があること。


 その物質の生産の秘密を所有することこそが、現代世界を支配すること、と彼らは信じて疑わない。

 核兵器どころではない、人知を越えた物質。

 実際に彼らは、その恩恵をすでに受けていた。

 物質を手に入れて、利用することはできている。たとえば薬の原料として。

 しかし、ここに集う者たちをもってしてもその物質が、どのようにして作られるのか、その核心については未だ知り得ないままだった。


 はっきりしているのは、ここ北の王国スーサリアに古来から伝わる伝統の中に、製造の秘密が隠されていること。

 スーサリア王宮に隠された謎。


 数年がかりの計画の元、一人ずつ邪魔者を排除し、王宮貴族を味方につけ、いよいよ彼らは秘密を暴く目前まで来ていた。

 もちろん、ただ暴くだけではない。

 その後の管理こそが重要だった。

 その核心部分は仲間内で完全に隠蔽していかねばならない。

 互いに互いを監視する公平な仕組み。


 そのような議論が一通り終わった頃合いを見て「そろそろいいでしょう」と、酒杯が配られた。

 待ってましたと、いっきに飲み干す者たち。

 すでに勝利者気取り。


 恰幅のいい紳士が立ち上がり、片手を上げてみなの注目を集めた。


「みなさん、ここで一つ余興を。ごらんください。こちらに用意した回転するマトには、みなさんの名前が書いてあります。私がダーツを投げます。みごとダーツが当たった人は、ここで何でも要求できる、という段取り。よろしいですか?」


 もったいぶるな、と野次が飛ぶ。


「確認しますぞ。この場にいるもの全員は、それに従わねばなりません。ただし、よき常識として、性行為と、怪我を負わせることは禁止です。それ以外は、この場で完結することであれば、なんでもあり。望まれた者は、否定できません。よろしいですね? 何を求めるか、考えましたか? では、始めましょう」


 スタッフが、ボードに設置された的を、勢いよく回転させた。

 余興の開始を告げた紳士が、慣れた仕草でダーツを手に取り、ふんわりと投げる。

 ダーツが刺さると、すみやかに回転が止まる。

 そこにあった名は、世界的製薬企業の創始者であるX氏だった。


「Xさま、どうぞなんなりと」


 X氏が立ち上がる。


「思わぬ幸運。まさか自分が当たるとは。しかし、あたってしまったものは仕方がない。親愛なるみなさんの手前、遠慮するのも無粋というもの。私が、今思いつく恥ずかしい欲望を、叶えさせていただくことにしましょう」


 X氏は周囲を見回す。

 紳士淑女はゴクリとつばを飲んだ。


「私は、少しかわった遊びをしたい。普通では、面白くない、そうでしょ? で、そこにいるスーサリアのスタッフの方、警備の女性スタッフ、あなたの名前は?」


 いきなり指名されて、不審な表情を浮かべる女性警備スタッフ。


「私ですか? メリルと申します」

「とても良い姿勢です。まさに本物の武道家とお見受けした。そんな素晴らしい女性だからこそ、わたしたちとお付き合いいただきたい」

「どういう意味でしょうか?」

「この場に居あわせたものは、みなこのゲームの対象、ということです。あなたを、遊ばせていただきたい」

「はあ?」

「断ることはできないルールなのはご存知ですね? いや、焼いて食べようというのではない。私は、かねがね、金で買える女には飽いていまして。真面目な子、いたいけな少女、そういったものは、たいがい金ですんでしまう。しかし、ここに入ってすぐ、気になってしまったのですよ、私は。スーサリアの美しい女騎士。その気高さこそ、金で買えるものではないと。たしかに、あなたは、特別だ。強さと美の調和に、正直、目を奪われました。さあ、とりあえず、前に」

「はあ……」

「では、上に着ているものを脱いでください」

「私は見せ物ではありません」

「だからこそ、いいんです。さあ、ルールはルール、早くぬいでください。スーツも、シャツも、下着も。ただ、全裸になる必要はない。私はあなたの胸に興味がある」


 メリルと名乗った女騎士は苦笑した。変な趣味だ。さして若くもない私に何をしようというのか。

 しかし逆らってもムダと理解し、いさぎよく衣類を脱いでいった。


「たいしたものでもないのに」

「謙遜なさるな。よいスタイルです。さすが鍛えられている。しっかり存在感のある乳房の形もよろしい。では、みなで、触れていきましょう」


 女騎士に怒りの表情が浮かんだ。


「触れる? 性行為はルール違反のはず」

「性行為ではありません。スーサリアの美を、みなで、めでるのです。あくまで鑑賞会です」


 男たちが立ち上がり、上半身裸のメリルに歩み寄る。

 周囲を囲み、真面目な表情のまま、手を女の胸に伸ばす。

 粗雑なことではなかった。男たちはまるで本物の芸術作品であるかのように、指先で丁寧に白い肌に触れていった。

 鍛えられた肩や腕、そして首筋から下がり、高貴な果実のような二つの乳房、さらに硬い胸の突端へと。


 女性の扱いに長けた男たちが、代わる代わる女騎士の肌にふれていく。

 メリルの身体がビクビクと震える。

 男たちは、行為の経験に関しては、いずれも世界のトップクラス。女を感じさせる微妙な力加減を、高名な演奏家のように心得ていた。


 刺激に耐えてガクガクと震える女騎士。

 言い出したX氏が例を述べた。


「思いのほか敏感な方ですな。ありがとう。貴重なものを見させてもらいました」


 そこに貴婦人が男たちに割って入り、メリルの股間にいきなり手をあてた。


「騎士様は、洪水ね。大洪水。これは何かの間違いでしょうか?」


 挑発的に述べた貴婦人だった。

 が、すぐさま表情が変わった。

 女騎士の股間はなにも湿っていなかった。


「あなた、ビクビクして、何も感じていないの?」

「無意識で攻撃しそうになる身体の反応を抑えるのに必死で」

「それだけ?」

「お怪我はさせられません」


 貴婦人は、メリルの頬を叩いた。

 それでもたりず、メリルの乳を欲から強くたたいた。


「はっ、偉そうな顔をしていられるのも、今のうちさ。お前の国は、ただの抜け殻になる。教えておくよ。ただし、壊しはしない。美しいまま、その心を私達がいただく」


 メリルは表情を変えず、両手を後ろでにぎったまま、数学の問題に答える大学の生徒のように言った。


「あいにく、スーサの神は、俗人には心を許さないことになっております」


「それは田舎者のあんたがしらないだけ。この世の中には、神だって従わせる方法はいくらだってあるんだよ。ほら、いいから、怒りな。女としてぬれる能力すらないのなら、せめて怒って醜態をさらせ」


「あいにく、哀れみしか」


「言ったな?」


 と、X氏が割り込んだ。


「女よ、従順な姿勢には感謝する。しかしこの部屋のルールが、外でも通用するとは思わないことだ」

「わかっております。私とて戦場を知る身。もちろんこの国の脆弱な立場も。それでもなお、ここでは、みなさんをお守りするのが、我が使命」


 X氏は肩をすくめた。


「もうよい。議論などつまらん。さがれ。私からは以上。さあ、次の余興へどうぞ」


 すると紳士の誰かが、思索しながらつぶやいた。


「スーサリアを醜くおとしめる、か。たしかに面白い。考えどころだ……」

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