第21話 空爆 7/7
「女と老人は飛龍に乗れ。脱出する」
ツーコアの指示に、タクヤは首を傾げた。
「え、僕は?」
「馬を走らせろ、王子。その馬は遊んでいただけだ。本気を出せば速い」
「遊ぶって?」
タクヤの疑問に、ゼンが馬上から答えた。
「遊ばれていたのさ。初心者だなって。だが、危険は感じている。態度を見ればわかる。ツーコアに従え。おまえはしがみついているだけでも、馬はツーコアを必死で追うだろう」
「それにトゥーリに4人も乗せられない。こいつはでかいが、病弱なんだ」
飛龍が身体の片方を下げる。
人が乗りやすくなるように翼の位置まで整えて。
そのとき、 サルたちの叫び声が強風のように響きわたった。
今日の食事を逃がしてなるものか、と。
「食われちゃたまらん、さっさと乗れ」
先に飛び乗ったポル爺が、女子二人を引き上げて、飛龍の首元に三人でしがみつく。
先頭はミルシード、そしてユリ、ポル爺。
飛びかかってくる猿たちを、まき散らすかのように、巨大な羽が羽ばたき、飛龍は浮き上がった。
10メートルほどの高度を確保すると、ふっと上体をかがめて、一気に加速して空に舞い上がった。
ツーコアは「はいゃー」と叫んで、馬を全力で走らせた。
タクヤとゼンの二頭の馬がそれを追う。
飛びついてくる猿たちを振り落として、土煙を立てて。
ミルシードは興奮していた。
「ユリ、私、飛龍に乗って飛ぶの初めて」
「きっとどんな貴族でも、こんな経験していませんね」
「すごい風。すごい筋肉。そして温かい」
「好きになっちゃダメですよ」
「ダメか? トゥーリ、ラブ。だめ? むしろ、ありじゃない?」
「ミルさん、あなたには、待っている人がいます」
「何それ、安っぽい占いみたいな台詞」
「ね、私、女王にすべて話しちゃった。今の私、心から飛べる気がする」
「それはよかったわね。そのオモチャで会話したら? あいつは喜ぶわよ」
「そうじゃないの」
「はあ?」
「だって、私たちは、空を飛んでいるのよ」
「そうね」
「空を飛んでいるの」
「だからなに?」
「空を飛んでいるの。……にむかって。最高でしょ」
ミルシードは風でよく聞き取れなかった。
何にむかって?
ユリは、その人の名前を、小さいながらも本当に口にしていた。
飛翔して、彼のもとに近づく喜びに、身を震わせながら。
◆ ◆ ◆
後ろにいたポル爺は、風に押されてとどいた名を聞き分けてしまった。
わずかに巻き舌にして発音するしなやかな名前。
デル。
デルフィーニ王をそのように呼ぶ人は少ない。
そしてすべてを理解した。




