8話.モブの能力測定
「どりゃぁぁぁっ!!」
パンチングマシーンのような見た目をした魔道具から、パコン という軽快な音が響く。
「榊 玲央、力Eランク」
おお、最低ランクのFじゃなかっただけ、努力した甲斐があったんじゃないか!?
まぁ低い方なのは変わらないのだけど。
ちなみに主人公である轟……この言い方もあれだな。
烈火はこのパンチングマシーンのような見た目をした魔道具を(名前を知らない)殴って破壊し、文句なしのSランクを叩き出している。
「ふっ……!」
「榊 玲央、速Eランク」
100メートル走のような、短距離走。
俺はどちらかと言えば長距離の方が得意なので、Fでないだけで御の字だと思っている。
記録も9秒58と、この世界では遅くはないけど特別速いわけでもない。
「うぉぉぉぉぉっ……!」
「……えっと、藤堂先生、これは……」
「うぅむ……いや、これは俺には判断できねぇな」
魔法陣の上で、Z戦士達が戦いの前に気を高めるがごとく、腰の横に手を構えて雰囲気だけ出してみた。
案の定、計測器を持った先輩方が困り顔である。
「榊 玲央、魔Fランク」
ですよねー。
分かってましたとも。
「いや、なんつうかこれは……お前、手を抜いてねぇか?」
「なんでそうなるんです!?」
藤堂先生が恐ろしい事を言ってくるので、反射的に答えてしまった。
俺は全力でやってますけど!?
「お前の周りの奴ら、全員が全員凄まじい記録を叩き出してんだよな。間違いなく今年のエース達だ。だが、その中心のお前がこの結果じゃ、疑っちまうのもしょうがねぇだろう?」
うぐっ……確かに、現状を見たらそうなんですけど。
でも本来、俺はモブなんですよ藤堂先生……! って言いたいぃぃぃっ……!
「……(分かってるぜ玲央。お前は実力を隠してんだよな)」
「……(分かっているぞ玲央。お前の実力はこんな測定器などで測れるものではないからな)」
「……(分かっていますよ玲央さん。何らかの事情がおありなんでしょう?)」
「……(分かってるわよ玲央。目立ちたくないからって、そんな事で誤魔化さなくて良いのに)」
主人公グループも俺の結果を見ていたようだ。
完全に白い目で見られ……あれ? なんで俺は分かってるぜ? みたいな雰囲気で頷いているんです?
俺の結果見たんですよね?
「あー、第三グループが耐久力のテスト始まるな。お前らもまだだろ、一緒にやってこい」
「うぃっス先生! よし、やろうぜ玲央!」
「フ……行くか玲央」
「うぇぇ、私走るの嫌いなんだよね……」
「最初に重りを選ぶみたいですが、玲央さんはどの重りにしますか?」
え? 重りなんてつけて走るの?
そもそも耐久力テストなんてゲームではなかったので、知らない展開だ。
「俺は何もつけないよ」
「「「「!?」」」」
そりゃそうでしょ。俺は皆と違って凄い才能があるわけじゃないし。
「なら俺もつけねぇでやるか!」
「ああ、玲央に合わせよう」
「異議なし!」
「そうしましょうか」
なんで?
皆は評価を上げる為にも、重りをつけた方が良いのでは?
