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第3話 爆撃 3/5

 瀕死のメリルを背負ったタクヤが、祈りの間の戸口に立った。

 彼が、ほんの1〜2時間前に祈りを受けるために横たわったあの治療台は、すでに庭に出されていた。

 怪我人たちは、床に直に並べられていた。

 7人の瀕死の人、もしくは、息をひきとった人。

 大人だけではない。

 ちょうど今、片腕を失った子供が、ユリから最期の祈りを受けている最中だった。


 ユリが祈っている子供の横に、タクヤはメリルを下ろし、スラリとした手足をていねいに整えた。

 ふと見ると、子供は、白いカーテンのような布でくるまれていた。その右半分が、内側から赤く染まっている。

 頭や顔もケガをしていたが、片方の頬だけが無傷で、妙に美しく輝いて見えた。


 ユリは、次々に運ばれてくる怪我人に配慮し、患者の頭側から祈りを続けていた。

 胸の装身具から広がる淡い緑の光を受けた幼い子供の顔は、まるで母親に面白いお話を聞かされて眠りにつく子供のように、安らかな表情に変わっていく。

 ユリが小さくうなずき「ありがとう」と声をそえる。

 指先で、子供のまぶたを閉じた。


 部屋の外から、悲鳴のような嗚咽が響いてきた。子供の母親だろう。


 しかしユリは表情を変えず、すぐさま横に運ばれてきたメリルに移った。

 血糊の広がった額に手をかざす。

 再び装身具から緑の光が広がり始める。 まもなくメリルもまた、苦しみを乗り越え、安らかな表情に変わっていった。


 口から言葉が発せられることはなかった。

 ただ、うつろだった目にかすかに生気が宿り、タクヤを目で追った。

 タクヤと目が合う。その目から”お会いできてよかったです”と、端正な意志が、タクヤに伝わってきた。

 タクヤはおもわず顔を寄せ、声を張り上げた。


「ねえ、僕たち、まだ会ったばかりですよ! 早すぎますよ! もっと、いろんなこと教えてくださいよ! 僕って、ホント、わからないことばかりだし。また、地図、描いてくださいよ。すごくわかりやすかったですよ。何も憶えてなくても、迷わずここに来れましたよ。メリルさんの気づかい、ホント、僕には、全部、本当に、最高に、嬉しかったです。メリルさん、ねえ、お願いだから、まだ……」

 

 するとメリルは、さも面白い冗談を聞いたかのように、うっすらと笑みを浮かべ、そして、小さく口を動かした。 ”ありがとう”か、”だいじょうぶ”か、なにかそのような言葉を残し、午睡に入るように、ふっと全身が静寂に包まれた。


 ユリは祈りを終え、壁により掛かった。


 タクヤは震えながら、聞き取れなかったメリルの最期の言葉を後悔にかえないように

「ありがとうございます」

 と、血のような声を嗚咽とともに絞り出した。

「ありがとうございます、メリルさん、ありがとうございます」

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