表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/226

第23話 空路 1/2


 ヘリから降りてきたライン特佐は、深く頭を下げてタクヤを迎えた。


「先の失態、心よりおわび申し上げます」


 民間機の撃墜事故があり、空は危険ということで、軍の高速船で王の元にむかっていたタクヤだったが、思わぬ海賊の襲撃を受けて連れ去られてしまった。


 しかし、それも運命。

 軍の将校の謙虚な姿を見たら、タクヤは急に元気づけてあげたくなった。


「いいって、気にしないで。いろんな経験ができて、むしろよかった。海賊と言いながら、うちの国とずいぶん縁があるところみたいだったし。それより、ここから先は直行できるんですよね?」


「はい、乗り継ぎはいたしますが、空を経由。おそらく今日中、夜半には王の元に到着できるはずです」


「いろいろ確認したいこともあるし、早くいっちゃいましょう。頼みますね」



 ◆ ◆ ◆



 ヘリの轟音の中、小型の窓からは景色が見わたせる。

 夕暮れの砂漠。

 昼と夜との狭間の瞬間。

 壮大なグラデーションに染まっている。


「街が見えるわね」


 ミルシードが遠くを見つめて言った。


「高層ビルが並んでいる。でも、あそこも大国の中では無名の辺境都市にすぎないのよね。私の政治力なんか小さなものね。しょせん小国のものにすぎない……」


「ミルは、今まで通り、泣く子も黙る強引さで突き進んでいけばいいだろ」


「タクヤ、あなたは記憶を消されたかもしれないけど、でも、それってある意味、最強よね」


「自分は、バカな王子だけど、バカだからできることがある」


「でも、ムチャしないで」


 ミルシードが真面目に伝えると、タクヤは微笑んだ。


「大丈夫。ちゃんと祈り師に支えてもらっているから」


「タクヤ、悪いけど、それももう終わりよ。そうでしょ、ユリ」


 タクヤがあわててユリを見ると、ユリはしっかりとうなずいた。


「マンスフィールド号には、すでに私以外の6人の祈り師が待機しています。専門のドクターや祈祷師も。新米の私の役割は、もう終わったといっていいと思います」


 愕然とするタクヤ。


「じゃあ、ユリは?」


「これからは、王子様に対峙する7人の祈り師の一人、ということになるかと」


「そんだけかよ……」


「そんなことより、タクヤ、あなたの本当の試練は、これからです。真の王子になること。そして、欲望がうずまくこの世界で、スーサリアの王位を守り抜くこと。今は剣と盾の時代ではありません。でも、本質は、同じだと思います。力のないものは、負けるのみ」


 ミルシードは、くっくっと笑った。


「『力がないものは』って、あんたが言うと、むしろ、お可愛かわいいわね」


「ミルさん、バカにしないでください」


「バカにしてないわよ。私だって、連邦の前では小さな女子にすぎない。わかっている。でも、私は屈服する気はゼロよ。私は、私を貫き通す。だから、ゼン、あんた、ちゃんと横で仕事しなさいよ」


「え゛」


 うとうとして、よだれを垂らしていたゼンがビクッと反応し、迷惑そうな顔をした。


「イヤそうな顔しない!」


「……オレはおまえのために仕事してるんじゃないんだが」


「べつに私のために仕事をしろなんて言ってないわよ。我が国と、我が国の王室のため」


「うーん……」


 ゼンは両腕を上げて伸びをすると、おもむろに声を大きくして言った。


「おまえら、一つ言っておく。タクヤの症状は、ここで治癒されるだろう。いわゆる治癒とはちがうだろうが、決定的なことを受けることになる。そのときに、ベルベスのもっとも神聖ななにかが利用される。それを世界がねらっている」


「だから、なんだよ?」


 タクヤが問う。

 ゼンは肩をすくめた。


「しらん。ただ、そのときになって、つく方を見誤るな、とだけ言っておく」


「つく方、って、それは、どんな選択肢があるのさ」


「しらん。そのときになってみないとわからん」


「なんだよ、しらんことばかりだ。あいかわらずゼンはゼンだ。じゃあ、僕からも一つ、言っておこうかな」


 ポル爺が「なんじゃなんじゃ」と面白そうにまゆを動かした。

 ミルシードは意外な顔をした。

 ユリは心配そうな表情になった。


「あのさぁ、僕は、長い眠りから目を覚ましたとき、大切な人と出会ったんだ。メリルさん。その人が、なくなるときに、言葉を残してくれた。『後を頼みます』って。僕がこれからどうなるかわからないけれど、その言葉だけは、裏切らないようにするつもりだ。それが何を意味するのか、あるいは場合によってはとんでもないことになるのかもしれないけど、でも、僕は、それを選ぶよ。それだけは、絶対に迷わない」


 タクヤは声を張り上げて言いきると、すがすがしい気持ちになった。

 あの日、たった一日にも満たない短い関わりでも、一生の関わりに勝るとも劣らない関係は存在する。

 それこそが価値であり、誠実であるということ。

 メリルはもういない。

 しかし彼女の心は、今も世界に広がっている。


 タクヤの言葉に、ウソは微塵もなかった。


 しかし、それ以上の、別の意図もあった。

 ある想いを隠すための主張。


 本当は、このフライトは、ユリとの凱旋。

 もし身体が治癒されたら、二人を隔てる障害はなくなる。

 あと少し。


 ユリに手をのばしたい。

 その腰を抱きしめたい。

 はばかることなくキスしたい。


 あと少し。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