42話.藤堂誠也の為に⑥
「うん、うん。そういう事だから、皆に連絡頼んだぞ拓。咲だと面白おかしく言いそうだからな」
「まぁ姉貴は確かに……。分かったよ兄貴。無茶してねぇなら、俺からは何も言う事はねぇけど……ちゃんと元気な姿で帰ってきてくれよな兄貴」
「大丈夫だって拓。俺だって傷だらけに自分からなりたいわけじゃないんだぞ?」
「そりゃそうだろうけどさ、兄貴はいつも自分の事は後回しにするから心配なんだよ」
相変わらず過保護な弟に苦笑するしかない。
でもそれだけ心配掛けてるって事でもあるから、気を付けないとな。
「ありがとう拓。明日の晩には帰るからな」
「あいよ。美味しい晩御飯作って待ってる」
「頼んだ!」
そうして電話を終える。
「クス。拓君と夫婦みたいね玲央君」
「ふふ、微笑ましいです」
「聞こえてた!?」
「そりゃスピーカーにしてれば聞こえるわよ」
「!?」
「安心してください、この部屋には私とリーシャしか居ませんから」
そういう問題ではないのだけど!?
スマホって難しいな。
偽海底ダンジョンから船に戻り、近くの西園寺グループのホテル『花園』にお世話になる事になった。
二人とも水着のまま、上に服を羽織っただけで直行したので驚いた。
更に驚いたのが、温泉にそのまま入ろうと言ってきた事である。
「私達水着だし、そのまま入れば良いじゃない?」
「そうですよね?」
あれ、これ俺がおかしいの?
というわけで、否定もできずに一緒に温泉に入り、体がポカポカになって今に至る。
混浴だけど全員水着だった事もあり、なんとか倒れずに済んだ。
推し達と混浴で水着でお泊りって俺は明日死ぬんだろうか。
待て待て繋げたらダメな文面になってる落ち着け。
「とりあえず家族には伝えておいたんで、明日の晩に帰るくらいで大丈夫だよ」
「それは良かったです。夕食もこの部屋に運ばせますので、気軽に楽しんでくださいね」
「至れり尽くせりで恐縮だよ。ありがとう紅葉さん」
「いえいえ。玲央さんがこのホテルに泊まると知って、御爺様が飛んで来そうになって、そちらを抑える方が大変でしたよ」
「なんで!?」
何故西園寺 剛毅さんが、俺が泊まるからと来そうになるのか、意味が分からない。
「紅葉、貴女まさか、もうすでに……?」
「ふふ」
「……」
あれ、また二人が意味ありげに見つめあってるんだけど。
二人とも今は私服なんだけど、これがまたとてもよく似合っている。
リーシャさんは来た時と同じ服かと思いきや、違う服装になっているし。
まぁ『魔法のカバン』の中に色々入れている人は多いから不思議ではないけど。
おっとそうだ、それで思い出した。
「リーシャさん、紅葉さん、良ければこれを受け取ってほしいんだ」
「あら、婚約指輪かしら?」
「ふ、二人同時になんて、玲央さん……」
「うん、違うからね。左手の薬指に間違ってもつけようとしちゃいけないよ?」
「「……」」
それは二人が好きになった人から受け取って、つけてあげてほしい。
俺は二人の事が大好きだから、二人が好きになった人なら……烈火なら、祝福できるから。
勿論、親しくなった今では、立ち直るのに時間はかかるだろうけれど……それでも、大好きな人達の幸せを祈る事が出来なくて、何がファンだ、推しだ。
「リーシャさんの指輪は、『銀の指輪』といって、魔法攻撃力と魔法抵抗力を増幅させる効果があるんだ」
「私の髪色と同じ指輪を選んでくれたのね」
「う、うん。リーシャさんに似合うと思って。それで、紅葉さんのは『翡翠の指輪』と言って、こちらも同じ効果の指輪だよ。効果量も"魔眼"で確認したら同じ位だったけど……」
「こちらも、私と同じ髪色の指輪なのですね。……ありがとうございます。どんな高価な贈り物よりも、嬉しいです」
どうやら二人とも喜んでくれたみたいで良かった。
自分の魔道具分だけでお金が浮いたし、紅葉さんにはいつも道具類でもお世話になっているから、二人に何か返したいと思ったんだよね。
そんな時にamuronで目に付いたのが装飾品だった。
普段身に着けても邪魔にならないもので、身に着けやすいもの。
そうなると、ヘアピンや指輪、リストバンド等が浮かんだ。
ヘアピンは見た目が完全に変わってしまうし、リストバンドは苦手な場合もあるだろう。
そうなると、指輪しかなかった。
二人とも魔法を良く扱うし、魔法抵抗力を上げるのは呪い等抵抗力の増加に繋がる。
そう思って探し始めたものの……値段がね、指輪って高いの。
ただのアクセサリー、そう思うなかれ。
武器防具より高いのなんなの?
効果が凄まじく高いとかなら分かるけど、なんでなんの効果もついていないような指輪すらン十万円もするの?
それも安くて、だし。
おかしい、おかしすぎる。
だけど、二人へのお礼も兼ねているので妥協はしなかった。
限りなく効果が高く、お値段据え置きを探してたら、マカロンに……
「意中の女に安物の指輪を贈るなど、お前の器量はそんなものか? さぁここに札束があるぞ、遠慮なく使え」
という悪魔の誘惑を(文字通り)されつつ、なんとか堪えた。
手持ちにあった色々な素材をネットオークションに掛け、即日売買で売り切り。
なんとかまとまった資金を手に入れた俺は、指輪を購入したのだ。
マカロンには笑われたけど、これが俺の精一杯だったので仕方がない。
まぁリーシャさんはともかく、紅葉さんも一緒に渡す事になるとは思わなかったけれど。
「どうしよう紅葉。大切にしたいけれど、着けないのも違うわよね?」
「分かります。家宝にしたいのですが、それだと厳重に仕舞うしかないですし……そうすると身に着けられません……」
「うん、喜んでくれるのは嬉しいけど、二人の身を守る為に買った物だから、出来れば身に着けてほしいかな……」
「玲央君……」
「玲央さん……」
「それに、もし壊れたらまた買うし……」
「もう、そういう事じゃないのよ玲央君!」
「そうです玲央さん!」
え、ええぇ。どういう事なの? 高いとはいえ、装飾品だよ? 壊れたらまた買えば良いのでは……?
二人の身の安全には変えられないのだから、ちゃんと身に着けておいてほしいと思うのだけど。
それから食事をとり、部屋を別れるまで、終始ニコニコだった二人。
うん、あそこまで喜んで貰えたのなら、プレゼントした甲斐があったというものだよね。
そこで気付いた。そういう事か。
俺もプレゼントを貰って、ただの道具とは思えないもんな。
それが自分の推し達からなら、尚更だ。
俺なら家宝にして、厳重に封をしてしまうだろう。
二人も友人からの贈り物という付加価値をつけてくれて、大切にしようと思ってくれたんだ。
俺は恵まれているな、そう思いながら夜を過ごすのだった。
お読み頂きありがとうございますー!
題名が同じでどれだけ分割してるんだって話なので、次話は変えますね。(内容的に分割ですけど、ちゃんとそこで終わって新たに書いてるんですよ? 書き溜めしない派ですので(駄))




