第3話 爆撃 1/5
7月20日。亡き王妃の誕生日におこなわれた飛龍による爆撃。
それは、ロケットやエンジンの現代兵器とは異なる、静かで生々しい破壊行為だった。
飛龍によって運べるのは、せいぜい人間が二人。一人が操舵手として背にまたがれば、あとは一人分の重さの爆弾を運べるにすぎない。
しかも飛来したのは五頭だけ。
ただし、龍はレーダーに映らず、飛来音もほとんどない。
平和を愛するスーサリアも、小規模ながら近代的な自衛軍は持っていた。 国境からの無法な侵入に対してなら、最低限の対処はできたはずだ。 しかし首都の内側から飛び立った飛龍の奇襲は防げない。
王宮の何カ所もが、爆弾の直撃を受けた。
それでも王宮常駐の兵員たちが、ライフルで応戦すると、龍は被弾し、墜落していった。
◆ ◆ ◆
スーサリアの象徴たる美しい王宮が爆撃を受けたことは、ただちに映像付きで世界ニュースとなった。
人々はその衝撃的なニュースに釘付けになりながらも、なぜこのようなことになったのか、と疑問を抱いた。
スーサリア賞で知られる美しい北の小国がなぜ?
観光名所でもある王宮が破壊?
報道においても「詳しいことがわかるにはもう少し時間が必要です」とくり返された。
◆ ◆ ◆
タクヤとユリがいた祈りの間、そのガラスの破片の散乱した部屋に、足音が聞こえてきた。
軍人のようなキビキビとした靴音。
周囲を探るために止まり、またすぐ近づいてくる。
タクヤとユリは、抱きあったまま身を堅くした。
城を強襲した目的が、王子の誘拐である可能性は?
だとしたら敵の襲撃かもしれない。
今さら隠れて身を隠す場所もない。 足音が近づき、部屋の扉が開いた。
「ここにいたのか」
「誰ですか、あなたは!」
ユリは王子をかばって叫んだ。
痩せた長髪の男は、足を止め、安堵の表情を浮かべた。
「タクヤ、おまえはここにいてよかった」
「え?」
タクヤは耳鳴りが残っていたが、それでも聞き取れた黒服の男の言葉が信じられなかった。
「いい、なんてことは何もないと思うが」「王宮にいたら死んでいた」
ユリは、男をにらみつけた
「誰ですかあなたは」
「ああ」
侵入者は一瞬考えたのち、肩をすくめた。
「警戒してるのか? オレは見方。王子の守護騎士だ。心配するな」
「守護騎士?」
「いや、今さらそんなたいそうなもんじゃないが、仕事だからな。本当はどちらかというと、ただの学友だ」
タクヤは思い出した。
いっしょにフイッシュフライサンドやシャーベットを食べた相手。
「おまえ、ゼンに似てないか?」
「バカ、本人だ」
「はあ? じゃあなんでここに?」
「昔から、王子ってやつには、秘密の裏方がいるもんなのさ」
「いやいやいや、ゼンってゲームばっかしていつも眠そうな……」
「そんなことはいい。とにかく、王宮はだいぶ破壊されちまった。で、ここは王宮のなかの貴重な医療施設だ。この意味、わかるな?」
「怪我人の手当か?」
「そう。オレは運ぶのを手伝ってくる。おまえたちは急いで準備しろ」
立ち去ろうとする男に、タクヤはあわてて声をかけた。
「こんなの、誰がやったの?」
「いろいろややこしい。今はとにかく準備を」
男が去る。
ユリはタクヤを見て首を傾げた。
「お知り合いですか?」
「まあね。あいつ、いろいろ知ってやがったのかよ」
「いい方ですか?」
「いい方かどうかは知らないけど、春まで一番の親友だった」
「では、信用できますね」
「どうかな。なんか、いろいろかくしてるみたいだったけど、こんどすべて聞き出してやる。それより、たしかにここは診療所だし、怪我した人の対応をしなくちゃ。急いでガラス、かたづけよう」
みなぎって立ち上がったタクヤはすぐに行動を開始した。
服を着て靴をはき、大きな破片を拾いあつめた。小さな破片は診療所の女性に掃除機で吸ってもらった。診療所の掃除用具を借りたタクヤは、さらに素早くかたづけていった。
ユリはつぶやいた。
「タクヤ様が、そ、そのような……」「なにいってんの。こうなったら王子とか関係ないよ。ここにいる以上、できる限り手伝う」
しかし、タクヤは、まだ「手伝う」ことの本当の意味を知らなかった。
ユリが窓の外を見ると、崩れた王宮の粉塵と瓦礫の中から、血にまみれた人がよろよろとはい出ていた……




