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第3話 爆撃 5/5

 祈りの間にむかって、金髪の女性が走ってきた。


「このものが危険です。すぐに祈りを!」


 彼女の後ろに、数人が従っている。

 男たちがかつぐ担架には、頭から血を流している怪我人。

 怪我人には右腕がなかった。あるべき右腕は切断され、彼の両足のあいだに無造作に置かれていた。肩にまかれたタオルはすでに広範囲に赤く染まっている。

 痛みで顔を歪めているのか、打撲で顔そのものが歪んでしまったのか、見た目では判断できない。


 有無をいわせぬ金髪の女性の指示で、怪我人は祈りの部屋の中央に横たえられた。

 そして女性は、外で寝そべっているユリを見つけると叫んだ。


「何してるの。早くしなさい、祈り師! 死んでしまうわ」

「あ、はい……」


 ユリは身体を起こし、部屋に戻る意志を示した。

 しかしタクヤは同意できなかった。


「もう限界だよ、ユリ、これ以上は無理だって」

「タクヤ様?」


 金髪の女性が質問した。


「なぜ、タクヤ様がここに?」

「なぜって、僕だって知らないよそんなこと……」


 なにが起こったのか、彼にはわからない。

 記憶がないのだ。

 しかし、その金髪の女性のことは、タクヤは知っていた。

 泣く子も黙るミルシード。

 遠慮なく顔を寄せ、明るく微笑む姿は、もうそこにはなかった。 ブラウスは灰に汚れ、女ものの靴を脱ぎ捨て、代わりに黒い男性用の革靴を履いていた。

 この場のリーダーとして、強い意志を持った若き女貴族の姿が、そこにあった。


「僕は、たまたま、ここにいて、そのまま手伝っている」

「まあ、そんなこと、タクヤ様がなさらなくても。それに、タクヤ様が、祈り師を甘やかしてはいけませんわ」

「いや、甘やかしているわけじゃなくて、ユリは本当に限界なんだって」

「だって、ほら、まだ『生きている』ではありませんか」

「はあ?」

「祈り師は、祈りに命を捧げるもの。生きている以上、まだ祈れるということですわ」

「そんな、バカな」


 怒りで身体が震えたタクヤ。

 しかし立ち上がったユリが腕をのばして彼を制した。


「おっしゃる通りです。それが、祈り師……」

「バカ、やめろよ! ユリが死んだら意味ないだろ!」

「……大丈夫です……私を……戻してください」

「なに言ってるんだよ。大丈夫じゃないよ。無理だって。一人じゃ立てないくらいなのに」


 しびれを切らしたミルシードは、タクヤに黙礼すると、大声で「ユリを戻しなさい!」と男たちに命令した。

 ユリを奪おうとしてくる男たちに、タクヤは抵抗しようとした。 しかしユリは、自らタクヤを振りはらい、男たちに身体を預け、よろめく足取りで、祈りの部屋へと戻っていった。

 ミルシードは後ろからむち打つように怒鳴った。


「まったく、祈り師の分際で、タクヤ様の同情をさそおうなんて、なんてふざけた女なの! 身の程をわきまえなさい。死にそうな者は他にもいるのよ。のんきに休んでいる場合ではなくてよ!」


 部屋に戻ったユリは、怪我人の頭側に膝をつくと、血に染まった肩に手をかざし、胸の装身具から弱々しい緑の光を放ち始めた。

 ミルシードは、両目を鬼のように光らせ、追い打ちをかけて怒鳴った。


「私たち、これから何人か連れてくると思うけど、全員、きちんと祈って差し上げるのよ。あなたが死んじゃダメよ。わかったわね!」


「おい、君」


 タクヤは、ミルシードをにらんだ。

 全力で反論したかった。ユリは限界なのだ。腕をとって外に連れ出したとき、その感触で痛いほどわかった。

 しかし、王宮の記憶がなく、事情がわからないタクヤには、具体的に言い返せることは何もなかった。ミルシードの暴言も、傷ついた者への精一杯の誠意と、理解できないことではない。

 タクヤは言葉を続けることができず、ミルシードを見つめたまま、両目から涙を絞り出し、血が滲むほど唇を噛んだ。


「タクヤ様……」

 

 ミルシードは、ふと素直な気持ちで、彼を見た。

 この絶望的な状況のなか、涙を流しながら言葉につまる彼。

 その彼の全身から発せられる、美しき良き光を、ミルシードは見た。

 一瞬だったが、錯覚ではない。


 タクヤ王子……ボケの返しはひどかったけれど、たしかにあなたこそ、高貴なる真の王子なのね。



 やがてヘリコプターの音が響いてきた。

 王宮には馴染まないエンジンとローターの重い音。

 その降下してきた軍のヘリコプターの開かれたドアから、荷物についた赤い救護マークが見えたとき、人々の心に希望の火が灯った。

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