この学校では評価が高ければ、それだけで特権のような物が与えられる。
訓練場の優先使用権であったり、学食の無償化など、ありがたい事だらけなのだ。
「ほぅ……」
あれ、藤堂先生がニヤリと笑った。
「……(やるな榊。この試験の意図を正確に読み取っている。持久力テストでは重力が掛かり、重りはその重さを増す。確かに重りをつけ"完走できれば"評価は上がるが……そも完走出来なければ評価は上がらんからな。欲張った者ほど自滅するわけだ。体力だけは、測定ではなく試験の意図もあるからな。体力のない者はそれだけで戦場で生き残れる確率が低い。現時点での問題点を洗い出す目的でもあるが……)」
なんだか寒気がした。
こう、背筋がブルっとする感じの。
「あら、榊君も今回のグループに出るのね。なら私も今回のに混ざろうかしら」
「リーシャさん!」
「お前は……」
「初めまして、皆。私はE組のリーシャ・エーデルハイト。榊君の友人でもあるの、よろしく」
「……ああ、俺は轟 烈火だ! よろしくな!」
「ふむ……相当の手練れだな。流石は玲央だな。俺の名は氷河 美樹也だ」
「お久しぶりですねリーシャさん。同じクラスになれなかったのは残念ですが、玲央さんのクラスには今後もよくお邪魔すると思いますので、仲良くしてくださいね」
「私は百目鬼 美鈴よ! 玲央の友達なら仕方ないわね!」
特に険悪になる事もなく、皆受け入れてくれたようだ。
ってどこ目線なんだ俺は。
俺達はスタッフの先輩から重りは受けとらず、スタート位置に並ぶ。
周りの参加者達は腕や足に重りを巻いている人も結構いた。
皆自信あるんだなぁ。
開始の合図と共に一斉に走り出す。
先を見ると、紫色の魔力があちこちに見える。
紫は罠の色だ。
つまり、あれに触れればなんらかの罠が発動するって事。
しかも所狭しと設置されていて、これは普通に走っていたら回避不可能である。
ま、見えてるからなんとかなるけどね。
わずかな空白だけを通り、走り抜けていく。
「はっ……はっ……!(す、すげぇな玲央。これだけの重力の中、平然と走ってやがる……!)」
「くっ……(やはり俺の目に狂いは無かったな。玲央、お前はやはり……!)」
「はぁっ……はぁっ……(これは、凄まじい重力ですね。こんな重力を受けながら、玲央さんは平然と……凄い方です)」
「ぐぅっ……これ、私にはちょっと無理かも……(私だけじゃない、烈火や西園寺さんに氷河まできつそうなのに、玲央はあんなに楽々走ってるなんて、化け物なの!? 魔法によるバフも禁止だし、一体どれだけ凄いのよ……!)」
「っ……(凄いわ榊君。この重力の中、まるで重力が掛かっていないかのようなスピードで……!)」
走り続け、なんと一着で終わってしまった。
「榊 玲央、体力Sランク!」
「「「「おおおっ!!」」」」
周りから歓声が上がった。
え、ただ走っただけなのに。
後ろを見ると、少し遅れて主人公グループとリーシャさんが到着した。
成程、俺を立てる為にわざとゆっくり走ってくれたのか。
皆優しいんだから。
「ククッ……そういう事か。お前の力、俺は見抜いたぜ」
「藤堂先生?」
「"魔眼"それがお前の力だな」
「「「「「!?」」」」」
え、それって魔王が唯一持ってる力じゃなかった!?
主人公グループやサブキャラクター全員、その力を持っているキャラクターは居なかったはず。
もしかして俺、魔眼の力をなめるなよ……! とか言えちゃうのかな!?
魔王炎殺黒龍波とか撃てたり……って魔力がほとんどない俺に撃てるわけないですけど。
「全てのトラップを回避するたぁな。ったく、この後に『才能看破』を使ってくれる先生の元に全員案内する予定だが……榊、それに轟、西園寺、氷河、百目鬼、リーシャの六人は先についてこい」
「「「「「!! はいっ!」」」」」
藤堂先生に呼ばれる事で、皆が色めき立つ。
それも仕方ない事だと思う。
何故なら、能力測定で藤堂先生に呼ばれるという事は、それだけで"特別な生徒"という証になるからだ。
問題は、何故か俺まで呼ばれちゃった事である。
力も速もEランクで、魔に至ってはFランクの俺が、"魔眼"があるというだけで呼ばれるの?
いや"魔眼"って確かに所持者が居ないという意味では特別なスキルだけど、そんな良いスキルじゃなかったような。
「おい榊、さっさとついてこい」
「!! あ、はいっ!」
皆が足を止めてこちらを見ていたので、急いで追いかけた。
いいね、ブックマーク、評価、感想どれも創作の力になりますので、応援お願いしますー。
2025年8月4日追記
※名前の変更
リーシャ・バレンタイン→リーシャ・エーデルハイト
詳しくは活動報告へ書かせて頂きましたので、気になる方はそちらでお願い致します。