第20話 ユリの愛 4/4
夜明け前から、里がさわがしくなっていた。
戦士たちが身支度を調えて、月明かりが広がる広場を足早で移動していく。
ポル爺とゼンが気がつき、ベッドから降りて、窓から外をうかがった。
「何が始まったんだ?」
「あれだな、あれ……なんて言ったかな、ど忘れした」
「言葉はいいから」
「まあ要するに、セノラさんのときと同じやつじゃよ」
「セノラさんって、あんたの村の創始者だった人か?」
「そんな大層な言いかたがふさわしいとは思わんが、まあ、そういうことだ。歯向かう反逆集団を大国が叩くには、あるていどの段取りが必要なんじゃ。国際会議への提案とか、決議とか。根回し含めて4日くらいで書類がそろう。そうしたら、正式な攻撃開始だ」
「時間がかかるぶん圧倒的なやつだな。軍隊が来るのか?」
「いや、紛争地帯でそれはないだろ。バランスがくずれる」
「ならば、ミサイル空爆か」
「だな。空爆で龍人の里がこなごなになる映像を世界配信できれば、世論も納得しようというというものだ」
「その場合、事前警告はあるよな?」
「それが発せられたんじゃろ。いつになるかわからんが、今日中には爆撃されそうな雰囲気じゃ」
「こんな暗いうちから動き始めるってことは、夜明けに降ってくるかもしれない」
「いや、王子が滞在していることは知っているはずだ。無謀なことはあちらもできない」
「ではどうなる?」
「女王の交渉次第、というところかな」
そりゃだめだ、とゼンはつぶやいて、一瞬思考したのち、はっきりと質問した。
「タクヤたちは、あんたにまかせていいか?」
「はあ? ゼン、これはおまえの仲間じゃぞ」
「これからタクヤは、船で成人の義を受けるだろう。『降霊祭』の最終段階だ。連邦の手の上で」
「阻止する気か?」
「そのときに、ベルベス精製の鍵になるものが使われる、ということは多くの人が知っている。連邦に渡すわけにはいかない」
「最悪、船を破壊することになったとしても、か」
「とりあえず爆薬を手に入れておこうと思う。確保するルートを知っている。それをあんたに送ろう」
「食材経由だな?」
「ああ。古典的だが、大きな儀式やパーティまであるとなれば、おそらくいける。あとで連絡先と暗号のメモを渡す」
「あんまりむちゃすんなよ。おまえがいなくなったらタクヤの未来が心配じゃ」「しょせん本物の王子は別にいるんだ。気にするほどのことじゃないさ」
「表向きはそうだが、しかし、秘術を引き継ぐのは、やっぱり、このタクヤじゃ」
ゼンとしては、鎌をかけたつもりだった。
しかし、やはりこのジジイは、タクヤの役割について、完全に知ってやがる。
「とりあえずオレも同行はするが、消えるときはすっと消える。みんなによろしくな」
「ミルは悲しむぞ」
「冗談じゃない。あいつは王子様しか眼中にない」
「ワシもそう思っておったが、なんか、ちがう気がしてきた。ふっきれるようなことでもあったのかもしれん」
「まあ、オレには関係ない」
「ゼン」
老人が真剣な顔で言った。
「どんな形にしろ、この旅の仲間は特別だ。一生に一度の出会い。大切にしろ」「そういうあんたは大切にしてるのかよ」
「あたりまえだ。わしの人生の中で、最も大切な宝だ」
「そうか……わかったよ。うん。先人の知恵は、ないがしろにはしない」
「よし」
ドンドンとドアが叩かれて、龍人の声が響いた。
「すぐに支度をして、女王のもとに来てください」
「ワシらだけか?」
き
「全員でお願いします。10分後にもう一度きますので」
まもなく、想像を絶する破壊が、この聖なる里を襲おうとしていた。
龍人族たちはとっくに覚悟を決めていたが、破壊が破壊であることにかわりはない。
戦士たちにとっても。木を駆け上がるリスや、よい匂いのする花や、清らかな水をたたえた泉にとっても。




