41話.藤堂誠也の為に⑤
本日二話目です。
一歩神殿の中に足を踏み入れると、何かの領域の中へ踏み込んだような、違和感を感じた。
ダンジョン特有のそれだと思う。
特にここは海底だから、その違いが顕著に出たのだろう。
「中は比較的明るいのね?」
「そうですね。海底というくらいですから、もっと薄暗い雰囲気を想定していましたが……」
ゲームでは数歩先が闇な感じで見えなかったんだけど、どうやら実際のダンジョンはそうではないらしい。
一応光を発する魔道具を用意はしてきたけれど……この分だと必要なさそうだね。
そうして進めど進めど、モンスターは出ないし罠もない。
「ねぇ玲央君、何かおかしくない?」
「私もそう感じます。いえ、何がとは言えないのですが……」
二人の言わんとする事は俺にも分かる。
何かがおかしい。
そもそも、ダンジョンで一体もモンスターが出ないなんて事あるわけがない。
考えろ、何かゲームでもこんな……あああああっ!
「急いで入口へ戻るよっ! 走って二人とも!」
「「!?」」
思い出したっ! 疑似神殿巨大モンスター!
海底神殿そっくりの見た目で、大口を開けてただ待機しているだけのダンジョン型モンスター。
最初に感じた違和感、あれがそうだったんだ!
奥へ進めば進むほどモンスターの胃袋へと近づいていき、最奥へと辿り着いたと同時に胃酸が蔓延し、ゲームオーバーになるやつ!
まさか違いが全く分からない、神殿にこれ程まで似ているとは思わなかった!
「ど、どうしたの玲央君!?」
「何かに気付かれたのですか!?」
「うん! ここは、モンスターの胃の中だ!」
「「!?」」
「俺達は自分から、モンスターの胃の奥へ進んでたんだ! 道中にモンスターが居なかったのは、すでに食われた後!」
「「!!」」
来た道を走っていると、後ろから雪崩のような音がし始める。
「ねぇ玲央君……」
「あの玲央さん……」
「振り返っちゃダメだ! 多分俺達が気付いた事に気付いて、慌てて溶かそうとしてるんだ! アレに追いつかれたらおしまいだ! 今は急いで来た道を戻るんだ!」
「分かったわ、スピードを上げるわよ! 玲央君、手を!」
「!! うん!」
リーシャさんの伸ばした手を掴み、手を繋ぐ。
「紅葉はついてこれるわね!」
「勿論です! 玲央さんも私に任せて頂いても構いませんよ!」
「ふふ、流石に風を操る私より速くはないでしょう紅葉! いくわよ!」
「はいっ!」
のわぁぁぁぁっ!? 体が浮いてる、浮いてるぅ!?
凄まじい速さで走るリーシャさんの世界を垣間見る。
うん、これは、あれだ。
ジェットコースターに乗りながらシートがないやつぅ!
いや手は掴まれてるので離される事はないんだけど、俺今飛んでるぅー!
「はぁっ……はぁっ……」
「ここまで、くれば……大丈夫、ですか?」
「う、うん、ちょっと、待ってね、視界が、ぐわんぐわんしてる、から……」
「もう、リーシャが速すぎるせいですよ」
「し、仕方ないでしょ。玲央君を飲み込ませるわけにはいかないじゃない」
人ってこんなに早く走れるんだと変なところで感心してしまった。
これより速い美樹也って人間辞めてるな。
「……!」
顔を上げると、海底神殿(の姿をしたモンスター)がこちらを見下ろしていた。
「「!?」」
二人も気付いて剣を構える。
しかし、神殿は静かに、後ろへと動いている。
「戦う意思は無いって事かしら」
「でも、こんなモンスターを放っておくわけにも……」
「ううん紅葉さん。あのモンスターは、必要なんだ」
「「え?」」
そう、あのモンスターは入ってきた魔物を食べている。
人間も入ってきたら食べるのは変わらないけれど……そもそも、欲に駆られた人間以外、そうそう食われる事はないのである。
そして自分から襲うような事もないダンジョン型モンスター。
なら、虎の尾を踏むような真似はしなくて良いと思う。
ゲームでは倒しても良いアイテム落とさなかったっていうのもあるけど。
「あのモンスターが居るお陰で、海のモンスターはかなり減ってるはずなんだ。普通の魚はまず海底神殿へ行かないからね」
「成程……」
「自分から人間を襲うような事はないのでしょうか……?」
紅葉さんの懸念点は最もだと思う。
ゲームの知識でしかないから、確実とは言い切れないけれど……。
「多分大丈夫。現に、俺達を襲わなかったでしょ?」
「確かに……」
そうして俺は辺りを見回す。
すると、先程の神殿よりはるかにこじんまりとした神殿を見つけた。
「本来の海底神殿は、あれっぽいね」
「え、小さい、わね?」
「本当、ですね?」
うん、さっきの海底神殿の半分以下の大きさにしか見えない。
あれでは神殿というか、神社である。
「分からないけど……上の部分だけが出ているのかもしれないね。更に下に埋まっているのかも」
「成程……玲央君。今日は時間を大分ロスしてしまったし、続きは明日にしましょう。先に二つダンジョンをクリアしているのだし、焦る事はないわ」
「私もその方が良いかと思います玲央さん」
ふむ……確かに、もう結構良い時間が来てる。
帰りの時間を合わせると、引き時か。
「そうだね、今日はこれくらいにしておこうか」
「ええ、ありがとう玲央君。紅葉、ここから近いホテルってあるかしら?」
「はい、予め調べておきました。こうなると思って、連絡もしてあります」
「流石ね紅葉。それじゃ、今日はお世話になるわ」
「はい。我が社のVIPとして丁重に扱わせて頂きますね」
あれ、帰るのでは……?
ホテルって、本気だったの!?
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